地元国立大学を卒業後、父から引き継いだのは演歌が流れ日本人形が飾られたケーキ屋。そんなお店をいったいどのようにしてメディア取材の殺到する人気店へと変貌させたのかーー。株式会社モンテドールの代表取締役兼オーナーパティシエ・スギタマサユキさんの半生とお菓子作りにかける情熱を、安田佳生が深掘りします。
第10回 ヒットのカギは「コンセプト」と「パフォーマンス」

スギタさんは『ハーベストタイム』というケーキ屋さんでも『スギタベーカリー』というパン屋さんでも、いくつものヒット商品を生み出されてきました。例えば『百年のロールケーキ』とか『食パンラスク』とか。これってどうやってヒットしたのかお聞きしてもいいですか?

以前、オープン直後から『ハーベストタイム』が流行ったのは、ランチがキッカケだったとお話しました。これって僕は、「食後にショーケースから好きなケーキが選べる」という仕掛けがヒットしたんだと思っているんですね。

で、その「コンセプト」に惹かれて来店してくださった方に「美味しかった」と満足してもらうのが「パフォーマンス」。パフォーマンスが良ければ、お客様はリピートしてくれますよね。だからヒットするかどうかは「コンセプト」と「パフォーマンス」の掛け算になるんです。

ははぁ、「コンセプト」で惹きつけ、「パフォーマンス」でリピーターにさせると。なるほどなぁ。「百年のロールケーキ」もそういう仕掛けなんですか?

そうですね。これはネーミングが「コンセプト」になった商品です。そもそも僕らの業界って、商品に地名にちなんだ名前をつけることが割と多いんですよね。例えば広島で作っているから「広島ロール」みたいに。

そういうことです。そんな時、酒屋さんで偶然『百年の孤独』という麦焼酎を見つけて、閃いたんですよ。「そういえばウチって、じいちゃんの時代から数えたら3世代・100年以上にわたってケーキ屋さんをやってるじゃん」って。

仰るとおりです(笑)。で、これは拝借させていただこうと思って『百年のロールケーキ』っていう商品名にしました。そしたらまずメディアが食いついてくれて。「100年前から変わらぬ味を守り続けているんですよね?」って。

そうなんです(笑)。もちろん僕も「昔の味を今風にアレンジして作り変えているんですよ」とは伝えましたけど、今度はその放送を見ていた人が「千年ロールをください」って来店してくださるわけです(笑)。

なるほどなぁ。では『食パンラスク』はどうでしょう?

はい。食パンはスギタベーカリーがオープンしてからずっと1番人気の商品で、毎日完売していました。でもせっかく買いに来てくださったのに「もう売り切れました」って言うのは申し訳ないから、たくさん焼くようにしたんです。

恥ずかしながら、そうなんです(笑)。でもせっかく一番人気の食パンを使ってるんだし、それがすぐに伝わる「食パンラスク」っていうシンプルな名前に変えることにして。で、ついでに商品ロゴも作ったりパッケージも変えたりしたんです。

はい。で、それまでは袋にガサっと入れて250円で売っていたんですけど、少しカチッとしたスタンドパックにキレイに入れて、ちゃんと商品ロゴのシールも貼って、倍の500円で販売してみることにした。そしたら今までの倍以上売れまして(笑)。

まさにそうです。今でこそ「高級食パン」というジャンルができて、食パンを手土産にすることも増えてきましたけど、僕がパン屋さんを始めた頃はそうじゃなかった。だけどラスクになることで日持ちもするし、ちょっとしたギフトになるポテンシャルがあったんですよ。

いやぁ、発想力が素晴らしいです。もちろん「美味しい」というのが大前提ですけど、それだけではヒット商品は生まれない。ネーミングも含む「コンセプト」が、商品をヒットさせるためのカギだということが、よくわかりました。
対談している二人
スギタ マサユキ
株式会社モンテドール 代表取締役
1979年生まれ、広島県広島市出身。幼少期より「家業である洋菓子店を継ぐ!」と豪語していたが、一転して大学に進学することを決意。その後再び継ぐことを決め修行から戻って来るも、先代のケーキ屋を壊して新しくケーキ屋をつくってしまう。株式会社モンテドール代表取締役。現在は広島県広島市にて、洋菓子店「Harvest time 」、パン屋「sugita bakery」の二店舗を展開。オーナーパティシエとして、日々の製造や商品開発に奮闘中。
安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。