第116回 過去を知らない方が、スムーズに世代交代できる?

この対談について

株式会社ワイキューブの創業・倒産・自己破産を経て「私、社長ではなくなりました」を著した安田佳生と、岐阜県美濃加茂エリアで老舗の葬祭会社を経営し、60歳で経営から退くことを決めている鈴木哲馬。「イケイケどんどん」から卒業した二人が語る、これからの心地よい生き方。

第116回 過去を知らない方が、スムーズに世代交代できる?

安田
毎日のように大谷翔平選手の活躍がニュースになっています。彼は我々の時代で言うところの長嶋さんとか王さんのような存在だと思うんですけれど、じゃあ長島さんたちが今も生きていて、大谷選手と対決していたらどうなっていただろう、なんて思うんです。

鈴木
なるほど(笑)。でも大谷選手の方が上なんじゃないですかね。体格からして全然違いますし(笑)。
安田
ああ、確かに(笑)。テクニックもずいぶん進化しているだろうし、やっぱりそうなりますよね。

鈴木
そう考えると陸上選手も進化していますよね。それこそカール・ルイスが100m10秒切った時は世界中が驚きましたけど、今なんて10秒切るのは当たり前じゃないですか。
安田
確かに。日本人ですら10秒切ってきますからね。

鈴木
そうそう。だからそういう意味でも、歴史を重ねれば重ねるほど進化していくんだろうなと。
安田
ところで「経営」はどうですかね? 例えば今の時代に松下幸之助さん本田宗一郎さんのような「経営の神様」がいたら、どうなっていると思います?

鈴木
うーん…意外と苦戦していたんじゃないかな(笑)。
安田
ほう、それはどうして?

鈴木
会社には勢いのある時期もあれば、衰退していく時期もある。どの時期にいるかで、経営の打ち手は変わると思うんです。だから仮に今のPanasonicに松下さんがいたとしても、当時と同じような経営で成功するのは難しいんじゃないかなぁ。
安田
ああ、確かに。まだ誰もテレビを持っていない時代だったからこそ、安くて質のよいテレビをどんどん普及させていくことができた。「作れば売れる」という時代には確かにマッチした経営者ではあったけど、状況が違っていたらうまくいったかはわからないと。

鈴木
そうそう。結局は生存者バイアスというか、うまくいったからこそ語り継がれているということだと思います。
安田
なるほどなぁ。ちなみに鈴木さんは、当時と現代ならどちらの方が経営が難しいと思います?

鈴木

どうなんやろなぁ…。ちなみに僕が会社を継ぐとなった頃は、親としては「ますます大変な時代になっていくのに大丈夫かな…」という気持ちがあったみたいなんですよ。でも僕からしてみると継いだ瞬間がスタート地点で、過去のことはわからない(笑)。今までより大変かどうかなんてわからないんですよ(笑)。

安田
過去を知らないから、比較しようがないし、意識することもないわけですね(笑)。確かに大谷選手だって、王さんや長嶋さんを意識しながら練習しているわけではないでしょうしね(笑)。

鈴木
そうそう(笑)。あくまでも「今の時代の他の選手」や「自分自身」との比較をしているでしょ。昔の野球選手は160キロ投げるとかメジャーリーグに行くなんてこと、想像すらしてなかったはずで。でも大谷選手はそういうことを「当たり前」だと捉えて練習を重ねてきたんだと思いますよ。
安田
ふ〜む。そう考えると、私たちはこうやって「今の時代は大変だ」「昔の常識が全然通用しない」なんて言ってますけど、過去を知らない20代の子たちにとってみたら「何が大変なの?」って話なのかも。

鈴木
そうそう。例えばSNSだって、僕らには何のことかさっぱりわからなくても、20代にとってみたら「こんなもの普段からやってますけど?」っていう感じじゃないですか(笑)。それこそ前回安田さんから教えていただいたChatGPTのいろんな機能だってスイスイ使いこなしていますよ(笑)。
安田
笑。となるとますます「世代交代」は早くした方がいい気がしてきました。生まれた時からスマホがあって、AIを使いこなす世代は、我々には思いも寄らない経営をするのかもしれない。

鈴木
社長の下で地道に修行して、経営センスを磨いて、ようやく社長になる…というのはもはや時代遅れかもしれないぞ、ということですね(笑)。
安田
そういうことです(笑)。「自分の子どもに会社を継がせるのなんてまだまだ先のことだ」と考えている中小企業の経営者の方々は、早く世代交代することで会社の業績がアップする可能性も案外あるかもしれませんよ。

 


対談している二人

鈴木 哲馬(すずき てつま)
株式会社濃飛葬祭 代表取締役

株式会社濃飛葬祭(本社:岐阜県美濃加茂市)代表取締役。昭和58年創業。現在は7つの自社式場を運営。

安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 

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