第77回 刻々と変化する「空き家ビジネス」

この対談について

株式会社ワイキューブの創業・倒産・自己破産を経て「私、社長ではなくなりました」を著した安田佳生と、岐阜県美濃加茂エリアで老舗の葬祭会社を経営し、60歳で経営から退くことを決めている鈴木哲馬。「イケイケどんどん」から卒業した二人が語る、これからの心地よい生き方。

第77回 刻々と変化する「空き家ビジネス」

安田
鈴木さんと「空き家ビジネス」について何度も対談しているからなのか、最近、私のところに「空き家」に関するいろいろな情報が入ってくるようになっていて(笑)。

鈴木
そうでしたか(笑)。何か面白い情報ありました?
安田
鎌倉でビジネスをされている方から聞いたんですが、どうやら今、鎌倉の空き家が大人気らしいです。物件が出たら即売れるって。

鈴木
あぁ、確かに今、鎌倉エリアは人気ですよね。というか空き家ビジネスそのものが活発化しているんだと思います。特に工務店さんの参入が増えてきている印象です。
安田
そうなんですか。それはやはり新築の着工数が減っているからですか?

鈴木
それも大きいでしょうね。そこで稼げなくなってきたから、新たに空き家ビジネスを始めたという所が多いんじゃないかな。新築ほど儲かるわけではないものの、状態が良ければそれなりの高値で売れますしね。
安田
なるほどなるほど。でも、工務店さんの参入が多いのはなぜなんでしょう。

鈴木
これは明確で、自分たちでリフォームできちゃうからですね。
安田
ああ、そうか。空き家さえ見つけられれば、後工程は自分たちで完結できるわけですね。

鈴木
そういうことです。ただ「売れそうな空き家を見つけてくる」というのがなかなか難しいとは思いますけど。
安田
そこは鈴木さんの方が得意でしょうね。…ん、ということは「空き家の仕入れ」ができる鈴木さんが、工務店やリフォーム業者とタッグを組めば、最強の空き家ビジネスができるじゃないですか!

鈴木
そうなりますね(笑)。タッグというか、自分で職人さんを1人雇うのもアリかなと考えています。普段は『のうひ葬祭』の仕事をしてもらって、空き家を仕入れた時には、リフォームの仕事をしてもらうイメージ。
安田
なるほどなるほど。自分で職人さんを雇ってしまうわけですか。それもいいかもしれませんね。…その話で思い出したんですが、鈴木さん、「半人前大工」ってご存知ですか?

鈴木
半人前? どういうことですか?
安田
神戸のある会社が「半人前大工育成講座」っていうイベントをやったら大人気だったらしくて。

鈴木

へぇ。それは大工を目指したい人が参加するんですか?

安田
いえ、違うんですって。DIY好きな人とか、ちょっと自分の家の修理やリフォームをしたいっていう人が対象で。要は、副業とか兼業で大工をしてみたい人に技術を教えるんだそうです。

鈴木
ふーむ、プロの養成をするわけではないから「半人前」ということか。それにしても副業で大工って面白いですね。頼む側もプロにお願いするより気軽でしょうし。
安田
そうそう。「半人前」だからプロに頼むより安価ですし、彼らも好きなことでお金を稼げるからハッピーだし、Win-Winだなぁと。鈴木さんの空き家ビジネスにも「半人前大工」を使ってみたらどうかと思ったんですけど。

鈴木
ははぁ、なるほど。確かに安く空き家を仕入れても、リフォーム業者にお願いするとそれなりに経費がかかりますからね。結果、売値にはその分が乗っかってしまう。
安田
ええ。だからこういう「セミプロ」のような人材をうまく活用していくのもアリなんじゃないかなと。

鈴木
なるほどなぁ。確かにそうかもしれませんね。安価にお願いできる分、プロに頼むよりむしろこだわった施工ができるかもしれませんし。
安田
そうそう。半人前大工で学んだ人が、自分で空き家ビジネスを始めるケースもあるかもしれませんよ。自分で空き家を買って、コツコツと時間をかけて修理して売るっていう。

鈴木
ははぁ、確かにありそうですね。あるいはこんなのはどうですか? こちらが空き家を用意して、「あなたのセンスで好きにリフォーム・リノベーションしてください。売れたらマージンを差し上げます」みたいな。
安田
それ、面白いと思いますよ! 大工仕事が好きな人が自分のこだわりを詰め込んだ家を作っていって、しかもそれが売れてお金が入る。これはかなりいい副業だと思います。ちなみにそもそもの話、空き家ビジネスへの参入障壁ってどれくらい高いんでしょうか? やっぱり空き家情報を仕入れるのが難しい?

鈴木
ええ、そこが一番難しいですね。先日ある企業さんから聞いたんですが、「空き家を処分したい」と思っている所有者は全体の17%しかいないらしいですね。
安田
ということは、8割近くの人が空き家をそのままにしておきたいと思っているわけですか?

鈴木
そうそう。「自分が生まれ育った家だから手放したくない」とか、そもそも「別に今急いで処分する必要もない」とか。
安田
ははぁ…じゃあ2割の顕在層は当然として、残りの8割にどうリーチをかけていくかがカギになるわけですね。

鈴木
そういうことです。ちなみにその企業さんが今考えているのは、固定資産税相当の値段で空き家を貸してもらう、というプランだそうで。それで水回りのリフォームだけして別の人に貸し出すんですって。
安田
なるほどなるほど。「売ってください」ではなく「貸してください」とアプローチすることで、心理的ハードルを下げるんですね。

鈴木
仰るとおりです。何年間か貸し出しているうちに、だんだん「もう売ってもいいかな」って思ってもらえるだろうからって。これもなかなか面白いアイディアやなぁと思いましたね。
安田
本当ですね。今後も空き家にまつわるいろんなビジネスモデルが増えていきそうで、なんだか私まで楽しみになってきました(笑)。

 


対談している二人

鈴木 哲馬(すずき てつま)
株式会社濃飛葬祭 代表取締役

株式会社濃飛葬祭(本社:岐阜県美濃加茂市)代表取締役。昭和58年創業。現在は7つの自社式場を運営。

安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 

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