第48回 ストーリーのある空き家販売

この対談について

株式会社ワイキューブの創業・倒産・自己破産を経て「私、社長ではなくなりました」を著した安田佳生と、岐阜県美濃加茂エリアで老舗の葬祭会社を経営し、60歳で経営から退くことを決めている鈴木哲馬。「イケイケどんどん」から卒業した二人が語る、これからの心地よい生き方。

第48回 ストーリーのある空き家販売

安田
鈴木さんとはこれまで何度も「空き家問題」についてお話をしてきましたが、実は私の実家もまだ空き家状態のままで残っているんです。

鈴木
そうでしたね。そこは安田さんが管理されているんでしたっけ?
安田
いえ、兄です。名義も兄なので。で、その実家なんですが、生前の母がとにかく植木好きで家の中も外も植木だらけなんですよ!

鈴木
庭だけじゃなくて室内もですか(笑)。水やりが大変そうだ(笑)。
安田
ええ、本当に。さらに、母が小さい飾り物が好きだったから、家のあらゆるところに細々したものも飾られているんです。掃除好きな母にとってはなんてことなかったみたいですが、遺された者にはかなり重労働で(笑)。

鈴木
笑。でもそれだけ丁寧に住まわれていたんだったら、お家の状態もかなりきれいに保たれているんじゃないですか?
安田
そうなんです。建ててから10年以上経ちますけど全然傷んでないです。それに植木も大切に育てていたので、たぶん樹木好きな人から見れば魅力的な状態の木もたくさんある。でも兄は木が好きなわけではないし、私は離れた場所に住んでいるので、枯れてしまうんですよ。

鈴木
それはもったいないですね。
安田
ですよね。だから私は「家を手放す適切なタイミング」っていうのが絶対あると思うわけです。で、そのためには「これはどういう家なのか」を伝えて、その家に最適な人に住んでもらえればいいんだろうなと。

鈴木
前回、安田さんがお話されていた「ストーリーが大事だ」ということですね。
安田
そうです。何度も例に挙げていますが、200万で売れた230坪の田舎の物件。あれなんて、都会に住んでいる私からすれば夢のようなお家なんですよ!

鈴木
安田さん、本当に気に入ってますよね、あの物件(笑)。
安田
笑。だって納屋までついてくるんですよ? 改装して趣味部屋にできるし、奥さんと喧嘩した時の避難場所にもなるじゃないですか(笑)。

鈴木
あはは、面白い使い方を想像しますね(笑)。
安田
それぞれの家を「空き家」と一緒くたにしてしまうから魅力がわからないんです。1軒1軒の違いを際立たせてアピールしていくことが、空き家問題を解決するカギになると思うんですよね。

鈴木

上っ面の条件を並べているだけでは、結局誰の心にも刺さらないってことですよね。

安田
ええ。それに、手放したくないほど愛着のある空き家の持ち主なら、無理して売りたいとも思ってなかったりするんじゃないですかね。

鈴木
ああ、そういうケースもあるかもしれませんね。一応売りには出しておくけど、別に売れなくてもいいかという。
安田
ええ。そういう人って値段を不必要に高く設定したりもしそうですが、でも「この人ならぜひ譲りたい」という相手が見つかれば、多少安くても売ると思うんです。そうすると、売り手も買い手もwin-winですよね。

鈴木
なるほどなぁ。空き家を「モノ」としてマッチングするのではなく、空き家の「ストーリー」でマッチングさせていくというイメージですかね。
安田
そうですそうです。例えば前回のお話に出た「細い坂道を上ったところにある眺めのいい家」というフレーズも十分魅力的ですが、そこからさらにもう一歩踏み込んで、「冬の夕方4時頃、この部屋のこの窓から見える夕日が美しすぎる」とか、前の住人が楽しんでいたことを書くんです。

鈴木
「自分もそれを体験してみたいな」と思わせることで、購買意欲をかき立てるわけですか(笑)。
安田
というか私、鈴木さんが住んでいらっしゃる地域ってとても魅力的な場所だと思うんですよね。鈴木さんは気づいていらっしゃらないみたいですが…(笑)。

鈴木
周り、山しかないですよ(笑)。
安田
それが良いんですよ。山しかないところに住みたい人も、いるんです(笑)。

鈴木
そう言えば最近、ここよりもっと山奥のほうにカフェができたんですけど、すごく繁盛してるんですって。僕らからしたら「山しかないようなところでコーヒー飲んでどうすんの?」って思っちゃうんですけどねぇ(笑)。
安田
きっとそのカフェにも、地元の人には気づけない良さがあるんですよ。まさに灯台下暗しというか(笑)。

鈴木
そう考えると、意外に「周りは全部山です!」とか「敷地の8割が畑!」とかちょっと極端に思えるような物件のほうが、うまくマッチングして売れる可能性が高いのかもしれないですね。
安田
だと思います。で、そこに物件が持っている「ストーリー」も上乗せする。そういう「こだわりの家」ばかりが載っているサイト、一緒に作りましょうよ(笑)。

鈴木
いいですね〜(笑)。ウチのエリアで成功したら、空き家に悩む全国の地方にも展開できるかもしれないですし。
安田
まさにそうですね。それですべての空き家問題を解決できるわけではないでしょうけど、「思い入れのある空き家」の担い手を探すには有効だと思うんです。

鈴木
仲介する僕らの方から、「そんなに愛着のある家なんだったら、それを理解してくれる誰かに継いでもらうのはどうですか?」って提案して。
安田
ああ、いいですね。『相続不動産テラス』のサイトに「思い出がある家は、私たちにお任せください」っていうようなメッセージ、載せてみませんか?

鈴木

ちょっと検討してみようかな。まずは1軒、「空き家をストーリーで売った」という実績を作りたいと思います!

 


対談している二人

鈴木 哲馬(すずき てつま)
株式会社濃飛葬祭 代表取締役

株式会社濃飛葬祭(本社:岐阜県美濃加茂市)代表取締役。昭和58年創業。現在は7つの自社式場を運営。

安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

Twitter  Facebook

1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 

感想・著者への質問はこちらから