この対談について
株式会社ワイキューブの創業・倒産・自己破産を経て「私、社長ではなくなりました」を著した安田佳生と、岐阜県美濃加茂エリアで老舗の葬祭会社を経営し、60歳で経営から退くことを決めている鈴木哲馬。「イケイケどんどん」から卒業した二人が語る、これからの心地よい生き方。
安田
最近「どんな終わり方をすれば理想的な人生だったと言えるのか」とよく考えるんです。
鈴木さんはお仕事柄、いろいろな方の「最期」に立ち会う機会が多いと思いますが。
鈴木
そうですね。葬儀を「最期の場」だと考えるなら、普通の方の何百倍もの「最期」に接しているでしょうね。
安田
それで今回は、そんな鈴木さんだからこそわかる「終わりから考える理想的な人生」をお聞きしたいなと。
鈴木
それでいうと、実はかつて
「葬儀不要論」がもてはやされたことがあったの、ご存知でしたか?
安田
え、そうなんですか? 知らなかったです。
鈴木
「葬式なんてお金も時間もかかるし、わざわざする必要なんてないでしょ」という声が大きくなっていた時期があって。でも、東北の大震災以降、そういう声がパタッと消えたんです。
安田
それは大震災を境に、葬儀をやる意味が見直されたということなんでしょうか。
鈴木
そうでしょうね。あの震災では御遺体を見つけることができなかった方も大勢いらっしゃった。そしてそういう方の御遺族は、ご葬儀ができないから「区切り」が付けられないと。
安田
ああ、なるほど。ご遺体がないから葬儀もできない。葬儀ができないから「もしかするとどこかで生きているのかもしれない」と思い続けることになる。つまり「区切り」がつかないと。
鈴木
仰るとおりです。そういう声を聞いて、僕の知り合いの葬儀社さんがそういう方々に簡易的なお仏壇を差し上げたんだそうです。そうしたらすごく喜ばれたらしくて。
安田
それはどうしてですか?
鈴木
ご遺体や遺骨はないものの、お洋服やお写真なんかを仏壇に置いて拝むことで「本当に亡くなったんだな」と感じることができるようになったと。
安田
ははぁ、なるほど。つまり遺族というものは、葬儀をしたり仏壇に手を合わせたりすることで、初めて故人の死を受け入れることができるわけですね。
鈴木
そういうことなんでしょう。この話を聞いて、やはり葬儀というのは大事なんだなぁと思いましたね。遺された人たちが「この人は亡くなったんだ」と理解し、区切りをつける大事な場なんだと。
安田
ふ〜む。事故死や災害死など、いわゆる突然死の場合は尚更そうでしょうね。昨日まで元気だった方が、突然いなくなってしまうわけですから。
鈴木
ええ。比べるようなものではないですが、老衰や病死の場合より「区切り」をつけるのは難しいでしょうね。「心の準備」が全くない状態でのお別れなので。
安田
そうですよね。なかなか受け入れられないと思います。
鈴木
そうなんです。だからこそしっかりとご葬儀をすることが重要なんですね。最期の場をきちんと用意することで、その方の死を受け入れるキッカケになるので。
安田
なるほど。つまり故人にとっての区切りでもあり、遺族にとっての区切りでもあると。
鈴木
そう思います。そう考えると、ご葬儀に限らず人生の節目の儀式、つまり区切りとしての儀式ってっていろいろありますよね。七五三とか成人式とか結婚式とか。
安田
ああ、確かに。
鈴木
あるいは会社の行事などもそういうものなのかもしれない。安田さんも昔対談されていた
『オラクルひと・しくみ研究所』の小阪裕司さんが仰っていたんですが、期の節目とかに「打ち上げ」ってやりますよね。あれは絶対にやるべきなんだそうですよ。
安田
ほう、それも「区切り」という意味で?
鈴木
そうそう。「打ち上げ」をすることで「その仕事が終わった」という区切りになる。きちんと終わらせるからこそ、しっかり次の仕事に入っていけるんだって。お酒を飲んでどんちゃん騒ぎすること自体が目的じゃないんです(笑)。
安田
笑。でも確かに、「この仕事は今日で終わり。明日から新たなスタートだ」と皆が共通認識を持つのって大事ですよね。
鈴木
仰るとおりです。で、それは人の人生も同じなんですよね。葬儀という儀式があるからこそ、「ここからはあの人のいない世界が始まるんだ」と考えることができる。
安田
ははぁ、なるほど。確かに仰るとおりですね。…それにしても、自分の最期は「ピンピンコロリ」がいいなと思っていたんですが、遺族の立場で考えるとキツそうですね。突然いなくなっちゃうわけだから。
鈴木
そうですねぇ…。かといって、何年にもわたる闘病生活を支え続けるのも、それはそれでキツいでしょうし。
安田
そうですよねぇ。となると、直前までは元気に過ごしていて、ある時病気が発覚して、そこから2週間ほどでコロッと逝くのが一番いいのかもしれないですね(笑)。
鈴木
この前お話しした
「余命の話」と似てますね(笑)。ああ、そういえば今思い出したんですが、「突然死だったけどとても良い最期だった」方がいらっしゃいました。
安田
それは興味あります。どんな方だったんですか?
鈴木
お婆さんだったんですが、お仏壇の前で倒れて亡くなっていたんですって。いつものように朝、ご先祖様に手を合わせた後、そのまま亡くなっていたと。それを聞いてすごく理想的な最期だなと思ったのを覚えています。
安田
へぇ、お仏壇の前で。それなら突然死でも「ご先祖様がちょうどお迎えに来られたんだな」って思えますね。
対談している二人

鈴木 哲馬(すずき てつま)
株式会社濃飛葬祭 代表取締役
株式会社濃飛葬祭(本社:岐阜県美濃加茂市)代表取締役。昭和58年創業。現在は7つの自社式場を運営。
