第10回 西洋的葬儀は増えるのか?

この対談について

株式会社ワイキューブの創業・倒産・自己破産を経て「私、社長ではなくなりました」を著した安田佳生と、岐阜県美濃加茂エリアで老舗の葬祭会社を経営し、60歳で経営から退くことを決めている鈴木哲馬。「イケイケどんどん」から卒業した二人が語る、これからの心地よい生き方。

第10回 西洋的葬儀は増えるのか?

安田
今日は「キリスト教式の葬儀」についてお聞きしたいと思っています。葬儀事業をやられている立場上、ちょっと答えづらいかもしれないですけど。

鈴木
いえいえ、大丈夫ですよ(笑)。
安田
日本だと、結婚式は圧倒的にキリスト教式が多いんですよね。ということは今後、葬儀のマーケットにもキリスト教式が増えてくるんじゃないかと思うんですが、どう思われます?

鈴木
うーん、正直に言って、それはあまり考えられないかなあ。日本ではキリスト教のお葬式は普及しないと思います。
安田
でも、昔は結婚式も日本式だったのに、こうしてキリスト教式が市民権を得ているわけじゃないですか。それと同じことが葬式に起こってもおかしくないと思っちゃいますけど。

鈴木
まあ確かに、生活全般が西洋式になっていますもんね。クリスマスも祝いますし。ただ、これは私の思い込みなのかもしれませんが、葬儀だけは変わる気がしないんですよね。
安田
でももしかしたら、「これからはキリスト教式の葬儀が儲かる」と考え、実際に事業を立ち上げる同業他社さんも出てくるかもしれませんよ?

鈴木
ああ、実際僕の後輩が神戸でキリスト教式の葬儀をやっています。そして確かにものすごく依頼が来るみたいですね。神戸に限らず、かなりの広範囲から。
安田
ああ、それってつまり、キリスト教式の葬式に対応できる会社が少ないってことですよね。

鈴木
会社もそうだし、葬儀を担当できる聖職者があまりいないのかもしれませんね。
安田
なるほど。そういう話を聞いても、やはり個人的にはキリスト教式の葬儀が流行るんじゃないかって思うんですよ。たとえば私が今、「あなたの宗派は何ですか?」と聞かれても、よくわからないんです。

鈴木
たしかにそういう人は多いですよね。若い世代は特にそうでしょう。
安田
ええ。だから今後、人がが亡くなった時に、「特にこだわりがないから」とキリスト教式を選ぶ可能性もありませんか?そうすると一気に市場が変わるんじゃないかって気もするんですよ。

鈴木
仰っている意味はよくわかります。ただ実はうちも既にキリスト教式にも対応してるんですが、依頼は年間数件程度で。
安田
ああ、そういうことなんですね。神戸のような件もあるものの、ご自身でその事業をやった上での体感だと。ちなみにキリスト教式だと棺桶も違いますよね。海外映画でよく見ますけど、すごく華やかでカッコいいと言うか。

鈴木
確かにそうですよね。でも日本ではあれは無理なんです。火葬できないから。白っぽい布を張って洋風っぽさを出した「洋風棺」というものは一応あるんですけど。
安田
なるほど。海外は土葬だから、派手な棺にすることが可能なんですね。

鈴木
ええ。そもそもキリスト教では「魂は復活する」のが前提で、戻る身体が必要という考えから火葬ではないんです。アメリカ映画にはゾンビが出てきますけど、あれは土葬だから土から出て来られる(笑)。
安田
そうか、焼いちゃったら無理ですもんね(笑)。

鈴木
あとは、海外だと土地が広いから、土葬する場所がたくさんあるという事情もありますね。
安田
土地が狭い日本では土葬の習慣は広まらないと。というかそもそも法的に無理なんでしたっけ?

鈴木
一応、法的に可能な地域はあるんです。限られてはいますけど。
安田
青山墓地のような西洋墓地もあるじゃないですか。ああいうところは土葬OKなんですか?

鈴木
いや、ダメだと思いますね。そもそも土葬できるほどの広さがないと思います。
安田
じゃあ場所の問題が解決したら土葬は広まりますかね?それともまだ他に理由があります?

鈴木
そうですねえ。土葬って、穴を掘って埋めるわけです。だからたくさんの人の手が必要になるんです。
安田
ああ、そうでしょうね。燃やす方が簡単そう。

鈴木
ええ。だから火葬が一般化したとも言えます。日本でも昔は土葬が基本でしたけど、誰かが亡くなったら、近所の方に穴掘りのお手伝いを頼むわけです。でもそれが一番嫌がられる仕事でね。
安田
大変だからってことですね。ちなみに穴ってどれくらいの深さを掘らなきゃいけないんですか?

鈴木
お棺の高さが60センチくらいなので、それの倍くらい。1メートル程度は掘る必要があります。
安田
ユンボかなにかでザッと掘れないもんですか?

鈴木
これもまた土地の広さの話になりますが、そんな大きな機械が入れる墓地がないんですよ。
安田
ああ、確かにそうかもしれない。でも鈴木さんが事業を行っている美濃加茂には土地がいっぱいありそうな気もしますが(笑)。

鈴木
ゴルフ場は多いですけどね(笑)。まあそもそもの話、今、土葬を望む人がいないですから。
安田
そういうことなんですね。ちなみにキリスト教式でやる場合は、牧師さんに来てもらうんですよね?

鈴木
ええ。プロテスタントの場合は牧師さん、カトリックの場合は神父さんですね。
安田
ちなみに鈴木さんにとって、牧師さんや神父さんとお坊さんは「同業者」という認識なんですか?

鈴木
うーん、確かに「宗教者」という意味では共通していますが、ご存知の通り宗教ごとに違いはたくさんあります。例えばキリスト教は毎週ミサがありますが仏教にはない。そういう点では完全な同業者ではないかな。
安田
なるほど。文化的な違いも大きいでしょうしね。キリスト教が主流の欧米では、寄付が文化として完全に定着していますよね。収入のうち何割かは教会に寄付するというような。

鈴木
一方で、仏教はどうしても葬儀や何周忌などの「死」に関わる場面でしかお金が発生しません。そういう意味でもビジネスモデルは違ってきます。
安田
なるほどなあ。鈴木さんが「キリスト教式のお葬式は広まらないだろう」と考える理由が何となくわかりました。ありがとうございます。

 


対談している二人

鈴木 哲馬(すずき てつま)
株式会社濃飛葬祭 代表取締役

株式会社濃飛葬祭(本社:岐阜県美濃加茂市)代表取締役。昭和58年創業。現在は7つの自社式場を運営。

安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 

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