不得意を仕事にする唯一の生物

自分の特性を活かす。自分の顧客と出会う。これはどんな生物にも当てはまる行動原理である。アザラシは泳いで魚を捕まえるが、木に登って果物を食べたりはしない。キリンは高い樹木の葉っぱを食べるが、ウサギを追い回して捕まえたりはしない。いちばん楽に、いちばん自然に、いちばん快適に生きる。それが長生きするための正しい選択であることを彼らは心得ている。

だが賢いはずの人間だけがこの原理を無視する。提案することが苦手なのに営業職に就いていたり。人と話すことが苦手なのに接客業をやっていたり。お金のために向いていないことでも職業として選択する。何が得意かではなく、より多く稼げるかどうかで仕事を選ぶ。それが人間の特徴である。

好きや得意を仕事にできるのは恵まれた人だけ。普通の人は我慢して働くしかない。稼げない仕事など単なる趣味でしかない。多くの人はこう考える。その結果、木に昇り続けて鬱になるアザラシや、ウサギを追いかけて体を壊すキリンが続出する。疲れるし、心を病むし、成果は上がらないし、いいことなど何もない。そういう不思議な選択を人間だけがやり続けているのである。

もちろんキリンやアザラシだって努力はしている。より早く魚の群れにたどり着く努力。より多くの木が生えている草原に移動する努力。自分の特性を活かす努力と自分の顧客と出会う努力。それが正しい努力だ。好きや得意を仕事に結びつけることは間違っていない。稼げないのは自分の顧客と出会うための正しい努力をしていないだけ。その現実に気がついていない。

どこに行けば魚の群れに出会えるのか。どこに行けば食べられる木が生えているのか。マーケットを観察し、作戦を考え、顧客に出会うための努力をする。これをやらずに飯が食えるはずがない。好きや得意では飯が食えないのではなく、顧客と出会う努力をしないから飯が食えないのである。

好きや得意では食えないから不得意で嫌な仕事でも我慢して稼ぐしかない。これが多くの常識人がたどり着く答え。なぜ人間だけがこのように不自然な行動をするのかとても不思議である。自然界はとてもシンプルだ。足が速い動物はその速さを活かす。小さな動物はその小ささを活かし、鼻が効く動物は嗅覚を活かす。自らの特性を最大限に生かしながら最も楽な方法でエサ(自分の顧客)を捕まえる。なぜこんなに簡単なことが人間には出来ないのだろうか。

 

この著者の他の記事を見る


尚、同日配信のメールマガジンでは、コラムと同じテーマで、より安田の人柄がにじみ出たエッセイ「ところで話は変わりますが…」と、
ミニコラム「本日の境目」を配信しています。安田佳生メールマガジンは、以下よりご登録ください。全て無料でご覧いただけます。
※今すぐ続きを読みたい方は、メールアドレスコラムタイトルをお送りください。
宛先:info●brand-farmers.jp (●を@にご変更ください。)

 

感想・著者への質問はこちらから