7年前に採用ビジネスやめた安田佳生と、今年に入って採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。
前回は 第92回『緊急の境目』
第93回「プロファイリングの手法」
石塚さんのお仕事について聞きたいんですけど。
はい。
石塚さんって「ハローワークの求人票をつくる人」って思われてますよね。
残念ながらそう思ってる人は多いです。
ですよね。でも私からすると「求人のプロファイリング屋さん」っていうのがピッタリなんですけど。
私もそのつもりでいます。求人票の作成は単なる手段ですから。
ちょっと今回はそこを掘り下げてみましょう。
ぜひ、よろしくお願いします。
石塚さんは、よく私に「詰め将棋に近い仕事だ」っておっしゃいますよね。
はい、すごく似てると思います。
そこのところを詳しく教えてほしいんですけど。
会社って、いろんな業界・業種があって、ポジショニングがあって、いまのステージがあって、そこに採用背景もあって、求人というものが発生する。
そうですね。
一方で人材マーケットも刻々と動いているわけです。僕の頭の中には、この両方のビッグデータが入ってる。
なるほど。
だから「こういう採用をするなら、ここがターゲットだ」というのが瞬時に割り出せる。それが僕の特技なんですよ。
いつも見てますけど、すごいですよね。
僕が「詰め将棋」と言ってるのは、今ある状況に「どう手を加えていけば、最後に詰むのか」つまり「採用・入社に至るか」を逆算してるから。
いつも見事に詰みますよね。
ありがとうございます。そこは自信があります。
具体的には、どんな手を考えていくんですか?
まず「このエリアの人」「こんな属性を持っている人」「こんなエピソードを持ってる人」という風にターゲットを絞り込んでいきます。
なるほど。
そのターゲットに合わせて「求職者メリット」を一手一手考えていく。「こうやったらこう受けて、だからこう指すからこう来るんで、こう」みたいな。
よく分かりませんけど、凄そう(笑)
そうやって一手一手寄せていくイメージです。
たとえば釣りとかにも近いんですか?何も考えずに海にポチャンと糸を垂らしても釣れないですよね。
似てますね。竿の種類とか、糸の太さとか、針の大きさとか、餌の種類とか、魚に合わせて仕掛けを考えていく感じ。
やっぱそうですよね。
ただ「釣り」という発想は、昔の採用のイメージが強いですけど。
そうですか?
どちらにフォーカスするかなんですよ。いまポジショニングが逆転してるので。
どちらにフォーカスするか?
はい。「釣る」というイメージではなく、「選んでもらう」というイメージ。
でもやってることは同じじゃないんですか?
バレちゃうんですよ。採用をやってる側が「採ってやる」とか「こういう条件出せば食いつくだろ」と思ってるのが。
バレると採用が失敗すると。
はい(笑)世の中が多様化して求職者の価値観も変わった。求職者に主導権があるというのがもう大前提。
なるほど。ではハローワークを使う理由は何ですか?
求人情報をなるべく多くのターゲットに認知させたいからです。
露出の量を増やしたいってことですか?
量というよりも期間ですね。ハローワークは掲載期間長くてもコストがまったくかからないので。
それって、つまり「間口を広げる」ってことですよね?
ちょっと違います。間口を広げるというのは「できるだけ多くの人に応募してもらう」というイメージ。
違うんですか?魚釣りでいうところの“まき餌”みたいな。たくさん集めて、そこに針を落とせば誰がやっても釣れる。
それは間違いです。こざかしいまき餌をしても、何気ない情報から一瞬にしてそっぽを向かれてしまう。
じゃあ撒き餌はしないんですか?
どんな魚も集まってくるような撒き餌はしない。それだと逆効果なので。
できるだけたくさん応募者を集めて「その中からいい人を選ぶ」ってのが、常道でしたけど。私がやってた頃は。
それは、かつての江副さん以来の母集団形成手法ですね。
もう古いと。
はい。母集団をなるべく大きくしてふるいにかける。これって主語が企業じゃないですか。企業がふるいにかけるわけですよね。
そうですね。
今はそうじゃないんですよ。個人が選ぶとしたら、どういう情報を得て、どんな過去や、プロフィールや、属性や経験値に刺さるのか。そこを考え抜く。
じゃあ、詰め将棋のゴールは応募の数を増やすことではない。
違います。狙ったターゲットに入社してもらうことがゴール。
なるほど。
自分に刺さらないと応募しようと思わない。逆に刺さると、かなりの割合で面接に来る。そして採用に至る確率も高い。
応募者の意思で動いてもらうことが大事ってことですね。
そういうことです。
で、採用に至れば、そこが「詰み」。
そうです。詰みです(笑)
ターゲットが自分の意思で動いてくれるように、どの駒をどう配置するかを考える。それが石塚さんの仕事ってことですね。
そうです。
なるほど。よく分かりました。ちなみにターゲットはどうやって絞り込んでいくんですか?
基本的なデータが頭に入ってまして。それと各所轄ハローワークが毎月出してる「求人求職バランスシート」というデータを常にチェックしてます。
そのデータから割り出すってことですか?
そうです。「この求人は、どのターゲットを狙うと一番相性がいいのか」ってことを考える。すると、おおよその人数まで絞れてくる。
へえ。犯罪者のプロファイリングみたいですね。今ある証拠から「おそらく30代、白人、男性で高学歴」みたいのを絞り込んでいく。
おっしゃるとおり。かなり似てます。
ターゲットは何人ぐらいまで絞り込むのですか?
その地域のターゲットが10人ぐらいになるまで絞り込みます。
ちなみにエリアはどのぐらいの広さなんですか?
東京23区だったら2~3区ぐらい。ただし実際に考えるときは、その会社から2キロ圏内でまずイメージします。
地域より仕事を優先する人もいますよね?
たまにいます。ただし知的付加価値の高い仕事を除けば、ほとんどの人はエリアをすごく重要視する。それが現代の若年層の傾向です。
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石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。
安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。