2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。
第302回「それでも初任給30万円払いますか」
退職代行サービスが大人気ですね。4月に入社したばかりの人から既に何百件も依頼が入っているそうで。早い人だと入社した日に退職代行に依頼するそうです。
そういう時代なんですよ。
入社前と話が違うとすぐ辞めちゃうみたいです。一昔前なら「入社させちゃえばこっちのもの」みたいな感じでしたけど。
中にはひどいケースもあるんですよ。聞いていたのと雇用身分が違うとか。実はどこかへの派遣社員だったとか。
昔はそれで通用してたってことですよね。
そう。だけど今はもう無理。あっという間に辞めていきますよ。退職代行会社から電話がかかってきて。
今でもそんな採用をしてる会社ってあるんですか?
ブラック企業って採用が強いから。
そうなんですか?
だって押しが強いから。クロージングは得意なわけですよ。「石塚くん、今決めようよ」みたいな。
え!それで決めてしまうんですか?
自分でノーと言えない人っているんですよ。
訪問販売で百科事典を買っちゃう人と同じですね。
そうなんです。そんな人にとって退職代行サービスはうってつけなわけですよ。自分で断れないんで。「いや、そんなの聞いてませんよ」ってことがあっても自分では言えない。
確かに利用者の7割は若手みたいですね。ただベテラン社員にもいるみたいですよ。退職代行を使う人が。
年齢が上の人に関してはプロ野球選手の代理人的に考えているんですよ。有給消化を認める認めないの交渉とか。
それって労働法で決まってるんじゃないですか。
決まってるけど自分では言いにくいんですよ。たとえば成績があまり良くない人とか、勤務評価がそれほど高くない人とか。「お前なんだこれ?給料満額でさらに60日の有給だと?ふざけんじゃねえよ」って上司に言われる。
なるほど。
だから「その件に関しましては私の代理人が交渉します」って。
若手の中にはビックリするような理由で辞めちゃう子もいるみたいです。「希望した部署に配属されなかった」とか。「この上司とは合わない」というだけで辞めちゃったり。
実際それで辞めちゃうんですよ。地方公務員が特に顕著だそうです。
地方公務員なんていい仕事なのに。
いやいや。今はカスハラもあって大変なんですよ。地方公務員試験に受かって、採用になって、配属が希望する部署じゃないと「ならやめます」ってあっさりだそうです。
せっかく試験に受かったのに。
今の若手は入社1年目からキャリアをすごく重視していて。キャリアにならないことをするのは自分のマイナスでしかないっていう考えですね。
新卒入社して最初の2〜3年なんて言われた通りやるしかない気もしますけど。
我々はつい「たった2、3年」とか言っちゃうんだけど。彼らにとっては「その2、3年が重要じゃないですか。その2、3年ですごいキャリアの差がつくんですよ」っていう感じですね。それが今のトレンド。
ある意味まともだと言えますよね。昔よりよほどしっかり考えてる。
しっかり考えてます。偏ってるかもしれないけど。
入ってすぐに辞める人間なんて「ダメ人材」の代表でしたけど。
今は若いってだけでどこに行ってもウエルカムですから。辞める側もそれは分かってる。我々の想像を超える完全な売り手市場なんですよ。
バブルの頃よりも強気ですよね。
あの頃は20代の数も多かったから。今はトップ100社の超大手を除けば、2度、3度、4度、転職したって、20代なら全部決まる。
まさにそんな感じですね。
需要と供給の実態が乖離してるから。求職者側もよく分かってますよ。
企業としては本人の意思を尊重して、職種とか、勤務地とか、上司とかも、選んであげなくちゃいけない?
新卒を採用するならそうですね。だから僕はずっと「新卒採用なんてやめればいいのに」って言ってるわけですよ。
そうでした(笑)
もう全部通年採用に切り替えて、研修がどれくらい必要かによって給料を決めたらいいんです。新卒初任給30万円とか、ああいうニュースみるとみんなバカだなと思う。
30万円なんて中小企業じゃ回収できないですよね。
絶対に無理です。
石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。
安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。