第67回 ビジョンを描くよりも大切な経営者のスキルとは?

この対談について

地元国立大学を卒業後、父から引き継いだのは演歌が流れ日本人形が飾られたケーキ屋。そんなお店をいったいどのようにしてメディア取材の殺到する人気店へと変貌させたのかーー。株式会社モンテドールの代表取締役兼オーナーパティシエ・スギタマサユキさんの半生とお菓子作りにかける情熱を、安田佳生が深掘りします。

第67回 ビジョンを描くよりも大切な経営者のスキルとは?

安田

最近、自分は経営者に向いてなかったんじゃないかと、つくづく思うようになったんです。


スギタ

えっ、安田さんがですか? 意外ですね。

安田

まだないマーケットを考えるとか、新しいものを生み出すとかっていうのは大好きなんです。だけど経営に必要なスキルって、そこじゃないよなっていうのがよくわかってきて。「経営者の必須スキル」を三つ挙げるなら、一つは「タフさ」だと思うんです。


スギタ

ああ、確かに。心が折れずに耐えられる強さは必要でしょうね。

安田

そうそう。で、次に必要なのは「決断力」。迷ったときに引っ張っていけるリーダーシップがないと皆が迷ってしまうので。そして三つ目が「ビジョンを信じ切る力」だと思うんです。私はこのビジョンを信じる力はあるんです。でもその他は全然ダメだなと。


スギタ

そうなんですか。まあでも、安田さんがタフじゃないっていうのはなんとなくわかる気がしますけど(笑)。

安田

そうなんですよ。すぐ心が折れちゃいますから(笑)。リーダーシップもないし、管理業務は嫌いだし。


スギタ

でも僕は逆に「ビジョンを描ける人」ってすごいなと思いますけどね。僕自身はそこが弱い部分なので。

安田

そうですか? 私からすると、スギタさんはすごくビジョンのある経営者だと感じますけど。


スギタ

もちろん何もないわけじゃないんですけど、なんとなくボヤッとしてる気がして。やっぱり明確なビジョンがあって初めて、そのビジョンを語って人を巻き込むことができると思うので、一番大事なスキルだと思うんです。

安田

私も以前はそう思っていたんですよ。どれだけ明確にビジョンを描いて人を巻き込んでいけるかが、一番大事だと。でも最近は少し考えが変わってきて。成功している経営者の99%は、実はそんなにすごいビジョンを持っているわけじゃないんじゃないかと。


スギタ

ほう、なるほど。となると、成功の要因はビジョン以外にあると。

安田

そうそう。それよりマネジメントスキルの方が大事なんじゃないかと思うんです。しっかり管理すべきところを管理する、そこを抜け漏れなくしっかりやれる人って、あまりいないじゃないですか。


スギタ

うーん、確かに。「組織を強くする」という点では、それも大事なスキルですよね。

安田

いろんなものを数値化してそこに徹底的にこだわったり、0.1%効率をアップするためにどうするかっていうことを真剣に考えたり。そういう細かい部分を突き詰めていける人。そういう人こそ、地域トップや業界トップになっていくんじゃないかと。


スギタ

ははぁ、なるほど。確かに、「こういう社会をつくりたい」「こんな会社を目指すぞ」っていうビジョンを描いて邁進してる人ってかっこいいんですけど、それだけでビジネスが回るわけじゃないですからね。

安田

そうなんですよ。新しいアイデアとかって、見栄えはいいんです。でも実はアイデアがあるだけじゃなんの意味もない。それを現実のビジネスとして着地させられるかはまったく別問題で。

スギタ

確かに確かに。そのアイデアを地道にコツコツ事業にしていく工程こそ、一番重要で、一番パワーや時間がかかる。

安田

そうなんですよ。もちろんそこにイーロン・マスクが掲げるようなビジョンが乗っかることで、さらなる爆発力が生まれることはあるんでしょうけど。でもいずれにせよまず重要なのはマネジメント、管理の徹底こそが重要なんだろうなと。


スギタ

わかります。強烈なビジョンがあるリーダーに憧れはしますけど、実際の商売ってもっと地味で地道なものですもんね。

安田

そうそう。やっぱり成功している経営者って、基礎がしっかりしていて、やるべきことをおろそかにしてないんですよ。魅力的なビジョンがあれば細かいことは得意な人がやればいい、とずっと思ってきたんですけど、実は逆なんじゃないかって気がしてきて。

スギタ

なるほどなぁ。安田さんが言うと説得力があるんですが、逆に僕は安田さんみたいな経営者こそすごいと思っていて。一見ニッチに見えるけど深掘りしたら絶対潜在顧客がいるような場所を見つけるのがすごくうまい。そんな人なかなか見たことないですから。

安田

ありがとうございます。むしろそこにしか興味がないんですよ(笑)。売り方とか商品とか、人が気づいていないものを見つけていくことがたまらなく好きで。でもそれをちゃんと商業ベースに乗せて、会社として組織をつくって維持していく能力は驚くほどない(笑)。

スギタ

笑。能力がないというか、そこはそんなに好きじゃないんでしょうね。

安田

そうなんです。だから私は「マーケットを生み出す専用係」みたいな存在でいい。生み出したマーケットをある程度大きくしたら、経営に適した人に託していく。そういう感じで今はやってます。

スギタ

なるほど。それってすごく今の時代に合ってる感じがします。自分の強みと役割を明確に分けていくというか。そういう分業がもっと一般的になれば、経営に対するハードルも変わってくる気がしますね。

 


対談している二人

スギタ マサユキ
株式会社モンテドール 代表取締役

1979年生まれ、広島県広島市出身。幼少期より「家業である洋菓子店を継ぐ!」と豪語していたが、一転して大学に進学することを決意。その後再び継ぐことを決め修行から戻って来るも、先代のケーキ屋を壊して新しくケーキ屋をつくってしまう。株式会社モンテドール代表取締役。現在は広島県広島市にて、洋菓子店「Harvest time 」、パン屋「sugita bakery」の二店舗を展開。オーナーパティシエとして、日々の製造や商品開発に奮闘中。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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