第215回「食えてしまう40代バイト」

この記事について

2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第214回「大人気!新卒ドライバー?」

 第215回「食えてしまう40代バイト」 


安田

バイトしないと食えない40代の教員がいるそうです。

石塚

実はいま教員がすごく不足しているんですよ。

安田

ですよね。先生のなり手がどんどん少なくなってるらしくて。

石塚

そうなんです。

安田

なのにバイト?

石塚

ところが、この40代の方が世の中に出たころって、ちょうどバブルがはじけたころで。どこの都道府県も新規採用の人数がとても少なかったわけです。辞める人も少ないし。

安田

いわゆる氷河期というやつですか。

石塚

そうです。本採用の募集がなかったので臨時採用の教員をやってるわけです。通称「臨採(りんさい)」です。

安田

採の教員ってそんなに食えないんですか。

石塚

「教員免許は持っています。教員採用試験には合格します。ただし呼び出しがない」という状態ですね。

安田

先生が足りないのに?

石塚

って欠員補充なので、いつ呼ばれるかわからないんですよ。

安田

人が足りないなら正規雇用すればいいのに。

石塚

ほんと、そこを何とかしてあげればいいのにと思う。

安田

どういう契約なんですか。

石塚

エントリーして登録しておくわけですよ。たとえば6月ぐらいに連絡が来て、「安田小学校でこれから1人欠けるから、7月から石塚さん来てください」って出番が来る。

安田

出番がないときはどうしているんですか。

石塚

だからバイトしなきゃいけないんです。

安田

売れない役者みたいですね。大変ですね。

石塚

そう。

安田

やっぱり先生という仕事が好きだから、つづけていらっしゃるんですか?

石塚

そうなんですよね。でも20代後半になってくると結婚も考えるし。親からも「いつまでもそれじゃ駄目だろ」とか言われて。

安田

諦めちゃう?

石塚

ふたつに分かれるんです。途中で断念するか、いつまでもつづけるか。

安田

へえ〜。でも新たな教員採用はやっているわけですよね。

石塚

やってます。新卒メインで。

安田

なり手が少なくなって困っているぐらいですから、実績のある人を中途採用してあげればいいのに。

石塚

ほんとそうなんですよ。

安田

なぜそうならないんですか?

石塚

「年次構成を崩すから」ということがひとつ。

安田

大企業みたいですね。

石塚

そうそう。

安田

40代がいきなり新人で入って来られても困ると。

石塚

おっしゃる通り。使いづらいというのもあると思う。

安田

なるほど。

石塚

「俺、いろんな小学校・中学校に行ってるから」ってなると、ちょっと使いづらい。

安田

親の立場からすると新卒よりも、いろいろ経験してる先生のほうが頼り甲斐がありそうですけど。

石塚

そうですよね。優先的に本採用にしてあげればいいのにと思いますよ。

安田

普通の雇用だったらそうなりますよね。3年を超えると正規雇用しなくちゃいけないというルールになっていて。先生はそうじゃないってことですか?

石塚

先生って長くても1回が1年未満なので。下手したら3か月とか2か月なんていうのもあるし。このくり返しなんですよ。

安田

短期雇用の連続ということですか。

石塚

はい。

安田

これって就職氷河期世代だけの話ですか。

石塚

そうとは限らないですけど。やっぱりその世代は多いです。

安田

不運というか。かわいそうですね。

石塚

夢を捨てきれずに続けてきて、気がついたらこうなってしまったという感じ。

安田

やっぱり本採用されることを目指してやってるんですか。

石塚

そうなんですけど。本採用になったとしても、また給与体系が最初からだから。

安田

えっ!そうなんですか?

石塚

もちろんですよ。

安田

なんと。

石塚

それでいいの?って話ですよね。多少の臨採の時の加算はあったとしても、ほとんど新卒と変わらない。

安田

ひどい話ですね。

石塚

新卒と40代が同じテーブルでスタートするという。

安田

それは厳しいですよ。本当に結婚できないというか、子育ての余裕なんてないですね。

石塚

だから多くの場合、学習塾で教えたり、家庭教師の先生をやったり。あとは体育系だとスポーツクラブとか。

安田

さすがに40代になったら、どうするか決めないといけないでしょうね。

石塚

本当にかわいそうだと思うけど、30歳ぐらいのところで決断しなきゃいけない。40過ぎちゃったというのは、キャリアメイクとして本人の責任もあると思う。

安田

今後さらに教員希望者が減っていったら、本採用になる可能性もありますか。

石塚

あり得ますけど、さっきも言ったように第1コーナーからスタートし直さないといけない。

安田

新卒と同じ給料では、結婚して子供がいたりしたら生活できないですよ。

石塚

学校としては、臨時の教員も一定数抱えておきたいでしょうし。

安田

それは便利だから?

石塚

コスト面もあります。臨時採用って、どういう給与の支払い方をしてると思います?

安田

月給じゃないってことですか?時給ですか? 

石塚

時給じゃなく、「1授業いくら」で払うんです。

安田

1授業いくらぐらいなんですか?

石塚

信じられないぐらい安いです。確か1,500円ちょっとだったはず。

安田

えっ、そんな安いんですか!?

石塚

そうなんですよ。だから、どこかでキャリアチェンジに踏み切るしかない。

安田

40歳まで先生しかやってない方って、先生以外の仕事できるんですかね。

石塚

普通の企業ではまず採用されないと思います。

安田

ですよね。

石塚

もう教育業界の周辺に行くしかないです。

安田

見切りをつけるなら、もっと早くないとだめってことですか。

石塚

普通ならもっと早く見切りをつけるんですよ。でも先生って塾とか家庭教師で食えちゃうから。ズルズル続けてしまう。

安田

普通は食えなくなっていきますもんね。

石塚

そう。だけど彼らは40代でも一応食えちゃうんですよ。

安田

いいのか悪いのか。難しいところですね。

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石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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