この対談について
株式会社ワイキューブの創業・倒産・自己破産を経て「私、社長ではなくなりました」を著した安田佳生と、岐阜県美濃加茂エリアで老舗の葬祭会社を経営し、60歳で経営から退くことを決めている鈴木哲馬。「イケイケどんどん」から卒業した二人が語る、これからの心地よい生き方。
第82回 経営者は必ず遺言書を遺すべし
第82回 経営者は必ず遺言書を遺すべし
うーん…僕自身はあんまりそういう場面に遭遇したことがないのでなんとも言えないです。ただウチの行政書士さんは「財産がたくさんある場合は意外と揉めない」って言ってましたね。
ん? お金がいっぱいあるのに、揉めないんですか?
そうらしいですよ。相続する金額が大きすぎるとあんまり現実味がわかないんでしょうね。だから「あっちが多い」「こっちが少ない」みたいないざこざも起こりづらいと。
ふ〜む。確かに資産が何十億円もあったりした場合、100万円くらいの増減は「誤差の範囲」程度に思えてしまうのかもしれない(笑)。
だと思います(笑)。結論、一番揉めるのは「中途半端にお金がある場合」なんですよ。「遺産500万円」と言われると、金額がリアルに感じられる分、みんなシビアになっちゃうんでしょうね。
なるほどなぁ。ちなみに亡くなった人が経営者だった場合、会社の株も関係してくるじゃないですか。そうすると問題はさらに複雑になりますよね。
そうですね。経営なんて全然わからない家族が株を引き継いで、会社の方針に口出しして、結果的にぐちゃぐちゃになっていくパターンですよね(笑)。
そうそう(笑)。かといって、会社のことをよくわかっている役員さんが株を買い取ろうにも、亡くなった社長から遺産相続を受けているわけでもないし、まとまったキャッシュがないと無理ですよね。
ええ。だから結局、「実務は社員、決裁権は遺族」というような落とし所になるんでしょう。それでもお互いの会社や経営に対する解像度に差があるから、遅かれ早かれトラブルにはなってしまう。
あるあるですよね。その一方で、今の時代は「そもそも会社は継がない」と決めている遺族も少なくない。「経営のことなんてわからないので会社は売却する」となった場合、社員たちが突然路頭に迷う可能性も出てくるわけですよね。
確かにそうですね。いやぁ、難しい問題ですよ。
ちなみに私は前回お話したとおり遺言書を書いているんですが、それは保険会社の方に「経営者は絶対に遺言を書いておくべき!」って言われたからなんです。「遺言書がないと遺族と会社が揉めてしまいますよ」って。
なるほどなるほど。
実はその保険会社の方とは「揉めない保険」という相続用の保険サービスも作ったんですよ。
へぇ〜。どんな保険なんですか?
掛け捨てで保険料を安く抑えつつ、社長になにかがあった場合は「会社に」お金が支払われるという保険なんです。この「会社にお金が入る」というところがミソでして。というのも、株を相続したご遺族から「会社が」自社株を買い取れるんですよ。
あぁ、そういうことか! すごいですね、それめちゃくちゃいいじゃないですか。
ですよね。今この保険、すごく売れているみたいです。
でしょうね。だって安田さんも実感があると思いますが、中小企業の最大のリスクって「社長の命」ですからね。突然社長が死んでしまったことで、遺された会社が立ち行かなくなってしまうことが一番怖い。
ええ。そういう意味でも「自分の死後はどうするか」を明確にするのが経営者の努めかなと。そのためにも経営者は遺言を遺すべきだと思いますね。ちなみに鈴木さんは遺言書は書かれています?
…いえ、書いてないです(笑)。
そうでしたか(笑)。それはなにか理由があるんですか?
理由もなにも「別に僕が死んだとしてもウチは揉めることもないやろ」って思っているから(笑)。ただ安田さんのお話を聞きながら、そろそろちゃんと遺言書を書かなあかんかなぁと考え始めました(笑)。
ぜひご検討ください(笑)。
対談している二人
安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。