第67回 自然に学ぶ、苔が生きる庭づくり

この対談について

庭師でもない。外構屋でもない。京都の老舗での修業を経て、現在は「家に着せる衣服の仕立屋さん(ガーメントデザイナー)」として活動する中島さん。そんな中島さんに「造園とガーメントの違い」「劣化する庭と成長する庭」「庭づくりにおすすめの石材・花・木」「そもそもなぜ庭が必要なのか」といった幅広い話をお聞きしていきます。

第67回 自然に学ぶ、苔が生きる庭づくり

安田

今日は苔についていろいろ教えていただきたいんです。「お庭に苔を生やしたい」という要望、多いんじゃないかと思って。


中島

そうですね。苔のリクエストはけっこう多いです。

安田

ですよね! 私も苔が好きで、植木鉢で育てようとするんですが、いつもすぐに枯れてしまって…。何かコツとか、「ここに気をつけるといい」ってポイントがあれば教えてほしいんですけど。


中島

基本的に、苔は日向ではきれいに育ちにくいですね。日陰で湿度が高い場所の方が向いています。

安田

少しジメジメしているぐらいの方がいいわけですね。確かにエアコンの室外機の周りに自然と苔が生えたりしますもんね。ちなみに苔も植物ですけど、日光は必要ないんですか?


中島

ええ。木漏れ日程度に光が当たるくらいで十分です。

安田

そうなんですね。ということは、もし「庭を一面苔で覆いたい」なんて人がいたら、むしろ光を遮るような木を植えなきゃいけませんね。


中島

そうですねぇ。さらに自動散水システムなどを活用すれば、苔をきれいに保ちやすくなります。

安田

ははぁ、やっぱり水やりが重要なんですね。…でも、水をやりすぎてもダメ、というのをどこかで読んだ気もするんです。


中島

仰るとおりで、あまり水をやりすぎると「ゼニゴケ」というへばりついたような苔が生えてきてしまうんです。修業時代に管理をさせていただいていた庭園でも、ゼニゴケを見つけると、水の量を減らしてゼニゴケが生えないようにしてました。

安田

水加減も注意が必要なんですね。ちなみに植木鉢で育てる場合はどうですか? お皿に水をためておけば湿度が保てそうですけど、それだと水が多すぎてしまったりするんでしょうか。


中島

常に水がたまった状態だと根腐れを起こしてしまうので、上からこまめにお水をかけてあげた方がいいと思います。

安田

ふむふむ。やっぱり植木鉢でもある程度手をかけてあげる必要があるわけですね。その場合も日が当たりすぎるとよくないんですか?


中島

日当たりのいい場所で苔を育てたい場合は、日向に強い「スナゴケ」という種類も使えますよ。日本庭園でよく使われる「スギゴケ」よりも背が低くて、ふっくらした印象です。

安田

へえ、おもしろいですね。見た目はスナゴケの方が苔らしい感じもしますけど。


中島

スナゴケは石や地面に乗っているだけなので、定着させるのがちょっと難しいんです。一方、スギゴケは根がしっかり付くので、庭に使いやすい。

安田

そうか。定着しないと枯れてしまうこともありますもんね。とはいえ、メンテナンスのことを考えるとスナゴケの方が簡単かなと思いましたが、どうですか?


中島

日向の場合はスナゴケが向いていますが、それでもきれいに育てるにはかなりしっかり管理する必要はあります。週に一度は手入れしないと、日向で苔を美しく保つのは難しいです。

安田

ふーむ。そう考えると、スギゴケを日陰で育てる方がハードルが低そうですね。

中島

そうですね。数年ごとに業者さんに見てもらって、病気になった部分を補修すればきれいな状態が保てると思います。あとは雑草が絡むと苔が傷んでしまうので、定期的に雑草を抜くことも重要ですね。

安田

そうか、雑草が生えると苔がダメージを受けるんですね。

中島

ええ。雑草の根が苔と絡んで剥がれることがあって。そういう意味で、雑草は苔の大敵です。

安田

なるほどなぁ。苔って意外にデリケートなんですね。いらないところには勝手に生えてくるのに、いざ育てようとすると難しい(笑)。

中島

本当ですね(笑)。

安田

ちなみにお寺などで庭石にきれいに苔が生えているのを見かけますが、あれは自然に生えたものなんですか? それともわざと生やしているんでしょうか?

中島

ほとんどは自然に生えたものですね。石の種類にもよりますが、基本的にはどんな石でも苔が付きます。上の木から樹液が落ちて石についていたりすると、さらに付きやすかったりして。

安田

ほう、なるほど。ということは、お庭でも意図しないところに苔が生えることがあるわけですね。でもあらためて考えると不思議です。勝手に生えてくるということは、空気中に苔の胞子のようなものが漂ってるってことですか。

中島

おそらくそうだと思います。自然に生えてくる苔がその場所に一番適しているので、無理に別の種類を植えるより、そのまま育てる方が管理も楽ですし、自然な雰囲気になります。

安田

ふむふむ。確かにそうですよね。無理に植え込むより、自然に生えてくるようにした方がいい苔が育つわけですね。今日は苔のマニアックな話を聞けて楽しかったです。


対談している二人

中島 秀章(なかしま ひであき)
direct nagomi 株式会社 代表取締役

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高校卒業後、庭師を目指し庭の歴史の深い京都(株)植芳造園に入社(1996年)。3年後茨城支店へ転勤。2002・2003年、「茨城社長TVチャンピオン」にガーデニング王2連覇のアシスタントとして出場。2003年会社下請けとして独立。2011年に岐阜に戻り2022年direct nagomi(株)設立。現在に至る。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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