第260回「神になった男」

この記事について

2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第259回「新卒一括採用の裏側」

 第260回「神になった男」 


安田

Amazonが楽天を買収する、というシナリオがあるんですか?

石塚

まだ空想の域を出ない話ですけど。楽天の資金繰りがだいぶ厳しいのは事実ですから。

安田

そう言われてますよね。

石塚

はい。

安田

これは、やっぱり300億円騙し取られたからですか。

石塚

いやいや(笑)モバイル事業が赤字で、すべての事業のプラスを携帯電話事業が使い込んじゃってる訳ですよ。

安田

その事業をやめればいいだけじゃないんですか?

石塚

いや、だからそこですよ。三木谷さんがそこを降りないから。

安田

「もう球団も売却するんじゃないか」と言われてます。

石塚

おっしゃる通り。金融事業を売却して資金を捻出したり、だいぶ自分の持株比率も下がってきているみたいです。

安田

つまり資金繰りが厳しいということですよね。

石塚

おっしゃる通り。かなり厳しいと思います。

安田

そこにAmazonが登場して楽天を買収するわけですか。

石塚

 Amazonが楽天を買収したら日本はもう終わりですね。

安田

そうなんですか? 

石塚

だって日本にはAmazonか楽天しかないですから。それが1社になったら日本人にはもう選択肢がない。

安田

なるほど。

石塚

楽天の通販事業は黒字ですから。混乱に乗じて入手できればラッキーだと思ってるでしょう。Amazonにしてみたら売上が勝手に倍ぐらいになる話で。

安田

Amazonとすれば「買えるなら買いたい」ってことですか。

石塚

もちろん。ブランドは当面は変えないかもしれませんけど。楽天には楽天好きのユーザーがいるから。

安田

でも実質はAmazonになる。

石塚

それでAmazonのポイントと楽天のポイントが相互で使えたら、みんな大喜びじゃないですか。統合キャンペーンとかいって。

安田

三木谷さんはどれくらい株を持っているんですか。

石塚

三木谷さんは結構持ってましたよ。クリムゾンという持株会社を入れたら半分以上は持っていたはず。

安田

なんと!半分も。でも半分ぐらい持っていないと、あれだけの赤字を出して、普通だったらクビになっちゃいますもんね。

石塚

持株会社も入れると、もともと7割近く持っていたんじゃないですか。だから配当金がすごかったんですよ。昔から楽天はそれが有名で。

安田

給料で取るより税金がぜんぜん安いですからね。

石塚

安いです。2割払って終わり。配当は全部三木谷さんと奥さんの会社に行くから、そりゃ億万長者ですよ。

安田

通信なんてやらなければ安泰ってことじゃないですか。

石塚

まあそうなんですけどね。我々は部外者だから勝手にそんなことを言うけど、この事業をやるためにずっと戦略を書いてきたから。降りられないんでしょう。

安田

それはプライドの問題ですか?

石塚

どうなんでしょう。たぶん三木谷さんは、まだ頑張ればやれると思っているんじゃないですか。乗り切れると思っていらっしゃる。

安田

そう思ってないとやらないですよね。

石塚

やらないですよ。

安田

石塚さんは「通信を自己資本でやるのは無理だ」とおっしゃってましたよね。

石塚

そう思います。孫さんもスプリントを買収したけど、うまくいかなくて手放したじゃないですか。やっぱりね無理だと思いますよ。

安田

それは、あまりにもお金がかかるってことですか?

石塚

そう。やっぱりゼロから始めるには、インフラビジネスというのはあまりにもお金がかかりすぎる。市場が始まった時ならいいけど、もう先発が3社もいるわけで。

安田

そこに割って入って4社目は厳しいと。

石塚

厳しい。あらゆる業界がだいたい2強の時代に、携帯だけは3社いる。ひょっとしたら3社が2社になる可能性だってあるわけじゃないですか。

安田

そうですよね。他の業界を見ていたら。

石塚

そんな中で4社目って、たぶん儲からないと思う。

安田

でも三木谷さんに勝算があるってことは、「2強には入れる」という自信があるんでしょうね。

石塚

いや、ないでしょう(笑)

安田

えっ!ないですか?

石塚

本人は2強までは考えてないと思いますよ。

安田

あの三木谷さんなら考えるでしょう。強気ですから。

石塚

どうなんだろうなあ。

安田

石塚さんのおっしゃるように、4番手なんて大して儲からないじゃないですか。

石塚

うーん。まあトップってそう思うのかなあ。基本的に今までずっと成功してますからね、三木谷さん。「自分だったら何でもやれる」って思っているのかもしれません。

安田

絶対に思ってますよ。

石塚

勢いがあるときの経営者って、全知全能感があるのかも。

安田

それがないと、そもそも創業社長にはならないと思います。

石塚

まあ、そうですよね。

安田

自信を持ち続けているからこそ、あそこまで会社が大きくなっていくわけで。

石塚

でも成功し続けるって難しいですよ。実際に今回の事業では大きな壁にぶつかっているわけで。

安田

この通信事業が、どこかで軌道に乗りだすことは「ありえない」ですか?

石塚

ないですね。

安田

どこかで決別して手を引かなかったら、本当に危ないぞと。

石塚

もう危険水域ははるか越えているので。

安田

もう越えてるんですか?

石塚

いまからでも遅くないけど、かなりの傷を負いますよ。

安田

撤退する場合は、この事業をどこかに売るんですか。

石塚

たぶんKDDIあたりに二束三文で買われて終わりだと思います。

安田

いままでどれくらい資金を突っ込んでいるんですか。

石塚

調べてみないとわからないですけど、ものすごい金額ですよ。数千億は間違いなく投入してます。

安田

ひょっとすると兆単位かもしれないってことですか。

石塚

そう思います。

安田

でも売るとしたら二束三文だと。

石塚

投入した金額なんてまず回収できないです。

安田

まあ上場企業なので、三木谷さん個人が破産するわけでもないし。「俺でも失敗することはあるんだ」って割り切ってスパッとやめちゃえばいいのに。

石塚

誰も首に鈴つけられないんでしょうね。

安田

そんな話をしようものなら「ふざけんな!」ってなりますか。

石塚

翌日もう席がないでしょう。

安田

なるほど(笑)それは言えませんね。

石塚

三木谷さんはある時から“神様”になったんですよ。

安田

神様?

石塚

全知全能の神になったんだと思う。「俺はなんでもできる。俺にできないものはない」と。それしか考えられない。普通ならとっくにこの事業から降りてますよ。

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石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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