この対談について
株式会社ワイキューブの創業・倒産・自己破産を経て「私、社長ではなくなりました」を著した安田佳生と、岐阜県美濃加茂エリアで老舗の葬祭会社を経営し、60歳で経営から退くことを決めている鈴木哲馬。「イケイケどんどん」から卒業した二人が語る、これからの心地よい生き方。
第27回 社長のセカンドキャリアは「身の丈」に合わせる。
第27回 社長のセカンドキャリアは「身の丈」に合わせる。
鈴木さんは昨年から「相続不動産テラス」という新しい事業を始められましたよね。
そうですね。長年ご葬儀を通じて御遺族のお気持ちに寄り添ってきましたが、これからは不動産という別のアプローチから寄り添うことに力を入れようと。
素晴らしいです。とは言え、鈴木さんは以前から60歳で社長を引退すると決めていらっしゃったと思うんですが。これは鈴木さんの「セカンドキャリア」のスタートということですか?
そうなるかもしれません。なんだかんだで「商売」が好きですし、楽しいですからね。
わかります。私も過去に1度会社を畳んでいますが、何社でも社長になってビジネスをやりたいと思っていますから(笑)。ただし、人のマネジメントの問題とお金の問題を抜きにできれば、という条件つきですけど(笑)。
僕ももう、そういったことは徐々に次の社長に移行していきたいと思ってます。時間もかかりますから。
ですよね。社員のやる気や定着率は、会社の業績にも大きく関わってきますから。こっちは社員に給料を払いながら、指導しながら、やる気も出させて…って、面倒だし大変ですよ(笑)。
笑。もちろん「それこそが社長としての醍醐味だ」という方がいるのは理解できますが、少なくとも私や安田さんは、そうじゃないということですね。
仰る通りです。ということは鈴木さんも新事業では人をどんどん増やしていきたいとは思っていない?
ええ。そもそも「相続不動産テラス」の事業は、それほど多くの人材は必要ないんです。宅建士数名で十分かと。
なるほど。ではお金の問題についてはどうお考えですか? いろんなところから資金を集めてきて、たくさん投資して、事業を大きくしていきたい気持ちはあるんでしょうか?
正直、その気持ちもないですね。不動産事業を始めて感じたのが、実はあんまりお金がいらないぞ、と。
え、そうなんですか?
はい。物件が売れることで小さいながらも収入を得られる。で、次はそれを活かせばいい。大きな資金が手元にドカンとなくても、ちゃんとビジネスが回せるんです。
なるほど。実は私もそうなんです。たくさん人を雇って無理に大金を引っ張ってきて投資して…ということをやらなくてもできるビジネスを楽しみたいんです。
わかります。結局のところ、自分のやるビジネスが誰かの役に立っていると実感できるのが一番うれしいんですよ。
同感です。お金儲けが目的じゃないんですよね。私は鈴木さんよりも一足お先に社長を引退しているわけですが、今は自分の「身の丈」にあった資金でビジネスをやっています。
それ、本当に羨ましいな〜と思っています(笑)。
ありがとうございます(笑)。私も今の状態に不服はないんです。でも一方で、ダイナミックな刺激が欲しいなと感じる時もあるんですよね。
ダイナミックな刺激、ですか?
はい。たくさんの社員を雇って、リスクを抱えながら何億何十億という資金を動かしてビジネスをまわしていく、そういう刺激。現状では、それがないですから。
ある意味「身の丈」を超えたビジネスってことですよね。やっぱりそういう刺激が欲しくなるもんですか?
そうですね。かつてそういう状態を経験しているからこそ、余計に物足りなさを感じるときはあります。まあ、ごくたまに、ですけど(笑)。
実際はもう一度その状況に戻りたいというわけではないんですね。その過酷さを重々承知しているからこそ(笑)。
はい(笑)。とはいえ自分が今30代だったら、またそういう状況に身を置こうという気になるかもしれないですね。
ああ、その気持ちわかるなあ。社長人生にも「旬」があるんですよね。野心とか好奇心とか、そういうのを全部ひっくるめた「若いエネルギー」とでもいうものが、経営には必要なのかもしれない。
私も昔は、会社経営なんて死ぬまで現役でできると本気で思っていたんです。でも歳を重ねた今、生涯現役というのもなかなか難しいと思い始めています。
そうですね。だからこそ、安田さんが言うところの「ダイナミックな刺激」があるビジネスからは、どこかのタイミングで潔く引退を決めるべきなのかもしれないですね。
ええ。そして、自分の身の丈にあった範囲でビジネスを楽しむ。それが最高の「セカンドキャリア」だと、私は思います。
対談している二人
安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。