第80回 2,000円のハンバーガーは高いか安いか?

この対談について

地元国立大学を卒業後、父から引き継いだのは演歌が流れ日本人形が飾られたケーキ屋。そんなお店をいったいどのようにしてメディア取材の殺到する人気店へと変貌させたのかーー。株式会社モンテドールの代表取締役兼オーナーパティシエ・スギタマサユキさんの半生とお菓子作りにかける情熱を、安田佳生が深掘りします。

第80回 2,000円のハンバーガーは高いか安いか?

安田

こだわりのブランド牛のすね肉を使ったパテとか、オリジナルバンズを使ったハンバーガー専門店ってあるじゃないですか。そういう「高級バーガー」の平均価格がついに2,000円を超えた、というニュースを先日目にしまして。


スギタ

見ました見ました。さすがにぶっ飛ぶぐらい高いなと思いましたよ(笑)。僕の中に「ハンバーガーは手軽なもの」という先入観があるからかもしれませんけど。

安田

私は逆に「その値段で本当に大丈夫?」と思ったんです。こだわりの牛肉を仕入れて、筋を取ってミンチにして、バンズも手作りする。その手間と原価を考えたら、2,000円はむしろ安いくらいじゃないかと。


スギタ

ほう、なるほど。確かに作り手の視点だとそうなりますね。高価格帯でも、そこでしか食べられない特別な価値があれば、お客さんは集まりますし。最近のパフェやかき氷の世界も、まさにそうですもんね。

安田

ええ。昔はワンコインで食べられたパフェが、今では旬の高級フルーツをふんだんに使って2,000円以上する。かき氷だって、ただの氷なのに2,000円近くするお店に行列ができてますからね。


スギタ

そう考えると、ハンバーガーが同じ道を辿っても不思議ではないですね。もはや日常食ではなく、特別な体験を伴うエンターテインメントになっているというか。

安田

そうなんです。毎日食べるわけではないからこそ、人々はそこに非日常の価値を求めるわけです。ニューヨークでは、ラーメンと餃子のセットがチップ込みで7,000円もするそうですよ。


スギタ

7,000円! それはすごいな。海外に比べれば、日本の食はまだまだ安すぎるのかもしれませんね。

安田

そうなんです。高級寿司と回転寿司があるように、ファストフードのハンバーガーと、職人が作る高級バーガーでは、全く別の食べ物だと考えるべきなんです。ちなみに、もしスギタさんがハンバーガー屋をやるなら、やっぱり高価格帯で勝負しますよね。


スギタ

間違いなくそうしますね(笑)。安売り競争は絶対にしません。

安田

でしょう? 1,500円の予算で平凡なものを作るより、3,000円の予算で最高の満足度を提供できる方が職人としてやりがいがあるはずですし。お客さんもそれを望んでいるんですよ。


スギタ

確かに。もはやお客さんは、ハンバーガーを食べに来ているというより、その店ならではの空間や体験を楽しみに来ているわけですからね。

安田

ええ。お店に行く前からワクワクして、見た目も美しいハンバーガーの写真を撮ってSNSでシェアする。その一連の体験すべてを含めての価格だと考えれば、3,000円でも決して高くはないんです。


スギタ

僕がやるなら、ありきたりな黒毛和牛ではなく、例えば熊本のあか牛のような、ストーリー性のある赤身肉を使いたいですね。脂肪の多さで勝負するのではなく、肉本来の旨味を追求したい。

安田

いいですね! ぜひ作ってほしいです。ただ日本の消費者は、高級店に行っても安さやサービスを求めてしまう傾向がありますよね。だからこそ2,000円という価格がニュースになるわけで。


スギタ

なるほど。そう考えると、周りの目を気にして1,000円台に価格を抑えようとするお店も多いのかもしれませんね。

安田

そうですね。でも最終的に生き残るのは、思い切って値上げに踏み切ったお店だと思いますよ。人を雇って質を維持するためには、適正な価格設定が欠かせませんから。

スギタ

僕も全く同感です。今の時代、1,000円台という中途半端な価格帯が一番難しい。利益も出ず、他店との差別化も図れない、一番苦しいポジションになってしまうんじゃないかな。

安田

そうですよ。3,000円以上に価格を高めて最高の価値を提供するお店と、価格を維持するために質を落とさざるを得ないお店。どちらが生き残るかは明白ですよね。食の世界はますます二極化していくでしょう。


スギタ

確かになぁ。そういえば先日、九州で娘と入れるお寿司屋さんを探していたら、もう高いところは1人4万円ぐらいするんですよね。以前、安田さんとも「2万円くらいは妥当ですよね」なんて話してましたけど、その倍となるとさすがに驚いてしまって(笑)。

安田

笑。今は競争が激しい東京の方が、むしろ安いんですよ。地方都市のトップクラスのお店はそれくらいするでしょうね。

スギタ

ハンバーガーの2,000円より、お寿司の4万円の方が衝撃でした(笑)。さすがにその値段には、なかなかGOサインは出せないですね。

安田

2人で行ったら10万円近くになりますもんね(笑)。そういう時代だということですよ。また東京で、美味しいお寿司でも食べに行きましょう。

 


対談している二人

スギタ マサユキ
株式会社モンテドール 代表取締役

1979年生まれ、広島県広島市出身。幼少期より「家業である洋菓子店を継ぐ!」と豪語していたが、一転して大学に進学することを決意。その後再び継ぐことを決め修行から戻って来るも、先代のケーキ屋を壊して新しくケーキ屋をつくってしまう。株式会社モンテドール代表取締役。現在は広島県広島市にて、洋菓子店「Harvest time 」、パン屋「sugita bakery」の二店舗を展開。オーナーパティシエとして、日々の製造や商品開発に奮闘中。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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