第20回 ケーキ好きが、いつまでもケーキ好きでいられるための環境づくり

この対談について

地元国立大学を卒業後、父から引き継いだのは演歌が流れ日本人形が飾られたケーキ屋。そんなお店をいったいどのようにしてメディア取材の殺到する人気店へと変貌させたのかーー。株式会社モンテドールの代表取締役兼オーナーパティシエ・スギタマサユキさんの半生とお菓子作りにかける情熱を、安田佳生が深掘りします。

第20回 ケーキ好きが、いつまでもケーキ好きでいられるための環境づくり

安田

以前の対談の中で、せっかく製菓の専門学校に入ったのに、卒業後の進路はケーキづくりと全く違う仕事を選ぶ人も少なくないと仰ってましたよね。


スギタ

そうなんですよね。あるいはパティシエとして働き始めても、独立のハードルがかなり高いので、どこかで心が折れて別の仕事に転職していったり。

安田

ふーむ。でもパティシエってわりと人気の職種じゃないですか。子どもの頃に「ケーキ屋さんになりたい」っていう子、たくさんいますよ。それでも離職率は高いんですか?


スギタ

めちゃくちゃ高いですね。たぶん7〜8割じゃないかな。

安田

そんなに! それはやはり「単調なケーキづくり」に飽きてしまうからなんでしょうか。前回のお話ではないですけれど、毎日ロールケーキだけを作り続ける日々が何年も続いて、嫌になってしまうんですかね。


スギタ

それはあると思いますね。毎日同じものを同じクオリティで買えるって、お客様側としてはいいことなんですけど……作る側としては飽きやすい、退屈になってしまう、ということでもあって。

安田

うーん、確かにずっとロールケーキばかり作り続けていたら、だんだん飽きてきちゃうか。「食べ物を作っている」という感覚すらなくなっていきそうな気もします(笑)。


スギタ

そうなんですよ。「これ以上続けるとお菓子が嫌いになりそう」という理由で辞める方もいるくらいですから。あとは単純に、めちゃくちゃハードワークなんですよ。身体的に続けられないという方も多いですね。

安田

ははぁ、なるほど。でもやっぱりもったいない気がしますね。せっかく修行して、経験や知識を得たのに、辞めてしまうなんて。


スギタ

そうなんですよ、本当にもったいない。子どもの頃からの夢を叶えるために、何百万円も払って専門学校に通って。それでようやく就けた仕事なのにって、僕も胸が痛みますね。

安田

そうでしょうね……。ちなみにスギタさんは、社員さんのモチベーションを下げないよう、何か工夫されていたりするんですか?


スギタ

作業に飽きることがないように、ポジションチェンジは、かなり意識的に頻繁に行っていますね。それにジョブチェンジも可能です。

安田

それは『ハーベストタイム』から『スギタベーカリー』への異動ができる、ということですか?


スギタ

ええ、そうです。何年間かケーキ屋さんをやった後にパン屋さんをやると、また全然違う楽しさがあると思うんです。気持ち新たに「ものづくりの楽しさ」や「新鮮さ」を感じてもらいたい、とでもいいますか。

安田

スギタさんご自身もいろいろと同時にやっていたからこそ、4年間の修行時代を飽きることなく乗り越えられたと仰っていましたもんね(笑)。


スギタ

そうですそうです(笑)。自分が実際に体験しているからこそ、そういった環境づくりの重要さは人一倍意識しています。

安田

なるほどなぁ。そういった想いが根っこにあったからこそ、社員の独立支援・マイクロビジネス支援という発想につながっていったのかもしれませんね。


スギタ

それは大いにあります。一度はケーキ作りから離れてしまった方でも、「こういう働き方だったら、また挑戦できるかも」と思っていただけるような仕組みを作っていきたいんです。

安田

ははぁ、なるほど。つまり、ケーキ好きな人だった人がずっとケーキ好きでいられるための仕組みだと。


スギタ

仰るとおりです。この業界って、結婚や出産のタイミングで退職しちゃうケースもすごく多くて。そういう方たちのためにも、新しい活躍の仕方を用意してあげたいんです。

安田

とはいえ「独立」してしまうと、社員時代よりハードワークになるんじゃないですか? 全部1人で切り盛りしながら、売上も立てなきゃいけないわけで…。


スギタ

確かに「月100万円稼ぐ」となったらめちゃくちゃ大変ですよ(笑)。でも「月30万円」とか、あるいはパートとして「月10万円」くらいを稼ぐのであれば、そこまで激務にはならないのかな、と。

安田

そうか。独立したからといって、必ずしも「ガツガツ稼ぎたい」という人ばかりではないということですね。でも、スギタさんの立場としては、「月30万円」より「月100万円」の方がいいわけじゃないですか。それだけロイヤリティが増えるわけで。


スギタ

うーん、正直言うと、まだそこまでは考えられていないですね(笑)。ただ、僕らとしては、「マイクロビジネスを応援する取り組みをしている」ということが、新たなリクルートにつながればいいなという思いもありまして。

安田

ああ、なるほど。「なんだかユニークなことをやっている会社だぞ」と興味を持ってもらう作戦なわけですね(笑)。


スギタ

そうそう(笑)。「自分の本当に表現したいものが作れて、しかも社員の時よりも稼げる」という仕組みがあり、それが「ビジネス」としてもちゃんと成立している。そういうところに魅力を感じてくれた方が入社してくれたら嬉しいですね。

安田

素晴らしいですね。とにもかくにも、スギタさんの会社から「雇わない経営」の1店舗がついにOPENしたわけです。「ケーキ好きな人がケーキ好きで居続けられるような働き方」の第一歩となるよう、私も応援したいと思います!


対談している二人

スギタ マサユキ
株式会社モンテドール 代表取締役

1979年生まれ、広島県広島市出身。幼少期より「家業である洋菓子店を継ぐ!」と豪語していたが、一転して大学に進学することを決意。その後再び継ぐことを決め修行から戻って来るも、先代のケーキ屋を壊して新しくケーキ屋をつくってしまう。株式会社モンテドール代表取締役。現在は広島県広島市にて、洋菓子店「Harvest time 」、パン屋「sugita bakery」の二店舗を展開。オーナーパティシエとして、日々の製造や商品開発に奮闘中。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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