7年前に採用ビジネスやめた安田佳生と、今年に入って採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。
第83回「働かないおじさんは、どこから来た?」
「働かないおじさん」って知ってます?
「はたらくおじさん」なら知ってますけど。
むかしNHKでやってましたね「はたらくおじさん」。現場のいろんな仕事を特集して「おじさんたち頑張ってるんだね」っていう番組。
あれって洗脳番組だって知ってました?
え!そうなんですか!?洗脳?
安田さんも見てましたよね。
はい。小学生のとき授業で見てました。
我々の世代って小学校の授業にテレビであれ見せられたでしょ?
たしか社会の授業で見てましたよね。
あれ、国ぐるみの洗脳番組だったんですよ。
そんなたいそうなものには見えませんでしたけど。
あそこで取り上げられてた職種って覚えてます?
いや、ぜんぜん覚えてないです。
警察官とか救急隊員もありましたけど、大半は製造業の工場労働者なんですよ。現場で働くことに美しさや意義を感じさせるように。
たしかに製造現場の話は多かったです。
つまり国民を「質のよい製造現場の労働者」にするための番組。
いくらなんでも考えすぎじゃないですか。
だって「働くおじさん」はいるけど、「働かせるおじさん」はひとりも出てこなかったでしょ?
たしかに。
起業家とか経営者とか「こんな仕事もあります」みたいなのは、なかったじゃないですか。
そうですね。
あれは間違いなく洗脳番組です。
「現場は素晴らしいよ」っていう洗脳?
そう。「現場で汗を流して働くのは素晴らしいことだね」という。
恐ろしい。
すみません。話が飛んじゃいました。「働かないおじさん」でしたっけ?
はい。今すごく話題になってまして。働かないおじさんが企業の中でどんどん増えてるそうです。
今の雇用形態を続けるとそうなりますよ。必然の結果ですね。
それはつまり欧米みたいなジョブ型雇用ではない、いわゆるメンバーシップ型と言われる雇用形態ですね。
そうです。欧米の場合は「どういうスペシャリストになるのか」っていうのを最初から決めて入社する。
日本の場合は「みんなでいろいろ役割分担して、交代交代いろんなことをやろうね」みたいな。
そうです。たとえば中国ってパワハラがないんですけど。
なんか、そうみたいですね。
それはなぜかっていうと、まさにジョブ型でしか雇用しないから。「こういう仕事やってもらうよ。給料いくらです」で、契約で握手して入る。
パフォーマンスが契約に満たない場合はどうするんですか?
外部研修を受けさせて、それでもだめなら給料を下げるかクビを切るか。だからそこにあいまいなものが生まれない。
なるほど。
日本は採ってから育てるので、何をやるかも流動的。
何のために、そういうふうにしてるんですか?
戦後の雇用戦略ですね。終身雇用と年功序列で強い組織を作るっていう。
それで強い組織になるんですかね?
いいときはいいんですよ。80年代は「日本型経営こそが世界でいちばん優れてる」って言われてました。
一瞬だった気がしますけど。
そうですね。結局、景気が悪くなって会社に余裕がなくなると、45歳以上の働かないおじさんがいちばん重荷になってくる。
そうなりますよ。
しかし賃金は年功序列で上がっていくから、若い人には働きもしないで毎日遊んでるように見える。
実際そうなんですか?遊んでるんですか。
11時過ぎたら何度も腕時計見て、11時半になったら「メシ行こうよ」みたいな。
そんなことが実際に行われてるんですか?
もう実名で言っていいと思うんですけど、目黒の駅前にパイオニアっていう音響メーカーがありまして。
知ってますよ。あの有名なパイオニア。
かつて一世風靡した会社ですですけど、20年ぐらい前に経営がおかしくなって。
そうなんですか?
はい。その頃、僕が担当してたんです。
へぇ。初耳ですね。
いまでも忘れないんですけど、11時45分ぐらいになるとね、非常階段で地響きがするんですよ。
地響き?
ドドドドドドドッ!と音するんですよ。「何の音だ?」と思ったら、少しでも早く社員食堂に行くために、非常階段でおじさんたちが駆け下りていくんです。
なんでそんな早く行きたいんですか?
ちょっとでも早く行って長く休みたいからですよ。
なんと!
あれ見て「ああ、パイオニアの再建は厳しいな」って思いました。
じゃあ働かないおじさんは実在すると。
大企業には絶対います。
会社が「これやってくれ」っていう仕事を、ずっと受け身でやってきたからですか?
そうです。だから何かに特化した専門性がない。
昔は課長なり部長なりになって、ハンコをついとけば良かったんでしょうけど。
今はそんなにポストを作れませんから。
じゃあ部下のいない「名ばかり管理職」ですか。
もう、いっぱいいますよ。
そういう人たちが働かないおじさんに、なっていくんですか?
45歳を過ぎて管理職になれない人は、全員働かないおじさんになります。
へぇ。大企業も大変ですね。
日本型雇用の“産業廃棄物”みたいなもんです。
そういう働かないおじさんって、昔はいなかったんですか?
昔からいました。新橋で4時半ぐらいから飲んでるおじさん。
それでもやっていけるぐらい会社に余裕があったと。
そういうことです。いまは余裕がないから「希望退職だ」「配置転換だ」って、そういう人にお引き取りを願うわけです。
「自ら辞めよう」とはならないですか?
絶対なりません。「そんなの俺に言われても、先輩はみんなそうだったじゃんかよ」みたいな。「運が悪ぃよなあ」って思ってますよ。
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石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。
安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。