さよなら採用ビジネス 第93回「プロファイリングの手法」

この記事について

7年前に採用ビジネスやめた安田佳生と、今年に入って採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第92回『緊急の境目』

 第93回「プロファイリングの手法」 


安田

石塚さんのお仕事について聞きたいんですけど。

石塚

はい。

安田

石塚さんって「ハローワークの求人票をつくる人」って思われてますよね。

石塚

残念ながらそう思ってる人は多いです。

安田

ですよね。でも私からすると「求人のプロファイリング屋さん」っていうのがピッタリなんですけど。

石塚

私もそのつもりでいます。求人票の作成は単なる手段ですから。

安田

ちょっと今回はそこを掘り下げてみましょう。

石塚

ぜひ、よろしくお願いします。

安田

石塚さんは、よく私に「詰め将棋に近い仕事だ」っておっしゃいますよね。

石塚

はい、すごく似てると思います。

安田

そこのところを詳しく教えてほしいんですけど。

石塚

会社って、いろんな業界・業種があって、ポジショニングがあって、いまのステージがあって、そこに採用背景もあって、求人というものが発生する。

安田

そうですね。

石塚

一方で人材マーケットも刻々と動いているわけです。僕の頭の中には、この両方のビッグデータが入ってる。

安田

なるほど。

石塚

だから「こういう採用をするなら、ここがターゲットだ」というのが瞬時に割り出せる。それが僕の特技なんですよ。

安田

いつも見てますけど、すごいですよね。

石塚

僕が「詰め将棋」と言ってるのは、今ある状況に「どう手を加えていけば、最後に詰むのか」つまり「採用・入社に至るか」を逆算してるから。

安田

いつも見事に詰みますよね。

石塚

ありがとうございます。そこは自信があります。

安田

具体的には、どんな手を考えていくんですか?

石塚

まず「このエリアの人」「こんな属性を持っている人」「こんなエピソードを持ってる人」という風にターゲットを絞り込んでいきます。

安田

なるほど。

石塚

そのターゲットに合わせて「求職者メリット」を一手一手考えていく。「こうやったらこう受けて、だからこう指すからこう来るんで、こう」みたいな。

安田

よく分かりませんけど、凄そう(笑)

石塚

そうやって一手一手寄せていくイメージです。

安田

たとえば釣りとかにも近いんですか?何も考えずに海にポチャンと糸を垂らしても釣れないですよね。

石塚

似てますね。竿の種類とか、糸の太さとか、針の大きさとか、餌の種類とか、魚に合わせて仕掛けを考えていく感じ。

安田

やっぱそうですよね。

石塚

ただ「釣り」という発想は、昔の採用のイメージが強いですけど。

安田

そうですか?

石塚

どちらにフォーカスするかなんですよ。いまポジショニングが逆転してるので。

安田

どちらにフォーカスするか?

石塚

はい。「釣る」というイメージではなく、「選んでもらう」というイメージ。

安田

でもやってることは同じじゃないんですか?

石塚

バレちゃうんですよ。採用をやってる側が「採ってやる」とか「こういう条件出せば食いつくだろ」と思ってるのが。

安田

バレると採用が失敗すると。

石塚

はい(笑)世の中が多様化して求職者の価値観も変わった。求職者に主導権があるというのがもう大前提。

安田

なるほど。ではハローワークを使う理由は何ですか?

石塚

求人情報をなるべく多くのターゲットに認知させたいからです。

安田

露出の量を増やしたいってことですか?

石塚

量というよりも期間ですね。ハローワークは掲載期間長くてもコストがまったくかからないので。

安田

それって、つまり「間口を広げる」ってことですよね?

石塚

ちょっと違います。間口を広げるというのは「できるだけ多くの人に応募してもらう」というイメージ。

安田

違うんですか?魚釣りでいうところの“まき餌”みたいな。たくさん集めて、そこに針を落とせば誰がやっても釣れる。

石塚

それは間違いです。こざかしいまき餌をしても、何気ない情報から一瞬にしてそっぽを向かれてしまう。

安田

じゃあ撒き餌はしないんですか?

石塚

どんな魚も集まってくるような撒き餌はしない。それだと逆効果なので。

安田

できるだけたくさん応募者を集めて「その中からいい人を選ぶ」ってのが、常道でしたけど。私がやってた頃は。

石塚

それは、かつての江副さん以来の母集団形成手法ですね。

安田

もう古いと。

石塚

はい。母集団をなるべく大きくしてふるいにかける。これって主語が企業じゃないですか。企業がふるいにかけるわけですよね。

安田

そうですね。

石塚

今はそうじゃないんですよ。個人が選ぶとしたら、どういう情報を得て、どんな過去や、プロフィールや、属性や経験値に刺さるのか。そこを考え抜く。

安田

じゃあ、詰め将棋のゴールは応募の数を増やすことではない。

石塚

違います。狙ったターゲットに入社してもらうことがゴール。

安田

なるほど。

石塚

自分に刺さらないと応募しようと思わない。逆に刺さると、かなりの割合で面接に来る。そして採用に至る確率も高い。

安田

応募者の意思で動いてもらうことが大事ってことですね。

石塚

そういうことです。

安田

で、採用に至れば、そこが「詰み」。

石塚

そうです。詰みです(笑)

安田

ターゲットが自分の意思で動いてくれるように、どの駒をどう配置するかを考える。それが石塚さんの仕事ってことですね。

石塚

そうです。

安田

なるほど。よく分かりました。ちなみにターゲットはどうやって絞り込んでいくんですか?

石塚

基本的なデータが頭に入ってまして。それと各所轄ハローワークが毎月出してる「求人求職バランスシート」というデータを常にチェックしてます。

安田

そのデータから割り出すってことですか?

石塚

そうです。「この求人は、どのターゲットを狙うと一番相性がいいのか」ってことを考える。すると、おおよその人数まで絞れてくる。

安田

へえ。犯罪者のプロファイリングみたいですね。今ある証拠から「おそらく30代、白人、男性で高学歴」みたいのを絞り込んでいく。

石塚

おっしゃるとおり。かなり似てます。

安田

ターゲットは何人ぐらいまで絞り込むのですか?

石塚

その地域のターゲットが10人ぐらいになるまで絞り込みます。

安田

ちなみにエリアはどのぐらいの広さなんですか?

石塚

東京23区だったら2~3区ぐらい。ただし実際に考えるときは、その会社から2キロ圏内でまずイメージします。

安田

地域より仕事を優先する人もいますよね?

石塚

たまにいます。ただし知的付加価値の高い仕事を除けば、ほとんどの人はエリアをすごく重要視する。それが現代の若年層の傾向です。

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石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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