2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。
第314回「本当の人不足はまだ起こっていない」
「人が足りないのではなく給料が足りないだけ」なんて言われてまして。その仕事に見合う給料が払えないから人が集まらないだけだと。
その通りだと思います。
つまり問題の本質は人不足ではなく生産性の低さなんだと。
おっしゃる通り。コロナが明けたら急に人がいなくなった、人不足だって。これ半分以上はメディアが生み出した空気だと思います。
労働人口もまだそんなに減ってるわけじゃないですもんね。
そうなんですよ。少しずつ減り始めているけど2040年まで急激には減らない。メディアが「人が足りない」という空気を作ってしまって。みんなで自己暗示にかかってる。
なるほど。実際には人不足ではないと。でも求人に人が集まらないのは事実ですよ。
それは企業が相変わらず「誰でも来てください」みたいな求人をやってるから。そんなので来るわけない。採用ターゲットを明確にして、そこに向けてちゃんとメッセージを届けないと。マーケティングでは基本中の基本のことを採用業界はやってない。
「うちはいい会社です」みたいな求人ばっかりですよね。
ほんとそうなんですよ。一皮剥くと「これ誰でもいいんですか」ってこと。
集客と同じですね。せめて100人のうち2〜3人ぐらいまでは絞り込まないと。誰も振り向かなくなっちゃいます。
採用スキルの拙さというか。ちゃんとやれば出会える人を喪失してるような感じです。
みんなが「風通しのいい職場」を好むわけでもないし。
おっしゃる通り。和気あいあいとする職場がいいって人もいれば、そんなめんどくさいのは嫌だっていう人もいるわけです。
重要なのは相性ですよね。それと最低限の報酬。
はい。デフレ経済が終わった。インフレ経済になった。この脳の切り替えが経営者には必要だと思います。
まだまだ切り替えができていないと感じますか?
自分だけ結構な報酬を取ってる経営者が多いじゃないですか。
確かに多いですね。社員と比べて経営者とその家族だけ報酬が高いっていう。
それをもうバーンと放出する勇気が必要ですよ。
そんな余裕あるんですかね。社長と家族が食べていくだけで精一杯かもしれませんよ。
そういう会社はもう無理。だったら人を雇わない方がいい。
給料を増やさないと人が来ないですからね。現実的に。
5%ぐらい上げても何の効果もないです。20%以上上げればそれは来ますよ。
20%ですか。かなり厳しい数字ですけど金額にするとどれくらいですか?
20代未経験者で月額30万ですね。年収ベースで賞与を入れて450万とか。それくらい出せば来ますよ。
逆に言えば、それくらい出さないと来ない。
もうそういう時代ですね。インフレなんです。20代を採りたいと思ったら。
その金額が出せないなら、家族だけでやっていった方がいいってことですか。
おっしゃる通りです。
どうしても人が必要な会社はどうすればいいんですか?
利益を人件費に回すしかない。
その利益が出ていない会社は?
それができない会社は値付けを変えるか商品を変えるかしかない。そこに気付かないとダメですよ。
人件費を抑えて利益を出すのはもう無理だと。
無理ですね。最低限の報酬は必要。それプラス「そこにいることで自分の存在が確認できる仕掛け」を作ること。
「誰かの役に立っている」「求められてる」という実感ですよね。
はい。社外でも社内でもいいので「安田くんがいてくれるからほんと助かるよ」って。それは嬉しいですよ誰しも。
いわゆる内的報酬というやつですね。つまり最低限の外的報酬と内的報酬は必須。
そのためには丁寧な仕事とのマッチングが必要だってことですよ。もう大手企業でさえここに気付き始めてるので。中小企業は早く踏み出さないと手遅れになっちゃう。
まずはどこから手をつけるべきですか?
まずは儲かる仕事をしましょう、高い値段を取れる仕事をしましょうと。そこに全エネルギーを振り向けないと。
それができないんだったら人を雇わず家族で頑張っていくしかないと。
そういうことです。
石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。
安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。