変と不変の取説 第10回「マストで生きないために」

「変化だ、変化だ、変化が大事だ」とみなさんおっしゃいますが、会社も商品も人生も、「変えなくてはならないもの」があるのと同様、「変わらないもの」「変えてはならないもの」もあるのです。ではその境目は一体どこにあるのか。境目研究家の安田が泉先生にあれやこれや聞いていきます。

 第10回 「マストで生きないために」

前回「行き当たりばっちりの仕事」

安田

えーと、「何ばっちり」でしたっけ?

「行き当たりばっちり」ね。

安田

でも、旅行にしても、人生にしても、計画を立てることも大事ですよね?旅先のレストランを予約しておくとか。それは間違ってるんですか?

目標が決まっていて、その中で100点に近づけようと思うなら、それでいいんじゃないですか。

安田

たとえば旅先で美味しいものを食べ歩くんだったら、事前に調べて店を予約しておいてもいい?

それが旅行のゴールだと決めてるのであれば。

安田

でもそれでは100点以上にはならないと?

偶発性がまったくないんで。

安田

偶発性?

「プランド・ハップンスタンス理論」っていうのがあるんですけど。キャリアの8割は偶発で決まってるという理論なんですね。

安田

8割が偶発?

いろんな人のキャリアを調べてみると、8割が偶発だったということです。計画なんかしてないところで自分のキャリアにたどり着いてた。

安田

じゃあ、努力しようがないですね。

「いい偶発を起こす状態」をつくってあげることは出来ます。

安田

どういうのがいい偶発なんですか?

いい偶発っていうのは「タイミングめっちゃええやん」ってやつですよ。

安田

タイミング?

「あっ!これ、知りたかったんや!」とか「俺、この人に会いたかったんや!」とか。今、自分が本当に求めてる何かに、タイミングよく出会う。

安田

そういう「いい偶発」を起こすには、何が大事なんですか?

出会いをスルーしないことです。

安田

でも、自分が求めているならスルーしないでしょ?

求めていることに、自分で気がついてないんですよ。マストで生きてるから。

安田

マストで生きてるから?

はい。マストっていうのはマトリックスの世界。つくられた世界なんです。

安田

つくられた世界?どういうことですか?

昔だったら「軍人にならなければならない」というマストがあったので、「軍人になるにはどうしたらいい」という世界しか見えなくなるんです。

安田

じゃあ、今の社会のマストって何ですか?

たとえばいい学校に行って、いい会社に入る。出世する。家を買う。というマスト。

安田

そのマストに縛られると・・・

いい偶発が起こらない。

安田

マストではなく、自分の心の声に耳を傾けることが大事?

そういうことですね。

安田

じゃあ、会社選ぶ時も有名企業とかではなく「自分は何をやりたいか」「どうなったらうれしいか」に耳を傾ける。

そうすれば「いい偶発」が起こりやすくなる。

安田

自分に合う仕事に「行き当たりばっちり」になると。

そうです。だから学校の先生も、そこに意識をむけさせて、引き出せばいい。本来は。

安田

たとえば、どういう授業をすればいいんですか?

たとえば歴史を教える時に、歴史漫画やアニメを見させて、「おまえ、生きるんだったらどの時代がいい?役割的には誰がいいの?この登場人物の中で」とか考えさせる。

安田

なるほど。ただの年表の暗記では意味がないと。

そう。あれは時間の無駄。歴史の中で自分のロールモデルというか、生き様を探させる。そうしたら自然と、年代やその時の情勢なども調べ始めるのです。

安田

「本当は、そういうことを教えたいんだ」っていう先生も結構いるんですか?

いるんですけど、先生たちは与えられたカリキュラムで生徒の成績を上げないといけないんで。成績っていうのは、さっき言ったマストの世界なんですよ。

安田

カリキュラムって絶対やらないといけないんですか?

先生のほとんどは公務員ですから。

安田

じゃあ志があっても出来ないってことですか?

