第41回「受け入れざるを得ない変化」

この記事について
税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第41回「受け入れざるを得ない変化」

安田

ドトールの休日問題ってご存知ですか?

久野

何でしたっけ。

安田

ドトールって休みが115日ぐらいあるんですよ。外食ではすごく多い。でも今回、有給が強制化されるじゃないですか。

久野

はい。義務化しました。

安田

それではやってけないってことで、祝日を出勤日にしてその日を「有給奨励日」にしたわけです。

久野

よくあるやつですね。

安田

今まで休日だった日が出勤日になって、休んだら有給が減っちゃうっていう。

久野

祝日も多いし、人も採れないし、現場が回らないんだと思います。

安田

「元々115日もあったんだからいいじゃないか」っていう意見と「詐欺だ!」みたいなのと、ネットでは二極化してるんですよ。

久野

紛糾しそうな話題ですよね。

安田

法的には問題ないみたいですけど。社員の代表がオッケーしてるらしいので。

久野

中小企業の現場も同じですけど、休日数を増やすと残業代も増えていくんですよ。計算式も変わってくるし。

安田

まあそうですよね。

久野

あとは労働時間イコール売上っていう商売じゃないですか。

安田

外食はまさにそうですね。

久野

ほとんどの中小企業も労働集約型なので、休みが増えると稼ぐ機会を失ってしまう。

安田

だから休みは増やせないと?

久野

経営者視点からするとやむを得ないだろうなと思う。けど世論は許さないですよね。

安田

世論は厳しいですけど、元々休みが少ない会社と多い会社があるわけで。そもそもそこが公平じゃないですか。

久野

そうですよね。

安田

有給を義務化する前に、年間休日数を115とか120とか義務化すべきなんじゃないかと思うんですけど。

久野

確かに。最低ラインだと本当は105でいいのに、ドトールは115あるわけですからね。

安田

そうなんですよ。

久野

105の会社が有給完全消化してもマックス125日しか休めないし。

安田

生産性を上げるために有給を義務化するのであれば、年間休日数の義務化もやらざるを得ないんじゃないですか?

久野

そうですね。年間の労働時間数みたいなところも含めて。

安田

ですよね。今回のドトールも「ズルい」って言われてますけど、元々休みが多い会社ほど有給義務化はこたえますよ。

久野

有給の日数だけ義務化されてもって感じですよね。

安田

そうですよ。しかも祝日はどんどん増えて行くし。最低年間休日110日とかにしちゃったほうがスッキリしませんか。

久野

それやっちゃうと従業員の利益が毀損しちゃうんですよ。110超えてる会社は何もやらなくていいって話になるので。

安田

でもそれは今までが不公平だったからじゃないんですか。

久野

そうなんですけど。気持ちとしては全員一律で有給5日の義務化といったほうが。

安田

公平に見えると。

久野

見えるし全体の底上げにもなる。でもどこかのタイミングではやるんじゃないですか。有給を完全消化した後に、今度は年間休日を115日にするみたいな。

安田

労働集約型の会社って、なんだかんだ言ってものすごく残業やってますよ。残業手当を払ってたとしても労働時間が長いのは否めない。

久野

機会損失になるので、どうしても労働時間は長くなっちゃいますね。

安田

自社だけ休むから機会損失になるんですよ。全部の会社が一斉に110日休めば他社には流れない。

久野

そうですよね。次のステップとしては絶対ありそうです。

安田

でもそうなると既に休み多い会社は「増やさなくていい」という話になりませんか?

久野

そうなりますね。

安田

本当は経営者も休みを増やしたくないわけじゃないんですよ。ただ利益を出さなきゃいけないので。

久野

まあそうなんでしょうけど。

安田

だからこそ「1人当たりの生産性が上がるアイデア」を出せってことじゃないですか。

久野

本当はそうなんですけどね。

安田

休みを増やして、なおかつ売上も上げる。利益も増やすっていう。

久野

もちろん経営者も考えてるんですよ。考えてるけどアイデアが出ない。

安田

ホントですか?中小企業の経営者って放棄してませんか。考えることを。

久野

いや、考えてる人は考えてます。

安田

それはどのくらいの割合ですか?

久野

2割ぐらい。

安田

たった2割ですか!

久野

高齢の経営者の方は難しいですよね。

安田

そういう人たちはどうしようと思ってるんですかね。これからどんどん苦しくなるのは目に見えてるじゃないですか。

久野

「どうすりゃいいのか考えるのが経営者の仕事だ」って安田さんおっしゃりたいんでしょうけど。「どうすりゃいいのか教えてくれよ」ってのが多くの経営者の考えですね。

安田

教えたら言うこと聞いてくれるんですか?

久野

いや、あまり聞いてくれないですね。「うちの業界ではちょっと難しい」とか「うちの業界のこと分かってないですね」みたいな反応です。

安田

そこはガツンと言わないと。

久野

前も話しましたけど怒り出しちゃうんですよ。

安田

怒ってもしょうがないじゃないですか。

久野

「厚労省の回し者か」みたいにアンケートには書かれます(笑)

安田

それは講演か何かで?

久野

はい。頼まれて講演するんですけど。「ひどい国だ」「ひどい社労士だ」って。

安田

完全に他責ですね。社員には「人せいにするな」とか言ってるくせに。

久野

「言ってることは分かるんですが、腑に落ちません!」みたいな(笑)

安田

別に落ちようが落ちまいが、どっちでもいいんですけど。

久野

昭和を生きてきた経営者は腑に落ちないんですよ、やっぱり。

安田

とうかいのお客さんは感度がいいって言ってませんでしたっけ?

久野

こんなこと言ったら怒られるかもしれないけど。他の事務所よりも意識の高いお客さんは多いと思います。

安田

そういうお客さんを久野さんが選んでるんですか?

久野

そんなことはしませんけど。でもある程度意識が高い人じゃなきゃ私に顧問を頼まないですよ。

安田

まあ確かに。耳が痛いこと言われますもんね。

久野

言わざるを得ないんですよ。これは私の意見じゃなくて世の中全体に起こっている変化なので。

安田

言ったら怒られるし、言わないとお客さんの経営が成り立たなくなるし。難しい立場ですね。

久野

ホントそうなんです。そこを分かっていただきたい(笑)


久野勝也
(くの まさや)
社会保険労務士法人とうかい 代表
人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。
事務所HP https://www.tokai-sr.jp/

 

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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