第347回「三井住友銀行が導入した社内FA制度」

この記事について

2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第346回「郵便ポストが象徴しているもの」

 第347回「三井住友銀行が導入した社内FA制度」 


安田

社内FA制度ですって。これ何目的ですか?

石塚

若手がどんどん辞めちゃう時代だから。

安田

転職する前に社内で「異動の希望を出してよ」ってことですか。

石塚

そういうことです。銀行も人手不足なんですよ。

安田

三井住友銀行といえども?

石塚

足りない足りない。特に最近のメガバンクは文系をほとんど採らないので。

安田

銀行といえば国立文系のイメージですけど。

石塚

今はメガバンクの新卒はほとんど理系です。

安田

どんな仕事をするんですか?メガバンクで理系って。

石塚

入社したらまず営業店で修行して。

安田

そこは昔と同じですね。クライアント企業に行って融資関係の書類をもらって、みたいな仕事。

石塚

そういう仕事はほとんどデジタルに振っています。まず融資基準は全部デジタル化されてる。必要な書類を出してもらったら「はい、いくら」って決まるんですよ。

安田

なるほど。

石塚

昔のように経営者とひざ詰めで打ち合わせして、事業計画書と融資申請を出して、「1円でも多く融資を勝ち取る」っていう仕事はもう無い。

安田

じゃあ何をやってるんですか。

石塚

今エース級が一番割り振られているのはアプリですね。

安田

アプリ?

石塚

たとえばoliveというスマホのアプリがあって。個人だったらスマホで振り込みとか支払いができる。

安田

そのアプリを作っているわけですか。

石塚

そう。アプリを作ってる。

安田

都銀のアプリは使いにくいって聞きますけど。

石塚

三井住友は使い勝手いいらしいですよ。さくら銀行の時代からこの取り組みが一番早かったようで。

安田

さくら銀行?

石塚

金融サービスをiモードに結びつけてサービス化したのがさくら銀行。だから三井住友はデジタル化が強いんですよ。

安田

そのデジタル化をさらに強化していくために理系を採っていると。

石塚

おっしゃる通りです。できるだけ省人化・仕組化したいんですよ。

安田

求められているものが昔の銀行員とは全然違うんですね。

石塚

優秀な人ほど本部でデジタルをやらされる。そういう時代ですね。

安田

それは20代で?

石塚

もちろん20代で。

安田

昔みたいに「全国の支店を回って本部に戻ってくる」という仕組みはもうないんですか。

石塚

三井住友銀行は支店をゼロにしたいんです。引っ越しさせるとすぐ辞めちゃうし。

安田

なるほど。じゃあこのFA制度は理系のスタッフ向けですか。

石塚

文系も含めてですね。まだまだ拠点数もあって人手はいるし。銀行って優秀な人が多いから他社に刈られちゃうんですよ。旧帝大早慶レベルばかりだから。

安田

そこは欲しいでしょうね。ポテンシャルが高い人材として。

石塚

欲しい。銀行はそれを他社に刈り取られたくないんですよ。コンサルや外資系が狙ってくるから。

安田

刈り取る側としたら出来るだけ若いうちに刈り取りたいでしょうね。

石塚

いちばん欲しいのは26〜27じゃないですか。入社して5年ぐらいまで。営業店の経験もあって法人・個人がどう動くか知ってる。

安田

外資に行けばかなり報酬がアップするんでしょうね。

石塚

だからメガバンクも20代の報酬をどんどん上げてますよ。

安田

アプリ開発以外にはどんなことをやるんですか?

石塚

三井住友カードとの連携とか。電子マネーへの対応とか。金融サービスのあらゆることをやっていきたい。要するにお金にお金を稼いでもらうための仕組みを考えているわけです。

安田

なるほど。

石塚

フィンテックを駆使して「いろんなサービス考えろ」ってこと。そこに1人でも多くの優秀な人間が欲しい。

安田

銀行って企業を支える「準公務員的な仕事」じゃないですか。そういうカルチャーはもうないんですか。

石塚

ないですね。かつての都銀時代とは雰囲気も変わっています。本店でもスーツを着ていない男性がいたり。

安田

上司の逆鱗に触れて左遷されたりしないんですか?

石塚

今はもうピラミッド型の組織ではなくなっていて。一番大きいのは本店人事から人事権を剥ぎ取ったこと。必要なメンバーは「自分で見つけてこい」ってなったわけです。それがこのFA制度ですよ。

安田

社内の抵抗がすごそうですけど。

石塚

去年急逝された頭取さんがこれを押し進めたそうです。本人事の顔色を気にしてるようじゃ生き残れないって。素晴らしい決断ですよ。

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石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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