第58回 お骨は何のために残すのか?

この対談について

株式会社ワイキューブの創業・倒産・自己破産を経て「私、社長ではなくなりました」を著した安田佳生と、岐阜県美濃加茂エリアで老舗の葬祭会社を経営し、60歳で経営から退くことを決めている鈴木哲馬。「イケイケどんどん」から卒業した二人が語る、これからの心地よい生き方。

第58回 お骨は何のために残すのか?

安田
最近、身寄りのいない中で亡くなる方が増えているそうで。一人っ子が増えていることもあって、「誰にも看取られずに亡くなる」ということがさらに増えていくんだろうなと思うんですけど。

鈴木
そうですね。実際、ご葬儀や永代供養をご家族ではなく後見人の方がやられるケースが増えています。
安田
ああ、やっぱり。そんな状況の中で私が一番気になっているのが「お骨拾い」なんですよ。これ、場合によってはなくした方がいいんじゃないかと思っていて。

鈴木
ん? どういうことでしょう。前回の対談でもありましたけど、御遺族にとっては「これがあの人だ」と理解するための「モノ」として、お骨は大切だと思いますけどね。
安田
もちろんその気持ちは理解できます。でもそれはあくまで「遺族がいる場合」だと思うんですよ。先ほど話したような「身寄りのいない方」の場合、そのお骨を残すことに意味はあるのか、ということです。だって、後見人の方とかも、親族でもない方のお骨を渡されても困るでしょう?

鈴木
あぁ、そういうことか。理屈は理解できました。でもまぁ、やっぱり私のように長年葬祭業を営んできた人間からすると、それでも「お骨はいらない」とは言えないかなぁ(笑)。
安田
なるほど(笑)。でもね、私も別に「お骨なんてどうでもいいだろう」という乱暴な意見を言っているわけじゃないんです。むしろ粗末に扱えないものだからこそ、後の方が困らないよう最初に完全燃焼させてしまったほうがいいんじゃないかという話で。

鈴木
火葬の時に、お骨が残らないように焼いてしまうということですね。
安田
そうそう。というのも、実は私自身がそれを希望しているんです。死後のこととは言え、自分の骨を拾われたり、自分の骨に向かって拝まれたりしても、困るなぁというか(笑)。

鈴木
そうですか(笑)。
安田
とはいえ「お骨を見る」ということが大事なのもわかりますよ。ウチの母も、父が亡くなった直後からお通夜、葬儀、とずーっと泣いていたのに、火葬されて骨になった瞬間「ようやくスッキリした」って言ってましたし。

鈴木
前回の対談でも言っていた「区切り」ができたんでしょうね。ちょっと話がずれるかもしれませんが、人が亡くなった後、御遺族は泣く場面が5回あると言われているんですよ。
安田
ほう、それはどういう時なんでしょう?

鈴木
息を引き取った時、御遺体がご自宅に戻ってきた時、納棺する時、棺の中にお別れのお花などを入れる時、そして火葬場で火葬炉に入っていく時。この5回。
安田
ということは、火葬が終わった後って、もう多くの人は泣かないんですか?

鈴木

ということになりますね。結局、「肉体」としての姿がなくなってしまうことで、それはもう「悲しみを向ける対象」ではなくなってしまうのかもしれない。

安田
確かに骨になってしまったら、本当にこれはあの人なのかって認識できないですもんね。だからこそ、私は自分の骨を拝まれることに抵抗があるとも言えるんですが(笑)。

鈴木
笑。遺された側にとっては、お骨になった状態を見ることで「死ぬとはこういうことだ」という現実を教えていただく場にもなりますけれど。
安田
なるほどなぁ。ちなみに火葬ってだいたい何度くらいで焼かれるんですか?

鈴木
1200℃くらいですかね。実は火葬自体はわりと早く終わるんですが、その後冷却するのにちょっと時間がかかります。
安田
へぇ。それはどうやって冷やすんですか?

鈴木
お骨に風を当てるんです。でもあまり強く当てすぎると、骨粗しょう症の方なんかは骨が脆いのでバラバラになってしまうこともあって。だからある程度、風の当て方なんかを調整しながら冷やす必要があります。
安田
へぇ〜、そうだったんですね。ちなみに技術的には、一切お骨を残さないで完全燃焼させるということは可能なんですか?

鈴木
できるかできないかで言えば、できるはずです。でもそれをやっているところはないでしょうね。
安田
なぜなんでしょうね。先ほどの繰り返しにはなりますけど、身寄りのない方の「お骨」が残ってしまうから、後見人の方は墓地に持っていって供養しなきゃいけなくなるわけで。

鈴木
うーん…。いくら身寄りがないからとは言え、やっぱり「人間」だからちゃんと供養しなくてはいけないんじゃないでしょうかねぇ。
安田
私なんかは、それってただの先入観じゃない? という風にも思ってしまいますけど。

鈴木
確かに、必ずしも「お骨」という状態で残さなくてもいいかもしれないですね。実際、粉砕機という機械でお骨をパウダー状にすることもあります。その粉を紙で包んで土に埋めれば、自然に還っていく。
安田
ああ、それいいですね。骨といえどカルシウムなわけだから、別に自然にとって有害なものでもないですし。

鈴木
そうそう。野生動物なんて死んだらみんな土に還ってますし。ちなみに安田さんは地域によって「収骨」の仕方が違うってご存知ですか?
安田
ええ。関東ではお骨は全部骨壷に入れるけど、そうじゃない地域もあるんですよね。

鈴木
そうそう。関東は「全収骨」だから、基本的に火葬後のお骨は全て拾うんですよね。でも僕らのいる東海地域なんかは「部分収骨」なんで、骨壷も小さいんですよ。
安田
私も関西で葬儀をやった時に初めて見たんですが、その違いに驚きました。というか地域によって収骨する量が違うくらいなんだから、焼き加減で「どれだけの骨を残すか」っていうのも調整してくれればいいのになぁ。

鈴木
そう言われると、そんな気もしてきますね(笑)。
安田
ちなみにウチは両親の遺言が「お骨はほんの少しだけ残しておいてくれればいい」というものだったので、一番小さい骨壷に入るだけの収骨にしたんです。でも結局それ以外のお骨は雑多に捨てられてしまうわけじゃないですか。それだったら全部焼き切って欲しかったという思いは残りましたよね。

鈴木
なるほどなぁ。確かにそういう意味では、安田さんの仰る「完全燃焼」というのも、今後検討していくべき考え方なのかもしれない。
安田
ですよね。近い将来、「完全燃焼法」みたいな制度ができれば、私も死後の自分のお骨の心配をしなくてもすみそうです(笑)。

 


対談している二人

鈴木 哲馬(すずき てつま)
株式会社濃飛葬祭 代表取締役

株式会社濃飛葬祭(本社:岐阜県美濃加茂市)代表取締役。昭和58年創業。現在は7つの自社式場を運営。

安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 

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