第202回「大企業の業務委託は加速する」

この記事について

2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第201回「なぜ準備をしておかない?」

 第202回「大企業の業務委託は加速する」 


安田

「電通が230人を個人事業主化」ってニュース。

石塚

まあ電通にかぎった話じゃないですよ。

安田

タニタさんが有名ですけど。雇用から業務委託的への切り替え。この流れは大きくなっていきますか。

石塚

間違いなくそっちですよね。じゃないと保たないですもん。

安田

会社がもたないってことですか。

石塚

そう、会社が保たないです。

安田

再雇用で給料を半分にしてもムリですか。

石塚

訴訟も待っているじゃないですか。JR九州みたいに(笑)

安田

たしかに。でもネットでは否定的な意見が多いですよ。

石塚

僕は逆の意見で、電通のこの取り組みは労使双方にとって、いいことだと思います。

安田

無理やりやったわけじゃないし。230人が応募してきたわけですから。

石塚

まともな人ほどそうなりますよ。定年になって「いまからスキル磨け」は無理なので。

安田

自分のスキルで稼げるように今から準備するってことですか。

石塚

そうです。非常に前向きで僕はとてもいいと思います。

安田

私もそう思います。でも記事には「体のいいリストラじゃないか」って書かれていて。

石塚

リスクをちゃんと共有して、そのために「何をしなきゃいけないか」ってことを教えてあげる。こっちの方がよほど親切だと思う。

安田

そうですよね。なぜいつもリストラの話に持っていくのか。

石塚

「社会保険料を会社が負担しなくていい」とか「これはコストカットだ」とか。そういうことばっかり言う。大体それのなにが悪いのか。

安田

会社としたら当然の戦略ですよね。

石塚

退職金準備債務に怯えるより、1回清算して「さあどうしますか?個人としてやりますか?」って。電通だからリソースもすごく広いし分厚いわけで。

安田

業務委託になっても稼げますか。

石塚

個人として利用することを考えたら、電通はすごく利用しがいのある会社です。

安田

会社としてもリストラだと思われないように、「なんとか応援しよう」ってなりますし。

石塚

その通り。電通も変わろうとしてるんですよ。

安田

これまでだったら、「フリーでやりたい」なんて言ったら、「ふざけんな!」って世界でしたよね。

石塚

そうそう。

安田

ある意味すごくありがたいですよね。

石塚

そうなんですよ。なんでもっと好意的に報道してあげないのか。

安田

今回の230人の平均年齢は52歳だそうです。

石塚

ちょうど僕の年齢ですよ(笑)

安田

ちょっと遅すぎる気もしますけど。

石塚

残り10年しがみつくよりは、ぜんぜんいいです。

安田

これに応募してこない人のほうが、むしろ危ないと。

石塚

おっしゃる通り。

安田

けっこう優秀な人が応募してるんでしょうか。

石塚

電通だから仕事できる人もそれなりにいるわけで。成功事例が何十も出てくると思いますよ。

安田

つまりこの流れは加速すると。

石塚

「高松先輩が個人で電通と契約したらしいよ。どこまでやるかねえ」なんていってたら、ひさしぶりに会った高松先輩が「おう!」なんてやたら明るくて(笑)

安田

稼ぎも増えてて(笑)

石塚

「おまえもやったほうがいいぞ」なんて先輩が出てくると加速しますよ。

安田

そんなにうまくいきますかね。

石塚

だって電通の名刺を持って仕事が出来るんですよ。この最大のメリットを使えるわけだから。自分で起業するよりは遥かに成功確率は高いと思う。

安田

今回決断した人たちって、40代からちゃんと準備してたんですかね。

石塚

おそらくシュミレーションはしてたのでは。「俺には関係ないよ」ってタイプは、50を過ぎても会社にしがみつかざるを得ない。

安田

仮に30〜40代で「フリーになりたい」って人が出てきたら、電通は受け入れるんでしょうか。

石塚

受け入れざるを得ないですよね。優秀な人にはずっと仕事をしてほしいから。

安田

縁を切るメリットがないですもんね。

石塚

そうなんですよ。

安田

本音では辞めてほしくないでしょうけど。

石塚

会社寿命より労働寿命のほうが長い時代ですから。「生涯約束することはできません」「お互いがいちばんいい関係で」ってなっていくのが自然です。

安田

個人にとっても良いことですよね。

石塚

Win-Winだと思います。「電通のリソースを使ってやりたい」って人と、「優秀な人が仕事をしてくれれば、契約形態はどっちでもかまわない」という会社と。

安田

とはいえ30代の人には、まだまだ社員として働いてほしいでしょうね。

石塚

そうとも限らないです。

安田

そうですかね。フリーになったらギャラは給料より高くなっちゃいますよ。

石塚

フリーランスが増えることで、バリエーションも増えるじゃないですか。会社が選べるわけですよ。

安田

バリエーションですか。

石塚

Aさんは確かにすごくいいんだけど、高い。Bさんはそこまでじゃないけど、ちょっと安い。会社が発注するバリエーションが増える。

安田

なるほど。使い分ければいいと。

石塚

そう案件によって使い分ける。「これはさすがにエース級起用だな。高くてもしょうがないから安田さんにお願いしよう」「これは安田さんのレベルじゃないよ。石塚で十分だ」って。

安田

ギャラが高くても儲かる案件だったらエース級に発注して。そこそこの利益だったら、そこそこの人に発注して。

石塚

そういうことです。外注だから選択できる。

安田

優秀な人がどんどんフリーになったら、若手の育成はどうするんですか。

石塚

外部人材に発注しちゃえばいいんですよ。「この分ギャラ増やすから、育ててくれないか」って。

安田

そんなことやってくれますか!?

石塚

ちゃんと育成料を払えば受けますよ。育てるのが好きな人もいますから。

安田

確かに。自分で雇うリスクもないし。

石塚

その若手が将来、自分に仕事を発注してくるかもしれない。

安田

なるほど。

石塚

元社員の外部の人材って、内部事情も知ってて客観的に見れるから適任ですよ。

安田

育成に向いてない人もいますけどね。

石塚

人を育てられないような人には頼まなきゃいい。バリエーションが増えれば増えるほど、お互いにとってWin-Winなんです。

安田

電通さんとしては、何割ぐらいをフリーランスにしたいんでしょうか。

石塚

20%ぐらいじゃないですか。20%が業務委託になったら生産性がかなり高くなる。すると必要な社員数が減っていく。

安田

20%をうまく回せれば、残り80%も雇いつづける必要がなくなると。

石塚

そう。上からどんどん抜けていくから、人件費もコストもどんどん下がっていく。たぶん大企業はすべて電通パターンになると思います。政府もこれを推奨するでしょう。

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石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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