第235回「人がやるべき仕事」

この記事について

2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第234回「台湾有事で日本はどうなる?」

 第235回「人がやるべき仕事」 


安田

NHKのニュースをAIが読んでるって。

石塚

そうそう。

安田

私も人工音声の動画をつくったことがありますけど。多少の不自然さも含めて、またそれも味があって、ぜんぜん問題ないというか。

石塚

おっしゃる通り。NHKは「いまAIアナウンサーが読んでいます」ということをちゃんと画面に表示するんです。

安田

へえ〜、そうなんですか。

石塚

要するに定点的な交通情報とか、フラッシュニュースとか、それで十分なんですよ。

安田

医者も初診の誤診率が65%と言われてますから。AIをうまく使いながら診察する時代が来るんでしょうね。

石塚

間違いなくそうなりますよ。

安田

今までより精度の高い診察をして、さらに不要な人件費や労力を減らしていくという。

石塚

医者だろうが弁護士だろうがアナウンサーだろうが、うまくAIを使った人が勝ちますよ。

安田

AIに仕事を取られちゃう人も出てきますか。

石塚

AIに仕事を「取られる」「取られない」という発想をしちゃいけない。AIにできない所で一生懸命勝負やればいいんですよ。

安田

それしかないですよね。

石塚

ただしこれに触れちゃうと、日本がいちばん大事にしてきた「教育や価値観」が意味をなさなくなってくる。

安田

教育や価値観?

石塚

「記憶する」ということが要らないわけですよ、もう。

安田

確かに。記憶はいらないですよね。外部メモリーがものすごい性能だから。

石塚

AIの究極って「問題を見たときに自動で解ける」ということなので。つまり答えがぜんぶ頭のなかに入っている状況じゃないですか。

安田

スマホさえ持ってたらそうなりますよね。

石塚

僕らの時代には参考書を1冊丸暗記する必要があって。だからドラえもんの“暗記パン”みたいな発想が出てくるんです。

安田

食パン使って丸暗記しちゃうやつですね。

石塚

そう。ああ言うものに夢を抱けていたのも過去のことですよ。

安田

試験勉強ができる子って、電話番号を1,000件ぐらい暗記できるようなタイプでしたよね。

石塚

そう。成績優秀者のいちばんの特徴は記憶力がすごく高いこと。

安田

なんでもすぐ覚えちゃうし、覚えたら忘れないし。

石塚

安田さんはどちらかというと、ちょっと記憶が苦手だったタイプでしょ?

安田

はい。とくに漢字と年表と英単語を覚えるのがすごく苦手でした。

石塚

自分にとって意味がないと思うものを、強制されて覚えなければいけないから。

安田

そうなんです。人の名前を覚えるのも苦手で。名前って意味と繋がってないじゃないですか。たまたま先祖がそうだったというだけで。

石塚

分かります。ニックネームのほうが覚えやすいですよね。特徴と一致しているので。

安田

そうなんですよ。誕生日とかもまったく覚えられないです。

石塚

まあ、興味もないんでしょうね(笑)

安田

そうかもしれません(笑)

石塚

でもそこが日本人の伝統的な価値観なわけじゃないですか。教育とか勉強とかって記憶力と直結していて。

安田

確かにそうですね。

石塚

これはキャリアのベースになる価値観にも、ぜんぶ繋がっていて。「記憶なんかしなくてもいいじゃないか」となると、そもそも学校が要らなくなるわけですよ。

安田

今のようなやり方だと要らなくなりますよね。

石塚

不登校が増えている背景にはこういうこともあると思います。

安田

世界的にも「ハイソサエティ=知識人」という常識がありましたけど。いまやスマホがあれば情報はぜんぶ出てきちゃうので。

石塚

世界で言えば「知識をどう使うか」という方向に変わって来てます。日本は昔のままですけどね。

安田

なんで日本だけが昔のままなんですか。

石塚

結局そこを変えられないんでしょうね。

安田

変えることによって職をなくす人がいるとか、そういうことですか。

石塚

まず、変えようというリーダーがいない。そしておっしゃる通り、変えることによっていろんな利権を奪われる人たちがいる。あとは日本人の価値観ですね。

安田

日本人の価値観?

石塚

「勉強秀才こそがベスト」という価値観が本当に強いんですよ。勉強がよくできた人が優秀だっていう。

安田

勉強といっても、試験の点数ということですけどね。

石塚

そうそう。おっしゃる通り。インプットからのアウトプットというやつです。

安田

答えが決まっているものを暗記する能力。

石塚

そう。ミスなく再現する。ミスなく思い出す。

安田

たとえば弁護士さんも暗記力が大事ですよね。「過去の判例を使っていかに裁判に勝つか」みたいな。

石塚

日本の弁護士は特にそういう傾向が強いです。

安田

アメリカの弁護士は日本の弁護士さんの何百倍も稼いでいたりしますけど。やっぱり根本がちょっと違うんでしょうか。

石塚

おっしゃる通り。彼らは法律を使って新たな価値を生み出し続けてるんですよ。アナウンサーでもすごくウイットに富んだコメントするし。

安田

間違えずに原稿を読む人だけの人は、もう要らないと。

石塚

とくにNHKのアナウンサーに求められるものって、それじゃないですか。

安田

たしかに。ミスしないことですもんね。

石塚

あれを見たときに、「ああ、日本の根本的な価値観を、いよいよ変えざるをえない象徴的な出来事だ」って思いました。

安田

もう、ここには人間がやる価値がないってことですよね。

石塚

まじめなアナウンサーはもう要らないということですよ。でもこういう「NHKのアナウンサー」みたいな仕事って、至るとこに存在するわけじゃないですか。

安田

確かに。「言った通りに真面目に」というのが日本のビジネスの基本ですもんね。

石塚

そういう人たちは、たぶんAIと切り替わっちゃうでしょうね。

安田

いままでと同じような働き方をしていたら、仕事がなくなる人もいると。

石塚

AI化がもたらすものは、一言でいうと「働き手はアーティストやクリエイターにならなきゃいけない」ということ。

安田

こなすだけの仕事ではもう無理だと。

石塚

何かをつくり出したり、生み出したりすることに一生懸命にならないと。もう人間がやる仕事として認められない時代になったんだと思う。

安田

人間の価値というのは元々そうだったんでしょうけど。気がついたら管理して管理されるのが当たり前になっちゃって。

石塚

だから逆に創造欲求をフックにした採用って見事に成功するんです。

安田

一緒にやったジュエリービジネスの求人もそうでしたね。

石塚

そう。“自分がデザインしたものを売ってみたい”という強烈な欲求が根幹にあって。「仕事を変えてでも、給料が下がってでもやりたい」という人が増えてるわけですよ。

安田

増えてるんですね。

石塚

とくに若い世代を中心にそうなってます。そこを分かってない企業が、いまだに休みだの、報酬だの、風通しの良い社風だのを打ち出すんですよ。

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石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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