さよなら採用ビジネス 第83回「働かないおじさんは、どこから来た?」

この記事について

7年前に採用ビジネスやめた安田佳生と、今年に入って採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第82回『船から降りるベストタイミングはいつ?』

 第83回「働かないおじさんは、どこから来た?」 


安田

「働かないおじさん」って知ってます?

石塚

「はたらくおじさん」なら知ってますけど。

安田

むかしNHKでやってましたね「はたらくおじさん」。現場のいろんな仕事を特集して「おじさんたち頑張ってるんだね」っていう番組。

石塚

あれって洗脳番組だって知ってました?

安田

え!そうなんですか!?洗脳?

石塚

安田さんも見てましたよね。

安田

はい。小学生のとき授業で見てました。

石塚

我々の世代って小学校の授業にテレビであれ見せられたでしょ?

安田

たしか社会の授業で見てましたよね。

石塚

あれ、国ぐるみの洗脳番組だったんですよ。

安田

そんなたいそうなものには見えませんでしたけど。

石塚

あそこで取り上げられてた職種って覚えてます?

安田

いや、ぜんぜん覚えてないです。

石塚

警察官とか救急隊員もありましたけど、大半は製造業の工場労働者なんですよ。現場で働くことに美しさや意義を感じさせるように。

安田

たしかに製造現場の話は多かったです。

石塚

つまり国民を「質のよい製造現場の労働者」にするための番組。

安田

いくらなんでも考えすぎじゃないですか。

石塚

だって「働くおじさん」はいるけど、「働かせるおじさん」はひとりも出てこなかったでしょ?

安田

たしかに。

石塚

起業家とか経営者とか「こんな仕事もあります」みたいなのは、なかったじゃないですか。

安田

そうですね。

石塚

あれは間違いなく洗脳番組です。

安田

「現場は素晴らしいよ」っていう洗脳?

石塚

そう。「現場で汗を流して働くのは素晴らしいことだね」という。

安田

恐ろしい。

石塚

すみません。話が飛んじゃいました。「働かないおじさん」でしたっけ?

安田

はい。今すごく話題になってまして。働かないおじさんが企業の中でどんどん増えてるそうです。

石塚

今の雇用形態を続けるとそうなりますよ。必然の結果ですね。

安田

それはつまり欧米みたいなジョブ型雇用ではない、いわゆるメンバーシップ型と言われる雇用形態ですね。

石塚

そうです。欧米の場合は「どういうスペシャリストになるのか」っていうのを最初から決めて入社する。

安田

日本の場合は「みんなでいろいろ役割分担して、交代交代いろんなことをやろうね」みたいな。

石塚

そうです。たとえば中国ってパワハラがないんですけど。

安田

なんか、そうみたいですね。

石塚

それはなぜかっていうと、まさにジョブ型でしか雇用しないから。「こういう仕事やってもらうよ。給料いくらです」で、契約で握手して入る。

安田

パフォーマンスが契約に満たない場合はどうするんですか?

石塚

外部研修を受けさせて、それでもだめなら給料を下げるかクビを切るか。だからそこにあいまいなものが生まれない。

安田

なるほど。

石塚

日本は採ってから育てるので、何をやるかも流動的。

安田

何のために、そういうふうにしてるんですか?

石塚

戦後の雇用戦略ですね。終身雇用と年功序列で強い組織を作るっていう。

安田

それで強い組織になるんですかね?

石塚

いいときはいいんですよ。80年代は「日本型経営こそが世界でいちばん優れてる」って言われてました。

安田

一瞬だった気がしますけど。

石塚

そうですね。結局、景気が悪くなって会社に余裕がなくなると、45歳以上の働かないおじさんがいちばん重荷になってくる。

安田

そうなりますよ。

石塚

しかし賃金は年功序列で上がっていくから、若い人には働きもしないで毎日遊んでるように見える。

安田

実際そうなんですか?遊んでるんですか。

石塚

11時過ぎたら何度も腕時計見て、11時半になったら「メシ行こうよ」みたいな。

安田

そんなことが実際に行われてるんですか?

石塚

もう実名で言っていいと思うんですけど、目黒の駅前にパイオニアっていう音響メーカーがありまして。

安田

知ってますよ。あの有名なパイオニア。

石塚

かつて一世風靡した会社ですですけど、20年ぐらい前に経営がおかしくなって。

安田

そうなんですか?

石塚

はい。その頃、僕が担当してたんです。

安田

へぇ。初耳ですね。

石塚

いまでも忘れないんですけど、11時45分ぐらいになるとね、非常階段で地響きがするんですよ。

安田

地響き?

石塚

ドドドドドドドッ!と音するんですよ。「何の音だ?」と思ったら、少しでも早く社員食堂に行くために、非常階段でおじさんたちが駆け下りていくんです。

安田

なんでそんな早く行きたいんですか?

石塚

ちょっとでも早く行って長く休みたいからですよ。

安田

なんと!

石塚

あれ見て「ああ、パイオニアの再建は厳しいな」って思いました。

安田

じゃあ働かないおじさんは実在すると。

石塚

大企業には絶対います。

安田

会社が「これやってくれ」っていう仕事を、ずっと受け身でやってきたからですか?

石塚

そうです。だから何かに特化した専門性がない。

安田

昔は課長なり部長なりになって、ハンコをついとけば良かったんでしょうけど。

石塚

今はそんなにポストを作れませんから。

安田

じゃあ部下のいない「名ばかり管理職」ですか。

石塚

もう、いっぱいいますよ。

安田

そういう人たちが働かないおじさんに、なっていくんですか?

石塚

45歳を過ぎて管理職になれない人は、全員働かないおじさんになります。

安田

へぇ。大企業も大変ですね。

石塚

日本型雇用の“産業廃棄物”みたいなもんです。

安田

そういう働かないおじさんって、昔はいなかったんですか?

石塚

昔からいました。新橋で4時半ぐらいから飲んでるおじさん。

安田

それでもやっていけるぐらい会社に余裕があったと。

石塚

そういうことです。いまは余裕がないから「希望退職だ」「配置転換だ」って、そういう人にお引き取りを願うわけです。

安田

「自ら辞めよう」とはならないですか?

石塚

絶対なりません。「そんなの俺に言われても、先輩はみんなそうだったじゃんかよ」みたいな。「運が悪ぃよなあ」って思ってますよ。

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石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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