恩返しの原理

子育てに見返りを求める親はいない。だけど子は親に恩返ししようとする。それが人間という生き物。自然界の動物は育ててくれた親に恩など返さない。人間の世界には血が繋がっていない親子もいて、見返りを求めず子育てをする。そうやって育った子供は血が繋がっていなくても親に恩を返そうとする。

人と人の絆はこうやって生まれる。遺伝子でも血の繋がりでもなく「見返りを求めない無償のギブ」が絆を作るのだ。親子だから絆が生まれるのではない。飯を食わせてもらったから絆が生まれるのでもない。見返りなど求められず一方的に与え続けられた時間。それが切れない絆を生み出すのである。

では会社はどうだろう。家族のように社員を大切に考える経営者。そこに絆は生まれるだろうか。社員は血の繋がった家族ではない。だが絆は血の繋がりによって生まれるのではない。だから社員との間に絆が生まれることはある。ただしそこには無償のギブが必要だ。では社員への無償のギブとは何だろう。

そもそもビジネスと子育ては違う。普通の会社は見返りを求めず人を育てたりはしない。見返りを求めず給料を払ったりもしない。だからどんなに一生懸命育てたとしても恩など感じることなく転職していく。こんなに一生懸命育ててやったのに。給料を払いながら育ててやったのに。それが経営者の本音だ。

つまり見返りだらけの子育てなのである。もちろん育ててもらった恩くらいは感じるだろう。だが見返りを求めるギブは絆を生み出さない。繋がっているように見えてぷつりと簡単に切れてしまう。損得で考える経営者は必ず損得で見切られる。多少の恩を感じても転職した方が得だと判断されてしまう。

もし本気で社員との間に家族のような絆を求めるのなら、子育て同様に「無償のギブ」が必要である。決して見返りなど求めない。新卒や未経験者を採用し、報酬を払いながら丁寧に仕事を教え、すくすく育って転職していく彼らを心から祝福し送り出す。まさに親心がないと利害を超えた絆は生まれない。

投資として人を育てるなら恩返しなど当てにしてはいけない。こちらが計算ずくで育てているように相手も計算ずくで育っているのだ。今あるスキルでしっかり利益貢献してもらうこと。その見返りとして報酬を払い新たなスキル取得をサポートすること。新卒採用をするなら無償のギブだと割り切ること。

 

 

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