第26回 最低賃金は「上がる前提」で考える

この対談について

住宅業界(新築・リフォーム・不動産)の「課題何でも解決屋」として20年以上のキャリアを持つ株式会社ランリグが、その過程で出会った優秀な人材を他社に活用してもらう新サービス『その道のプロ』をスタートしました。2000名以上のスペシャリストと繋がる渡邉社長に、『その道のプロ』の活用方法を伺う対談企画。

第26回 最低賃金は「上がる前提」で考える

安田
最低賃金が全国平均で1,000円を超えましたね。

渡邉

いやぁ、超えてしまいましたね。

安田
と言うと、渡邉さんは最低賃金を上げることには反対なんですか。

渡邉

最低賃金を上げること自体は賛成ですけど、景気がコロナ前くらいまで戻ってからの方がよかったんじゃないかとは思いますね。

安田
なるほど。まだ時期が早いのではないかと。

渡邉

ええ。今はまだ景気が戻ってきている途中だと思うので、そこで会社にとって痛手になるようなことをすると、景気に影響するような気がして。

安田
でも、税金や社会保険料がどんどん上がって社員の手取りが減っている中で、企業は全然給料を上げてこなかったわけで。初任給なんて私が新卒のときとほとんど変わってませんからね。

渡邉
確かにそうですね。適切なタイミングでの最低賃金アップは必要だと思います。インフレにならないと景気が回復しないとも言われていますし。
安田
最低賃金を上げれば間違いなくインフレになりますからね。人件費が多くの割合を占める「労働集約型」の産業が多い日本では、人件費が上がれば売値を上げざるを得ないわけで。

渡邉
そうすると結果として物価高になって、さらに賃金も上がっていくと。岸田さんも1,500円までは絶対に上げるって言ってますし。
安田
そうですね。それでも世界的に見たらまだ安い方で、もう今は日本から海外に出稼ぎに行く人がどんどん増えてますからね。

渡邉
日本に出稼ぎに来た時代はとっくに終わっているということですよね。そう考えると先送りせずに上げていった方がいいのかもしれませんね。
安田
私はもうチビチビ上げずに、1,500円だったら1,500円まで1〜2年で一気に上げた方がいいんじゃないかと思うんですよ。
渡邉

ははぁ、なるほど。

安田
松下幸之助さんも昔言ってましたけど、「下請けに1割下げろと言うと下請けは苦しむ。でも半額にしろと言うと、今までのやり方ではどうにもならないから新しいやり方を考える」と。結果的に下請けにもイノベーションが起こるきっかけにもなるわけです。

渡邉
確かにそうですね。とはいえ急激に最低賃金が上がると、資金力のない中小企業の採用はさらに厳しくなりますね。住宅業界でも最近は毎週のように知名度のある工務店さんが倒産していたりするので。
安田

確かに、給料を上げられる会社に応募が集中するでしょうね。そういえば以前のお話で、住宅建築業界には「住宅建築が大好きでこだわりのある家を作りたい」という人よりも、「住宅業界は儲かるからやろう」という人が多いと仰っていましたけど。


渡邉
もちろんそれ自体は悪いことではないですが、特にリフォーム業界はそういう会社が多い気がします。
安田

それっていわば「波に乗る経営」というか。例えば「高級食パンが儲かってるから高級食パン屋をやろう」みたいなことですよね。売れているときはいいけど、皆がそれに飽きたら終わってしまう。


渡邉
うーん、そう考えると住宅業界だけが厳しいというよりも、「儲かるからやろう」という経営自体が成り立たなくなっているのかもしれませんね。
安田

そうですね。「自分がどうしてもこの商品を売りたい」とか、「このこだわりをどうしても事業にしたい」というところをスタートにする方が主流になっていく気がします。

渡邉
そうすると経営者は「自分が何をしたいのか」をより明確に考える必要がありますね。
安田

そこをちゃんと考えないまま、感覚で経営できていた時代の方が異常だったのかもしれませんよ。


渡邉
ああ、なるほど。でも現実的に、住宅業界は全体的に「もの作り」ではなく「もの売り」になっているんです。「ある程度の費用でそこそこおしゃれな家を手に入れる」というマーケットが今はまだ一番大きいので。
安田
その意識を変えていかないと、これから本当のこだわりを持った人が業界に入ってきた時、今までの経営者が軒並み勝てなくなってしまう気がしますね。

渡邉
あるいは、どれだけ高くてもこだわった家に住みたいという方向か、他の家と全く同じでも安ければいいという方向か、ニーズが二極化していくのかもしれませんね。
安田

そうかもしれません。ただそうなると後者は、大量に同じ家を建てられる大手にはどう考えても勝てないわけで。


渡邉

そこに競争を挑んでいくのかってことですよね。大手企業くらいの規模がないなら、こだわりの商品を売った方がいいんじゃないのかっていう。

安田
まさにそうですね。こだわりをしっかり持つことで、そこに共感してくれる社員が集まってきて、さらにそこを理解してくれる人がお客さんになってくれるわけですから。

渡邉

時間はかかるけど、少しずつ安定して儲かるような経営になっていくってことですよね。そういう風に長期的に見て最低賃金もさらに上がっていく前提で考えないと。

安田

そうですね。個人的には「あと3年で1,500円になる」っていう前提でビジネスモデルを組んだ会社だけが残っていくと思いますね。

渡邉
うーん、なるほど。結局のところ、きちんと給料を上げているところは、定着率もいいですもんね。
安田

そりゃそうですよ。

渡邉
会社の理念や社訓などで熱狂を作って、なんとか社員をついて来させていた時代もありましたけど(笑)。
安田
今思えばそれは理念じゃなく洗脳だったんじゃないかとも思いますよね。雰囲気で巻き込んでいただけなので。
渡邉

確かに。本当の理念なら今の時代でも通用するはずですからね。

 


対談している二人

渡邉 昇一(わたなべ しょういち)
株式会社ランリグ 代表取締役

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1975年、大阪市に生まれる。大学卒業後、採用コンサルティング会社ワイキューブに入社。同社の営業、マーケティングのマネージャー、社長室長及び、福岡などの支店立上げを担当し、同社の売上40億達成に貢献した。29歳の年に株式会社ラン・リグを設立し、今期20期目。述べ900社以上の住宅会社のマーケティング、人材コンサルティング支援と並行し、500店舗以上が加盟するボランタリーチェーン「センリョク」など、VC、FC構築にも多数携わる。また、自身が司会を務め、住宅業界の経営者をゲストに招き送る自社のラジオ番組は、6年間で、延べ300回以上の配信を経て、毎月2万人以上の業界関係者が視聴する番組に成長した。今年5月には、2000人以上のプロ人材とのネットワークを生かした~社長の右腕派遣サービス~【その道のプロ】を本格リリース。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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