地元国立大学を卒業後、父から引き継いだのは演歌が流れ日本人形が飾られたケーキ屋。そんなお店をいったいどのようにしてメディア取材の殺到する人気店へと変貌させたのかーー。株式会社モンテドールの代表取締役兼オーナーパティシエ・スギタマサユキさんの半生とお菓子作りにかける情熱を、安田佳生が深掘りします。
第6回 2店舗目をパン屋にしたのは、競合店封じのため

スギタさんの会社は、『ハーベストタイム』というケーキ屋さんと『スギタベーカリー』というパン屋さんの2店舗を経営されています。そもそもなぜ2店舗目をケーキ屋さんではなくてパン屋さんにしたんでしょう。

そういうことになりますね。で、そこが空き店舗になるということで、当然、銀行からお声がかかるわけですよ。「今よりも立地がいいですし、駐車場も広くなりますよ。こちらに移転されたらどうですか?」って。

ははぁ、なるほど。でも確かスギタさん、お父さんから継いだお店を1800万円かけて作り直したんですよね。そんな簡単に移転なんてできないんじゃ?

まさに仰る通りで。例えばすでに人気のある個人店が、その場所に2号店・3号店としてオープンする可能性もあるわけです。そうなるとチェーン店よりも戦いづらい相手になってしまう。その危機感もすごくありました。

そういうことです。そんな時、神戸で修行していた『ダニエル』のことを思い出したんですね。「そういえば、ダニエルって多業態展開していたよな」と。

ああ、確かに。スギタさんもカフェやレストランで働いていたって仰っていましたもんね。

クリスマスとかバレンタインとか、いろんなイベントに関われるケーキ屋が羨ましかったんですって。ほら、パン屋ってそういうイベントには無縁じゃないですか。だからウチでケーキ作りの修行を積んで、ゆくゆくはケーキとパンの両方を出すお店がしたいと。

DONQっていう大きなチェーン店のパン屋さんで働かれていた方でしたね。

もう全然違いました(笑)。これほどまでに違うものなのかとびっくりしましたよ。それまでの僕がやっていた「パン作り」なんて、子どものお遊びみたいなもので(笑)。基礎の基礎からしっかり教え込んでいただきましたね。

それも最初は教えてもらうがまま。作れるようになったものが店頭に並んでいる感じです(笑)。自分たちのパン作りのレベルが徐々に上がっていくのと同時に、だんだんとオリジナルパンの考案もできるようになっていって。

どう言えばいいんだろうなぁ。考え方が180度違うというか…。たとえばケーキ屋さんって、クリームとかジャムとかも含め、全てのパーツを自分たちの手で作っているんですよね。でもパン屋さんはそうじゃない。

違うんです。例えばカレーパンに包むカレーだったら、メーカーさんがそれこそ何十種類と作っているので、パン屋さんは自分が作りたいと思う味に近いカレーを仕入れているんです。カレーだけじゃなくて卵とかサラダとかも全部。その違いに一番驚きましたね。
対談している二人
スギタ マサユキ
株式会社モンテドール 代表取締役
1979年生まれ、広島県広島市出身。幼少期より「家業である洋菓子店を継ぐ!」と豪語していたが、一転して大学に進学することを決意。その後再び継ぐことを決め修行から戻って来るも、先代のケーキ屋を壊して新しくケーキ屋をつくってしまう。株式会社モンテドール代表取締役。現在は広島県広島市にて、洋菓子店「Harvest time 」、パン屋「sugita bakery」の二店舗を展開。オーナーパティシエとして、日々の製造や商品開発に奮闘中。
安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。