第217回「日本電産で証明されたこと」

この記事について

2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第216回「5%だけの大変化」

 第217回「日本電産で証明されたこと」 


安田

創業オーナーは一代限り?

石塚

例の日本電産の。

安田

創業者が戻ってきたニュースですか。

石塚

そう。

安田

そもそも日本電産ってどんな会社なんですか。

石塚

小型モーターの世界的なシェアを持っている会社で、M&Aで大きくしていった特徴がある。で、創業者は、後継候補を次々とヘッドハンティングするんですけど。

安田

けど?

石塚

ぜんぶ「ペケ」が付くんですよ。

安田

へぇ~。今回はすごく短かったみたいですね。

石塚

関さんは2年ぐらいじゃないですか。

安田

永守さんって経営者としては有名な方ですよね。中小企業の社長がすごく尊敬してるイメージですけど。

石塚

それは間違っていないです。

安田

世の中のみなさんは、一体なにを尊敬してるんですか?

石塚

ゼロからあそこまで会社を育てたところ。とくに凄まじいハードワーカーぶりじゃないですか。

安田

ハードワーカーなんですか。キーエンス的な?

石塚

ある部分はそうかもしれませんね。ただキーエンスほど仕組みで動いてない。どちらかというとワントップが強烈なトップダウン経営をしている会社。

安田

小型モーターで世界一ってことですが、特殊なモーターなんですか?

石塚

モーターって、いろんなところになきゃいけないんですよ。ものを動かすために。

安田

たとえば船とか、そういうのですか。

石塚

船だとちょっとでか過ぎ。あれはタービンなので。電気で回すモーターですね。

安田

ラジコンとかに付いてるヤツですよね。

石塚

電化製品とか。電気で動くあらゆるものって、基本的にモーターで駆動するわけですよ。

安田

なるほど。

石塚

だから裾野が広いんです。

安田

電気自動車もモーターですよね。

石塚

はい。そこは深く関わりがあります。

安田

そのシェアがすごいということですか。

石塚

そうです。

安田

正直モーターって、構造がすごくシンプルですよね。

石塚

そうですね。エンジンをつくるのとは違います。

安田

その分野で勝つということは、コスパがいい商品ということですか?

石塚

僕も詳しいわけじゃないけど、単価あたりの性能がとてもいいということだと思います。

安田

昔からずっと業績がいい会社なんですか。

石塚

たとえば工場で機械を動かすにもモーターが必要で。産業機械の現場って、ぜんぶ日本電産のモーターが使われていたりするわけです。

安田

へえ〜。膨大な量ですね。

石塚

はい。永守さんだからこそ、ここまで大きくできた。

安田

その秘密は「トップダウンのハードワークにある」ということですか。

石塚

もちろん研究開発の成果もあるでしょうけど。

安田

今回は社長が交代して業績が悪くなったんですか?

石塚

そうですね。けど、べつにものすごく業績悪化というほどじゃない。

安田

なのに交代させられたわけですか。

石塚

「自分がバトンを渡す人は、これぐらい伸ばさなきゃダメだ」という永守さんの目標設定が、めちゃくちゃ高いわけです。

安田

孫さんや柳井さんと似てますね。柳さんも引き継いだことありますよね?

石塚

はい。柳井さんは、いまロッテの社長をやってる玉塚さんを社長にして。会長に上がったけど、クビにして自分が社長に戻りました。

安田

みなさん同じパターンなんですね。

石塚

同じパターンですね。じっと見ていられない(笑)

安田

だけど孫さんにしても、柳井さんにしても、戻ってきて業績を伸ばしてるわけで。経営者としては優秀ってことですよね。

石塚

そうですね。

安田

「このまま死ぬまでやればいいんじゃないの」って気もするんですけど。

石塚

僕もそう思います。後継者なんて「自分が死んだら考えてくれ」って遺言ひとつ残して。会長室や社長室で倒れるまでやればいいんじゃないかなと。

安田

それもまた人生ですよね。

石塚

ただセブン&アイの鈴木さんみたいなパターンもあるので。

安田

どんなパターンですか。

石塚

もう言ってもいいと思うんだけど、認知症が入ってしまって。

安田

なるほど。いくら優秀でも人間ですからね。

石塚

しかもまだらだったから。

安田

まだら?

石塚

完全な認知症だったらまだいいんだけど。すごく冴えているときと、「は?」みたいなときの落差が激しくて。

安田

まわりも怖くて何も言えないですよね。

石塚

言えないですよ。

安田

「いま寝てたでしょ?」とか。本当は言いたいけれど。

石塚

いやいや。

安田

「社長、いま聞いてなかったでしょ?」みたいな瞬間って、絶対あると思うんですけど。

石塚

そういう話は実話として何社も聞いてます。誰も首に鈴を付けられなくて、みんなで見て見ぬふりという。

安田

プロ経営者みたいな人に任せて、自分はオーナーになっちゃえば楽だと思うんですけど。

石塚

もちろん、そういう方もいらっしゃいますよ。

安田

収入だけが目的なら任せたほうが楽ですよね。でも仕事自体が大好きな人はやめない気がします。社長業って楽しいですから。

石塚

おっしゃる通りですよね。株主総会で追求されるから「後継者は用意してます」と言わなきゃいけないけど。創業者にかなう社長はいないと思います。

安田

「そのやり方では」ってことでしょうけど。

石塚

そう。そのやり方が続くかぎり他の人では難しい。

安田

同じやり方だったら一番上手に決まってますよね。

石塚

そうなんですよ。だからお亡くなりにでもならないと入れ替えられない。

安田

私の場合は会社がなくなっちゃいましたけど。今から考えると社長の終活をもっと考えるべきでした。

石塚

よく分かります。

安田

「死ぬまで現役」みたいな方は、それはそれでひとつの生き方だと思いますけど。私は年相応に枯れていきたいですね。

石塚

生涯現役って人は、絶対に亡くなるまで止められないでしょう。

安田

生きている限り引き継ぎは無理だと。

石塚

「誰を後継候補に持ってきても成り立たない」ってことが、またしても日本電産で証明されたということです。

\ これまでの対談を見る /

石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

感想・著者への質問はこちらから