第95回「仮想空間での商標権」

このコラムについて
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未来コンパスが、あなたの知らない未来を指し示します。

 第95回  「仮想空間での商標権」

ここ数年、メタバース(コンピュータネットワーク上の仮想空間)という言葉を当たり前に聞くようになりましたね。
メタバースにおいては、物の売り買いが既に行われており、いずれ現実社会と同じような経済活動がなされることが想定されているようです。経済活動があるということは、何らかの権利も生じるということ。知財はどうなるのでしょうか。


商願第2021-132597号(出願人:ナイキ イノベイト シーブイ)
【商標】

【指定商品/指定役務】
仮想商品、すなわち、オンライン上の仮想世界及びオンライン上で使用する履物・運動用 特殊靴・被服・帽子・眼鏡・バッグ・スポーツバッグ・バックパック・運動用具・美術品・ おもちゃ・身飾品及びこれらの付属品を内容とするダウンロード可能なコンピュータプログラム など


言わずと知れたナイキのスウォッシュマークです。
現実社会において、ナイキは、スニーカーを販売しており、スニーカーを権利範囲に含む商標権も取得しています。第三者がそのマークの付いたスニーカーを販売すると、ナイキの商標権を侵害するわけです。

では、その第三者が、メタバース上でアバターが履く「デジタルスニーカー」にナイキの商標を付けて販売した場合、ナイキの「スニーカー」に関する商標権の侵害となるでしょうか。「スニーカー」の権利で、メタバース上の模倣を阻止することができるのでしょうか。

日本では、おそらくNOです。
商標権は、類似する商品にまで権利を行使できるのですが、「スニーカー」と「デジタルスニーカー」が類似するとは判断されないと思われます。
商品の類否は、例えば「販売部門」「生産部門」「原材料」「用途」「需要者」などが一致するか等の観点から総合的に判断されるところ、現時点では、販売チャネルも生産場所も異なりますし、用途や需要者も違いがあるように思います。そうすると、スニーカーとデジタルスニーカーは類似しないと判断されそうです。

ナイキが保有する「スニーカー」に関する商標では、メタバース上の模倣を防ぎきれないという理由で、上記の商標出願をしたのだと思います。

未来コンパスが指すミライ

この考え方は、スニーカー以外にも当てはまります。たとえば、トヨタやマクドナルドもデジタル上の車や食べ物について権利が必要になるかもしれません(メタバース上で車や食べ物が必要になるのかは分かりませんが・・・)。

商標権を取得すべき商品が増えるということは、追加で費用や管理コストが発生するので、企業にとっては負担になります。裏を返せば、すぐに負担を許容できない企業もあるでしょうから、権利が取られずに残っている可能性も出てきます。メタバース上の権利は、特に初期において、空白地帯(=チャンス)が沢山あるかもしれません。

 

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 この記事を書いた人  

八重田 貴司(やえだ たかし)

外資系企業/法務・知財管掌。弁理士。
会社での業務とは別に、中小・ベンチャー企業への知財サポートをライフワークとする。クライアント企業が気づいていない知的財産を最大化させ、上場時の株価を上げたり、高値で会社売却M&Aをしたりと言った”知財を使って会社を跳ねさせること”を目指す。
仕事としても個人としても新しいビジネスに興味があり、尖ったビジネスモデルを見聞きするのが好き。

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