第55回 ライフスタイルまで提案する空き家販売

この対談について

株式会社ワイキューブの創業・倒産・自己破産を経て「私、社長ではなくなりました」を著した安田佳生と、岐阜県美濃加茂エリアで老舗の葬祭会社を経営し、60歳で経営から退くことを決めている鈴木哲馬。「イケイケどんどん」から卒業した二人が語る、これからの心地よい生き方。

第55回 ライフスタイルまで提案する空き家販売

安田
鈴木さんから『相続不動産テラス』での空き家販売事業についていろいろと伺っているうちに、私も「どうやったら空き家が欲しくなるかな」ということをいろいろと考えるようになりまして。

鈴木
それはありがとうございます(笑)。ぜひ聞かせていただけますか?
安田
『赤毛のアン』ってご存知ですか? カナダの小説家が書いた小説。

鈴木
ええ、知っています。と言っても、タイトルと大まかなあらすじくらいですけど(笑)。
安田
私も子どもの頃にアニメで観ただけなんですが、お話の冒頭で、孤児だったアンが老兄妹の家にもらわれていくんですよ。で、その家の名前が『グリーンゲイブルズ ハウス』といって。

鈴木
へぇ、家に名前がついているんですか!
安田
そうなんですよ。「緑の切妻屋根(きりづまやね)の家」という意味らしいんですけどね。しかもアンの友達や近所の家にも、見た目からつけられた名前があって。ひょっとするとカナダでは普通のことかもしれないけど、日本ではそんな発想ないからすごく驚いたのを思い出したんです。

鈴木
確かに「誰々さんのお家」とは言うけど、家の特徴をそのまま名前にするというのは聞いたことないかもしれない。
安田
ですよね。だから私は「空き家に名前をつける」というビジネスを考えてみました!

鈴木
あぁ、なるほど。そこにつながるわけですね! それはこの前に言っていた「細い坂道を上ったところにある眺めのいい家」みたいなものを、もう少しわかりやすくした感じですか。
安田
それだとちょっと説明色が強いんですよね。私はもう少し「名前らしいもの」をつけたいと思っていて。

鈴木
キャッチコピーのようなものとは違うんですね。
安田
ええ。名前なので、その家の特徴とか見た目、住んだ場合にどんな生活になるか、というものから着想してつけたいなと。そして、その空き家の使用説明書のようなものを作るんです。

鈴木
ほう、使用説明書ですか?
安田
そうです。説明書には、空き家の周りの景色とか近くのお店の情報を書いてあげる。「こういう気分のときにはこの景色が最高」とか「突然美味しい餃子が食べたくなったらこのお店」とか。

鈴木

それは面白そうだなぁ。その説明書を読めば、そこに住んだ場合の生活イメージができるわけですか。

安田
そういうことです。というのも普通は家を売る時に、土地に建てられている「物体」だけを売ろうとしますよね? でも結局はその家に住んでからの「生活」の方がずっと大事なわけですよ。

鈴木
自分がその家でどんな「暮らし」ができるのか、ということもひっくるめて売ると。
安田
はい。「家の名前」でいうと、昔、青山に『ベルコモンズ』というビルがあって。いろんなテナントが入った商業施設だったんで、私はてっきりその施設名称がベルコモンズだと思っていたんですよね。でも実はビルそのものの名前だった。

鈴木
へぇ! ずいぶんオシャレなビル名ですね。昔だったら建物の名前なんて「第3ビル」とか「〇〇ハイツ」とかいうレベルだったでしょうに(笑)。
安田
まさに仰る通りで。住所に「ベルコモンズ」って書いてあったらカッコいいし、「ベルコモンズ前で待ち合わせね」とか言いたくなりますよね?(笑) 私が思う「空き家の名前」というのも、まさにそういうイメージ。

鈴木
その名前から、家の様子とか周りの環境とか暮らし方とかがちょっと垣間見れそうなもの、という感じですね。
安田
ええ。だからといって適当に名付ければいいというわけではない。商業的に見て「こんな名前をつけときゃ、売れるだろう」みたいなのは最悪です(笑)。

鈴木
ふわっとカッコいい感じの名前では、ダメだぞと(笑)。
安田
そうそう(笑)。その空き家にしばらく住んでみて、実際に家の印象とか近所の雰囲気をしっかり感じ取った上で、名前をつける。そういう「名前付け専門家」という仕事をやったら、面白いと思いません?

鈴木
安田さんの「境目研究家」みたいだ(笑)。で、その「名前付け専門家」はどういう風に活動してもらいましょうか。
安田
その人のファンを増やすためにも、たぶんSNSで発信してもらうのがいいでしょうね。「1週間この家に住んで、暮らしを楽しんだ後に、この家に名前を付けます」と言って、日々の暮らしをリアルタイムに見せていくんです。

鈴木
フォロワーさんたちも「次はどんな家を紹介してくれるのかな」と楽しみにしてくれそうですね。
安田
ですよね。そしてフォロワーさんの中に「この家だったら自分も住んでみたい!」と思ってくれる方が1人いれば、その空き家は解消するわけです。

鈴木
しかもその「名前付け専門家」が有名になれば、空き家に付加価値がついて高値で売れる可能性だってありますよ!(笑)
安田
確かに(笑)。だからこの「名前付け専門家」は、その空き家に住みたい人、「たった1人に向けた情報発信屋さん」ということですね。私たちの知り合いに「ネーミングクリエーター」のSugarManさんという方がいるじゃないですか。

鈴木
はいはい、『いぬのおしり』という名前を考えてくださった方ですね。
安田
ええ。あの方に倣って「空き家の魅力クリエイター」という肩書にしましょうか。で、空き家の名前やそこでの暮らし方の手引きといった全ての情報をひっくるめて作り、総合的に「空き家の魅力」を発信する仕事をする、と。

鈴木
なんというか…ものすごく尖ってますね(笑)。でも万人受けする必要はないから、それくらい尖っていたほうがいいのかもしれないですね。
安田
だと思いますね、私は。

鈴木
そう考えると、つくづく「空き家」と「採用」って似ていますよね。物理的な条件をいくら並べたところで、魅力が伝わらなければ誰にも受け入れてもらえないじゃないですか。
安田
同感です。採用で言えば、給与や年間休日の日数といった条件面=ハード面だけでは不利でも、その会社にしかない個性=ソフト面をアピールしていくことで有利になれる。

鈴木
だから空き家でも、築年数とか立地が不利なせいで売れないというんではなく、その家が持つ魅力をいかに引き出して伝えるかが大事だと。
安田
仰る通りです。「空き家そのもの」と、「そこで実現できるライフスタイル」をセットで売る。そういうビジネス、ぜひ一緒にやりましょうよ。

鈴木
そうですね。せっかく魅力があるのにそれを活かせていない空き家がないか、リサーチしておきますね!

 


対談している二人

鈴木 哲馬(すずき てつま)
株式会社濃飛葬祭 代表取締役

株式会社濃飛葬祭(本社:岐阜県美濃加茂市)代表取締役。昭和58年創業。現在は7つの自社式場を運営。

安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

Twitter  Facebook

1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 

感想・著者への質問はこちらから