2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。
第202回「大企業の業務委託は加速する」
「電通が230人を個人事業主化」ってニュース。
まあ電通にかぎった話じゃないですよ。
タニタさんが有名ですけど。雇用から業務委託的への切り替え。この流れは大きくなっていきますか。
間違いなくそっちですよね。じゃないと保たないですもん。
会社がもたないってことですか。
そう、会社が保たないです。
再雇用で給料を半分にしてもムリですか。
訴訟も待っているじゃないですか。JR九州みたいに(笑)
たしかに。でもネットでは否定的な意見が多いですよ。
僕は逆の意見で、電通のこの取り組みは労使双方にとって、いいことだと思います。
無理やりやったわけじゃないし。230人が応募してきたわけですから。
まともな人ほどそうなりますよ。定年になって「いまからスキル磨け」は無理なので。
自分のスキルで稼げるように今から準備するってことですか。
そうです。非常に前向きで僕はとてもいいと思います。
私もそう思います。でも記事には「体のいいリストラじゃないか」って書かれていて。
リスクをちゃんと共有して、そのために「何をしなきゃいけないか」ってことを教えてあげる。こっちの方がよほど親切だと思う。
そうですよね。なぜいつもリストラの話に持っていくのか。
「社会保険料を会社が負担しなくていい」とか「これはコストカットだ」とか。そういうことばっかり言う。大体それのなにが悪いのか。
会社としたら当然の戦略ですよね。
退職金準備債務に怯えるより、1回清算して「さあどうしますか?個人としてやりますか?」って。電通だからリソースもすごく広いし分厚いわけで。
業務委託になっても稼げますか。
個人として利用することを考えたら、電通はすごく利用しがいのある会社です。
会社としてもリストラだと思われないように、「なんとか応援しよう」ってなりますし。
その通り。電通も変わろうとしてるんですよ。
これまでだったら、「フリーでやりたい」なんて言ったら、「ふざけんな!」って世界でしたよね。
そうそう。
ある意味すごくありがたいですよね。
そうなんですよ。なんでもっと好意的に報道してあげないのか。
今回の230人の平均年齢は52歳だそうです。
ちょうど僕の年齢ですよ(笑)
ちょっと遅すぎる気もしますけど。
残り10年しがみつくよりは、ぜんぜんいいです。
これに応募してこない人のほうが、むしろ危ないと。
おっしゃる通り。
けっこう優秀な人が応募してるんでしょうか。
電通だから仕事できる人もそれなりにいるわけで。成功事例が何十も出てくると思いますよ。
つまりこの流れは加速すると。
「高松先輩が個人で電通と契約したらしいよ。どこまでやるかねえ」なんていってたら、ひさしぶりに会った高松先輩が「おう!」なんてやたら明るくて(笑)
稼ぎも増えてて(笑)
「おまえもやったほうがいいぞ」なんて先輩が出てくると加速しますよ。
そんなにうまくいきますかね。
だって電通の名刺を持って仕事が出来るんですよ。この最大のメリットを使えるわけだから。自分で起業するよりは遥かに成功確率は高いと思う。
今回決断した人たちって、40代からちゃんと準備してたんですかね。
おそらくシュミレーションはしてたのでは。「俺には関係ないよ」ってタイプは、50を過ぎても会社にしがみつかざるを得ない。
仮に30〜40代で「フリーになりたい」って人が出てきたら、電通は受け入れるんでしょうか。
受け入れざるを得ないですよね。優秀な人にはずっと仕事をしてほしいから。
縁を切るメリットがないですもんね。
そうなんですよ。
本音では辞めてほしくないでしょうけど。
会社寿命より労働寿命のほうが長い時代ですから。「生涯約束することはできません」「お互いがいちばんいい関係で」ってなっていくのが自然です。
個人にとっても良いことですよね。
Win-Winだと思います。「電通のリソースを使ってやりたい」って人と、「優秀な人が仕事をしてくれれば、契約形態はどっちでもかまわない」という会社と。
とはいえ30代の人には、まだまだ社員として働いてほしいでしょうね。
そうとも限らないです。
そうですかね。フリーになったらギャラは給料より高くなっちゃいますよ。
フリーランスが増えることで、バリエーションも増えるじゃないですか。会社が選べるわけですよ。
バリエーションですか。
Aさんは確かにすごくいいんだけど、高い。Bさんはそこまでじゃないけど、ちょっと安い。会社が発注するバリエーションが増える。
なるほど。使い分ければいいと。
そう案件によって使い分ける。「これはさすがにエース級起用だな。高くてもしょうがないから安田さんにお願いしよう」「これは安田さんのレベルじゃないよ。石塚で十分だ」って。
ギャラが高くても儲かる案件だったらエース級に発注して。そこそこの利益だったら、そこそこの人に発注して。
そういうことです。外注だから選択できる。
優秀な人がどんどんフリーになったら、若手の育成はどうするんですか。
外部人材に発注しちゃえばいいんですよ。「この分ギャラ増やすから、育ててくれないか」って。
そんなことやってくれますか!?
ちゃんと育成料を払えば受けますよ。育てるのが好きな人もいますから。
確かに。自分で雇うリスクもないし。
その若手が将来、自分に仕事を発注してくるかもしれない。
なるほど。
元社員の外部の人材って、内部事情も知ってて客観的に見れるから適任ですよ。
育成に向いてない人もいますけどね。
人を育てられないような人には頼まなきゃいい。バリエーションが増えれば増えるほど、お互いにとってWin-Winなんです。
電通さんとしては、何割ぐらいをフリーランスにしたいんでしょうか。
20%ぐらいじゃないですか。20%が業務委託になったら生産性がかなり高くなる。すると必要な社員数が減っていく。
20%をうまく回せれば、残り80%も雇いつづける必要がなくなると。
そう。上からどんどん抜けていくから、人件費もコストもどんどん下がっていく。たぶん大企業はすべて電通パターンになると思います。政府もこれを推奨するでしょう。
石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。
安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。