第60回 「空き家」の未来はどうなる?

この対談について

株式会社ワイキューブの創業・倒産・自己破産を経て「私、社長ではなくなりました」を著した安田佳生と、岐阜県美濃加茂エリアで老舗の葬祭会社を経営し、60歳で経営から退くことを決めている鈴木哲馬。「イケイケどんどん」から卒業した二人が語る、これからの心地よい生き方。

第60回 「空き家」の未来はどうなる?

安田
前回も言いましたけど、鈴木さんとの対談の影響なのか、最近は「どうやったら空き家が売れるかな」ということばかり考えていまして…(笑)。

鈴木
空き家に名前をつける」「空き家付き求人」「庭をシェアする空き家」などなど…次から次へと、素敵なアイディアを出していただき、ありがとうございます(笑)。
安田
笑。ところで、毎回こうやって空き家の販売方法についてはいろいろ考えていますけど、そもそも皆さん、空き家を相続してすぐに「売却しよう」と決まるものなんですか? なんか空き家の相続やその後の活用法って、親族間で揉めそうなイメージがあるんですが。

鈴木
う〜ん、実際どういう話し合いがされているかはわかりませんが、少なくとも我々が揉め事の仲裁に入ることはないですね。僕のところに相談にみえる方っていうのは、すでに「売りたい」という意思が固まった方たちなので。
安田
そりゃそうか(笑)。相続した親族間で「売る」と結論が出たから、鈴木さんのところにいらっしゃるんですもんね(笑)。

鈴木
そうそう(笑)。ただよく聞くのは、家の名義をずいぶん前から変更していないから、相続するのも売却するのもめちゃくちゃ大変というケースです。
安田
へぇ、それはどういうことなんでしょう?

鈴木
例えば、おじいさんが建てた家をお父さんが相続したけど、その時点で名義変更がされていなかったと。で、そのお父さんが亡くなった後にいざ子ども・孫世代が空き家を売ろうとしても無理なんですよ。
安田
名義がおじいさんのままだから?

鈴木
そうそう。亡くなった人の名義の家を売却することはできないわけで。で、名義変更するために何代もさかのぼって相続登記しなくてはいけないんだけど、これがものすごく大変なんですよ。
安田
へぇ、そうなんですね。名義変更のルールみたいなものはないんですか。

鈴木
昔は曖昧だったみたいですね。ただあまりにもこういう問題が増えてきたからか、今年の4月からは法令が変わって相続登記の申請が義務化されましたね。相続してから3年以内に登記申請しなさい、と。
安田
ほう。ようやく法律が現状に追いついてきた、という感じですね。というか聞くところによると、相続放棄しても空き家の管理や手入れをしなきゃいけないルールもあるんですって?

鈴木
ああ、そういう場合もありますね。でも「相続放棄」って「財産も借金も全て放棄します」ということなので、あんまりする人がいなくて。
安田
現金とか土地は相続したいけど、空き家「だけ」は放棄したい、ってことはできないわけですね。で、そうやって「仕方なく」空き家を相続した人は、さっさと売ってしまいたいと。

鈴木

ええ。だから「この空き家を売って儲けよう」というよりは「利益が出なくてもいいからとにかく早く手放したい」という人の方が多い印象です。

安田
なるほどなぁ。誰も住んでいない空き家の管理とか固定資産税を払うとか、できるなら避けたいですもんね。

鈴木
そういうことです。冒頭で安田さんが「空き家の相続には揉めるイメージがある」って言っておられましたけど、中でも「あるある」なのが、相続した兄弟間で1人だけ反対し続けるパターン。
安田
あぁ、書類にハンコを押してくれないパターンですね(笑)。

鈴木
そうそう(笑)。この前も『相続不動産テラス』で一緒にやってくれている行政書士さんが嘆いてましたよ。「1人だけハンコをもらえなくて売却手続きが進まないから、もう2年くらい放っておかれている物件がある」って。
安田
2年も! それってどういう理由で拒否しているんでしょうね。

鈴木
往々にしてそういう人はちょっと変わっているというか偏屈というか…(笑)。たぶん金額云々の話ではないんでしょうね。「お前たちの言う通りにしてたまるか!」と感情的になっているんじゃないかなぁ。
安田
なるほど。そう考えると、土地や家って「きっちり何等分」と分配できないので、現金を相続したときよりも揉めることが多そうです。だからみんな早く空き家を売って現金化したい、というのもありそうですね。

鈴木
それはあると思いますね。
安田
でも今って一人っ子も増えているから、これからは揉めるような親族の人数もどんどん減っていく。そういう意味では売却手続きもすんなり進みそうですよね。…とは言え、売りに出す手続きはスムーズに進んでも、買ってくれる人がいないのが現状なんでしょうけど(笑)。

鈴木
本当に(笑)。まあこれからの傾向として1つ言えるのは、新築物件は確実に減っていくだろうということですね。
安田
でしょうね。物価高の影響で価格が高騰しきっていますからね。都心で新築なんて、普通のサラリーマンにはとてもじゃないけど手が出せない値段になっています。

鈴木
だからこそ「中古物件をリフォームして再販する」という動きが一気に熱を帯びてくるんじゃないかと言われていて。
安田
いい動きですよね。というか空き家問題を本気で解消したいんだったら、新築にすごく高い税金をかけるとか、中古の固定資産税を10年間免除するとか、それくらいのことをすればいいんですよ!

鈴木
同感です。国民の数が減っていくのはわかっているのに、どんどん家を建てるのを容認してどうするんだって話ですよね(笑)。
安田
ええ。一方で購入者側も「新築が一番!」という意識を変えないといけないでしょうね。今の日本人は「みんな新築なのにウチだけ中古なんて恥ずかしい…」って思いがちなんですよ。

鈴木
日本人は「みんなと一緒」になっていることで、安心しますから(笑)。
安田
そうそう(笑)。だから「中古物件を買ってリフォームして住む」という人がどんどん増えていけば、きっとみんな何の抵抗もなく中古を買うようになりますよ。

鈴木
それが定着してきたら、今度は「引越した後、この家を売ってあげようか?」とか「この家ステキだから私に売ってくれない?」とかいうやりとりも普通になるかもしれないですね(笑)。
安田
ああ、それもいいですね(笑)。そうなると、大工さんが1棟1棟丁寧に造ってくれた昔の木造住宅のような、「100年経ってもステキなまま残るお家」がまた主流になってくるかもしれません。

鈴木
なるほど。時間の経過とともにどんどん味が出てくる家なんて、「ストーリーのある家」として販売もしやすそうです(笑)。
安田
笑。やはり中古物件に住むことが当たり前になることが、これ以上空き家を増やさない得策なんだろうということがよくわかりました。

 


対談している二人

鈴木 哲馬(すずき てつま)
株式会社濃飛葬祭 代表取締役

株式会社濃飛葬祭(本社:岐阜県美濃加茂市)代表取締役。昭和58年創業。現在は7つの自社式場を運営。

安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 

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