第85回 中小企業の、過去・現在・未来

この対談について

株式会社ワイキューブの創業・倒産・自己破産を経て「私、社長ではなくなりました」を著した安田佳生と、岐阜県美濃加茂エリアで老舗の葬祭会社を経営し、60歳で経営から退くことを決めている鈴木哲馬。「イケイケどんどん」から卒業した二人が語る、これからの心地よい生き方。

第85回 中小企業の、過去・現在・未来

安田
この対談のタイトルにもあるように、我々は「イケイケどんどん」を卒業しましたよね。だからこそ「現場からちょっと離れた視点」で、中小企業の「これまで」と「これから」を深堀りできるんじゃないかなと思いまして。

鈴木
なるほどなるほど。「これまで」という部分でお話すれば、僕は『のうひ葬祭』の社長として30年近く会社を経営してきましたけど、社長になった当時と今を比べるとだいぶ「企業のあり方」が変わりましたよね。
安田
わかります。私は中でも「会社と社員の関係性」が大きく変わっているような気がするんです。昔は定年まで同じ会社で働き続けることが当たり前だったじゃないですか。でも今って、新卒で入社した人の約4割が、入社してすぐに転職サイトに登録するんですって。

鈴木
入ってすぐに、ですか?
安田
そうらしいです。あとは、「昇進」を喜ばない人も増えているらしいですね。

鈴木
え、どういうこと? 昇進して管理職にでもなれば給料も上がるし、嬉しいと思うんですけど。
安田
いやいや、むしろ昇進させようとすると辞めてしまう人が多いみたいです。「管理職にさせられるんだったら今の2倍以上の給料は欲しい」と主張する人もいるとか。

鈴木
ははぁ、つまり管理職になることは「嫌なこと」なんですね。でもなぜなんだろう?
安田
もちろん人それぞれ理由はあると思いますが、今は「共働き家庭」がほとんどじゃないですか。だから管理職になって忙しくなることで、家事や育児にしわ寄せがくるのを嫌がる風潮があるそうです。

鈴木
なるほどなぁ。まあ確かに共働きが当たり前になりましたもんね。その方が家計的にも安定するだろうし。
安田
そうなんですよ。昔は結婚や出産を機に専業主婦になる女性も多かったですけど、最近は「2人で稼いで、2人で家事育児も平等に分担する」という考え方になっていますよね。

鈴木
管理職になってそのバランスが崩れるくらいなら、昇進を断って別の会社に転職すればいい、ってことですか。でも確かに、ひと昔前に比べて転職する人はかなり増えましたよね。
安田
そもそも世界では「転職して給料を増やす」ことをキャリアアップと言いますからね。そういう面では、日本もようやく意識改革ができたと言えるのかもしれません。

鈴木
でも転職をするのって、20代や30代の若い世代がメインですよね。40代での転職ってそれほど多くないんじゃないかな。
安田
40代にもなってしまうと、たとえ転職しても給料が上がるとは限りませんからね。企業側としても、40代からさらに成長することが可能なのかという懸念もあるでしょうし。

鈴木
そうですね。つまり、40代を過ぎると「今より好条件な転職先」を見つけることが難しくなると。
安田
そういうことです。で、そういう状況を見ている20代は「出世したところで、将来的な安心には繋がらないんだな」と気づく。要は、1つの会社に居続けることがリスクになると判断しているんでしょう。

鈴木
なるほどなぁ。若い世代はそういう意識で組織を見ているんですね。
安田
一方で「社長の仕事」もずいぶん変わってきたなと思っていて。昔って多少性格が悪い社長でも、商売さえ上手ければ会社は儲かっていたんですよ。でも今の時代、社長の性格が悪いと、儲ける以前にそもそも人が採用できない。

鈴木
あぁ、確かに。人が採用できなければ経営なんてできませんからね。
安田
そうなんですよ。だから今はある意味「人間性の良さ」も社長の仕事になるのかもしれません。

鈴木
なるほど(笑)。でも真面目な話、社長の人生観や価値観が問われる時代になってきてますよね。何か間違ったことをやればSNSですぐに炎上するし。
安田
そうそう。昔は社長室がやたら豪華だったり、社長だけ夕方から銀座に飲みに行ったりするのって、わりと当たり前でしたよね? 「社長ってそういうものだ」って思われていたというか。でも今は「この社長、ヤバいぞ」ってすぐバレちゃうじゃないですか(笑)。

鈴木
「こんなことやってる会社、すぐ潰れるんじゃないか?」って、社員がどんどん辞めていっちゃうでしょうね(笑)。
安田
ええ。でもこうやって考えてみると、私たちが「イケイケどんどん」だった時代とはずいぶん変わりましたよね(笑)。

鈴木
そうですねぇ(笑)。僕や安田さんの若い頃って、バリバリな競争時代だったと思うんです。それこそ相手を蹴落としてでも仕事をもぎ取ってくる、みたいな。でも今はそういうあからさまな競争は少なくなってますね。
安田
「競争して勝ち残る」というよりは「競争せず、選んでもらう」という方にシフトしてきている感じがします。戦わずして勝つ、とでもいいますか。

鈴木
「不戦勝」ですね。前にも言いましたけど、僕の一番好きな言葉です(笑)。確かに社長としては、戦わないでも勝てるようなマーケットを見つけたいところですよね。
安田
ええ。でもなかなかな、私たちのような「昔ながらの経営者」には難しい気もするんです。これからの中小企業は一気に若い経営者に世代交代して、ガラッと変える方がいいかもしれないですよ。

鈴木
確かにねぇ。…ウチも実は先月に息子が会社に戻ってきたんですよ。今すぐというわけではないですが、ぼちぼちと仕事の引き継ぎをしていこうかなと思っておりまして。
安田
へぇ、そうでしたか。息子さん、おいくつなんですか?

鈴木
29歳です。
安田
鈴木さんは60歳で引退されるって仰っていましたよね。ということは交代までは…

鈴木
あと4年くらいですかね。その頃には息子も33歳で、僕が社長になった時と同じ年齢になるので、ちょうどいいタイミングかなと思っています。
安田
なるほどなるほど。ちなみに会社を引き継いでいく時って「経営者の先輩」としていろいろ教えたくなっちゃうと思うんですが、やめた方がいいみたいですよ(笑)。「ハウツー」を教えたことによって、若い世代の経営者は、かえってつまずいてしまうことが多いらしくて。

鈴木
ああ、なるほど。そもそもボクらの時代の「ハウツー」が、これからの時代に通用するかはわかりませんもんね。確かに僕も、先代社長の言うことは「うんうん」って言いながら聞き流していました(笑)。「そんなもん、今の時代に通用せんわ」って思いながら(笑)。
安田
ですよね(笑)。これからの時代を生き残っていける会社になるためにも、若い世代の感覚を信じて任せる方がいいのかもしれないです(笑)。

 


対談している二人

鈴木 哲馬(すずき てつま)
株式会社濃飛葬祭 代表取締役

株式会社濃飛葬祭(本社:岐阜県美濃加茂市)代表取締役。昭和58年創業。現在は7つの自社式場を運営。

安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 

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