日曜日には、ネーミングを掘る ♯072 カットアップ

今週は!

今回のブログは、いつもの私ではなく「僕」でいきたいと思います。特に理由はありません。もしくは、理由は特にありません。

僕は、佐野元春というシンガーソングライターが好きで、アルバムはデビューの年(1980年)に発売された『BACK TO THE STREET』から最新作『MANIJU』まで買い続けております。ここまで追いかけているのは、もちろん歌に惹かれるからなのですが、もうひとつライティングのテクニカルな部分にとても大きな影響を受けていることがあります。なかでも佐野さんがよく用いるカットアップの手法は、フェースブックに書き込みをする時などによく使わせていただいています。

このカットバック手法について、佐野さん本人が語っているのを、先月WWD JAPAN.comのインタビュー記事で読みました。https://www.wwdjapan.com/s/877263

WWD:ウィリアム・バロウズが用いた”カットアップ”(フレーズをバラバラにして組み直すことで新たな意味や解釈を持たせる)の手法が佐野さんの作品には多く見られます。

佐野:”カットアップ”は聞き手や読み手の感性を信じている手法だと考えています。作者の感性に沿って並べ替えられた言葉は、受け手にある程度リテラシーがないと通用しない。僕が”カットアップ”を初めて用いたのは15歳の時に作った『情けない週末』です。“パーキング・メーター”“ウイスキー”“Jazz men”など一見脈絡のない言葉の羅列もビートやメロディーと歌唱が伴うと、ある景色が見えてくるはずです。

インタビューによれば、この曲は、年上の女性に心を寄せる少年(おそらく15歳の佐野元春)が六本木をぶらつきながら飛び込んできた景色を物語に落とし込んだものということですが、佐野さんが延べている通り、歌詞の途中でランダムな単語が並ぶ箇所が出てきます。

パーキングメーター
ウィスキー
地下鉄の壁
Jazz men
落書き
地下鉄の壁

2番では、こんな感じ。

死んでる噴水
酒場
カナリアの歌
サイレン
ビルディング
ガソリンのにおい

僕はこの曲をカラオケでよく歌いますが(数少ない持ち歌のひとつなのです)、たしかに15歳の少年が見ている景色と、少年の胸の内にある感情がなんだか伝わってくるのです。

悲しさや嬉しさ、怒りや滾(たぎ)り、人は誰しもが自分のなかに生じた感情を誰かしらに伝え、共有したいと思っています。けれど、その伝え方は人それぞれ。

僕がカットアップの手法が好きなのは、こうした感情をダイレクトに表現する言葉を使わずに分かり合える人たちとコミュニケーションしたいんだな、ということがインタビューを読んで改めてよくわかりました。

成田逃走の果て
地上という海の底
主翼の先をぴんと跳ね上げ
行き交う太っちょのドルフィン
足元に転がっている花梨
遠くには外資資本に
買い取られたホテル

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