そうです。だから学校の先生はかわいそうですよ。志ある先生ほど。

安田

昔はどうだったんですか?寺子屋の先生は公務員じゃなかったんですか?

ぜんぜん違います。

安田

違うんですか。

あれは地域の人たちが、お金を出し合ってやってた。

安田

殿様が「寺子屋を30件つくれ」とか、そういうんじゃないんですか?

違います。藩校がありましたけど、それは武士向けなんですよ。

安田

寺子屋はじゃあ町人向けですか?

誰でもOKなんです。武士でもべつにいいんですよ。寺子屋は誰でもOK。

安田

じゃあ、武士と農民が一緒に学んでた?

寺子屋ではそうですね。でも武士の子は基本的には、藩校に行きますので。

安田

寺子屋で教えてたのは、誰なんですか?

武士あがりの人とか、浪人とか、あとは書道とかそろばんの上手い町人とか。

安田

殿様の命令ではなく?

そうです。自然に寺子屋ができて、増えて行ったんです。

安田

ちょっとイメージが湧かないんですけど。今だったら「寺子屋つくろうよ。先生探そうよ」みたいなことって、まず起こらないじゃないですか。

当時は塾とか学校がなかったからですよ。今は義務教育というマストの世界があるので。

安田

何パーセントぐらいの人が、文字を読めたんですか?江戸時代って。

城下町とか都会では8割ぐらい。

安田

農民もですか?

そうです。近くの農民は。で、田舎のほうは半分から4割ぐらいと言われてます。

安田

それって、すごいことですよね?

奇跡ですよ。当時の世界では、一部のエリート層しか文字が読めませんでしたから。

安田

ちなみに寺子屋では、決まったカリキュラムはあったんですか?

ないんですよ。だから教え方は先生ごとに違う。

安田

教える内容は「読み・書き・そろばん」ですか?やっぱり。

あとは儒教ですよね。朱子学とか。

安田

それは哲学みたいなもんですか?

人間学ですね。

安田

人間学を教えてたんですか?

そうです。

安田

たとえば、どんな?

たとえば「子曰わく、明日に道を知れば、夕に死しても可なり」ってなことを言うわけですよ。

安田

ほう。

すると子どもたちが「子曰わく、明日に道を知れば、夕に死しても可なり」みたいに繰り返す。素読っていいますけど、何のこっちゃよく分からないんですよ、これ。

安田

分からないですね。

でも、だんだん分かってくるんですよ。

安田

どうやって?

まず言葉だけは暗記しておいて「これの意味を深く問うてみよう」みたいな議論をするんですよ。

安田

議論しながら「じゃあ、これはこういうことなのか」みたいなことに、たどり着いていくわけですか?

そうです。「道ってなんやねん。真理のことか?」とか、いろいろ話すわけです。

安田

それ、先生は教えないんですか?

教えないです、何も。

安田

教えないんですか?

先生はヒントを与えて「あとはみんなで考えろ」みたいな、「話し合え」みたいな。

安田

楽ですね(笑)

楽なんです(笑)

安田

なるほど。じゃあ、寺子屋の延長線上で、今の学校になったわけではないと?

違います。明治維新の後は義務教育なので。西洋の仕組みで、市民を全員軍隊にするための教育なんです。

安田

ということは、それまでの伝統的な日本の教育は、1回ぶつっと切れちゃってるってことですか?

一部だけ残ってたんですけど「戦後の義務教育」に関してはもう、まったく繋がってないですね。

…次回へ続く…


場活師/泉一也と、境目研究家/安田佳生
変人同士の対談


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第1回:「変わるもの・変わらないもの」
長い間、時間をかけて構築された、感覚や価値観について問い直します。

ブルー・オーシャン戦略は、未知の新大陸を探しだす作業ではありません。
新たなブルー・オーシャンは今いるレッド・オーシャンの中に無数に存在するのです。

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