2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。
第215回「食えてしまう40代バイト」
バイトしないと食えない40代の教員がいるそうです。
実はいま教員がすごく不足しているんですよ。
ですよね。先生のなり手がどんどん少なくなってるらしくて。
そうなんです。
なのにバイト?
ところが、この40代の方が世の中に出たころって、ちょうどバブルがはじけたころで。どこの都道府県も新規採用の人数がとても少なかったわけです。辞める人も少ないし。
いわゆる氷河期というやつですか。
そうです。本採用の募集がなかったので臨時採用の教員をやってるわけです。通称「臨採(りんさい)」です。
臨採の教員ってそんなに食えないんですか。
「教員免許は持っています。教員採用試験には合格します。ただし呼び出しがない」という状態ですね。
先生が足りないのに?
臨採って欠員補充なので、いつ呼ばれるかわからないんですよ。
人が足りないなら正規雇用すればいいのに。
ほんと、そこを何とかしてあげればいいのにと思う。
どういう契約なんですか。
エントリーして登録しておくわけですよ。たとえば6月ぐらいに連絡が来て、「安田小学校でこれから1人欠けるから、7月から石塚さん来てください」って出番が来る。
出番がないときはどうしているんですか。
だからバイトしなきゃいけないんです。
売れない役者みたいですね。大変ですね。
そう。
やっぱり先生という仕事が好きだから、つづけていらっしゃるんですか?
そうなんですよね。でも20代後半になってくると結婚も考えるし。親からも「いつまでもそれじゃ駄目だろ」とか言われて。
諦めちゃう?
ふたつに分かれるんです。途中で断念するか、いつまでもつづけるか。
へえ〜。でも新たな教員採用はやっているわけですよね。
やってます。新卒メインで。
なり手が少なくなって困っているぐらいですから、実績のある人を中途採用してあげればいいのに。
ほんとそうなんですよ。
なぜそうならないんですか?
「年次構成を崩すから」ということがひとつ。
大企業みたいですね。
そうそう。
40代がいきなり新人で入って来られても困ると。
おっしゃる通り。使いづらいというのもあると思う。
なるほど。
「俺、いろんな小学校・中学校に行ってるから」ってなると、ちょっと使いづらい。
親の立場からすると新卒よりも、いろいろ経験してる先生のほうが頼り甲斐がありそうですけど。
そうですよね。優先的に本採用にしてあげればいいのにと思いますよ。
普通の雇用だったらそうなりますよね。3年を超えると正規雇用しなくちゃいけないというルールになっていて。先生はそうじゃないってことですか?
先生って長くても1回が1年未満なので。下手したら3か月とか2か月なんていうのもあるし。このくり返しなんですよ。
短期雇用の連続ということですか。
はい。
これって就職氷河期世代だけの話ですか。
そうとは限らないですけど。やっぱりその世代は多いです。
不運というか。かわいそうですね。
夢を捨てきれずに続けてきて、気がついたらこうなってしまったという感じ。
やっぱり本採用されることを目指してやってるんですか。
そうなんですけど。本採用になったとしても、また給与体系が最初からだから。
えっ!そうなんですか?
もちろんですよ。
なんと。
それでいいの?って話ですよね。多少の臨採の時の加算はあったとしても、ほとんど新卒と変わらない。
ひどい話ですね。
新卒と40代が同じテーブルでスタートするという。
それは厳しいですよ。本当に結婚できないというか、子育ての余裕なんてないですね。
だから多くの場合、学習塾で教えたり、家庭教師の先生をやったり。あとは体育系だとスポーツクラブとか。
さすがに40代になったら、どうするか決めないといけないでしょうね。
本当にかわいそうだと思うけど、30歳ぐらいのところで決断しなきゃいけない。40過ぎちゃったというのは、キャリアメイクとして本人の責任もあると思う。
今後さらに教員希望者が減っていったら、本採用になる可能性もありますか。
あり得ますけど、さっきも言ったように第1コーナーからスタートし直さないといけない。
新卒と同じ給料では、結婚して子供がいたりしたら生活できないですよ。
学校としては、臨時の教員も一定数抱えておきたいでしょうし。
それは便利だから?
コスト面もあります。臨時採用って、どういう給与の支払い方をしてると思います?
月給じゃないってことですか?時給ですか?
時給じゃなく、「1授業いくら」で払うんです。
1授業いくらぐらいなんですか?
信じられないぐらい安いです。確か1,500円ちょっとだったはず。
えっ、そんな安いんですか!?
そうなんですよ。だから、どこかでキャリアチェンジに踏み切るしかない。
40歳まで先生しかやってない方って、先生以外の仕事できるんですかね。
普通の企業ではまず採用されないと思います。
ですよね。
もう教育業界の周辺に行くしかないです。
見切りをつけるなら、もっと早くないとだめってことですか。
普通ならもっと早く見切りをつけるんですよ。でも先生って塾とか家庭教師で食えちゃうから。ズルズル続けてしまう。
普通は食えなくなっていきますもんね。
そう。だけど彼らは40代でも一応食えちゃうんですよ。
いいのか悪いのか。難しいところですね。
石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。
安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。