第240回「スマホは受験を変えるのか」

この記事について

2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第239回「5周遅れの教育」

 第240回「スマホは受験を変えるのか」 


安田

公立2,000校で先生の欠員が3割も出ているそうです。

石塚

そうなんですよ。いま先生のなり手がどんどん減ってまして。

安田

「もう先生は要らないんじゃないか」って話を前回しましたけど。これを機に先生をなくして、教え方を変えちゃうという手もありますよね。

石塚

個人的にはそれがいいと思います。というか1日も早くそうしてほしい。けどたぶん日本では無理だと思う。

安田

国のシステムを考えている人に問題があるんでしょうか。

石塚

彼らも同じ「日本の教育」を受けてきた人なので。

安田

しかもエリートですからね。過去の成功体験で教科書をつくったり、授業の内容を考えたり。

石塚

若い人材の方が仕事を覚えるのも早いし、実際に仕事ができてしまう時代なんですよ。

安田

教育も若い人に委ねた方がいいと。

石塚

そう。実はこれって、かつてのリクルートで証明されていて。

安田

かつてのリクルート?

石塚

安田さんが入社した頃のリクルートって平均年齢いくつでした? 25歳ぐらいだったんじゃないですか。

安田

そんなに若かったんですかね。

石塚

だって1,000人採用をやってた頃なので。

安田

たしかにそうですね。1,000人採用を2年ぐらいやって。社員数が3,000人ぐらいでした。

石塚

そう。社内に22、23、24歳の社員しかいないんですから。

安田

そうでした。

石塚

だから平均年齢が25歳代だったんですよ。

安田

なるほど。

石塚

あの時って「そんな若造が」という空気じゃなく、「どんどんやれ」みたいな感じだったじゃないですか。

安田

そういう社風でしたね。「自ら機会を創り出し」っていう。

石塚

そうそう。「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ」

安田

あのときのリクルートのスローガンは今の時代と合致してますね。

石塚

合致しているわけです。

安田

リクルートってすごい会社ですね。

石塚

野村證券もかつてはそうでした。野村の人事政策って「キープヤング」なんですよ。つまり「若いやつをどんどん抜てきして上にあげろ」っていう。

安田

野村證券ってすごいヒエラルキーのイメージですけど。

石塚

野村はキープヤングだったはずが、老害が跋扈しちゃって。途中でちょっとおかしくなっちゃいました。

安田

昔は違ったんですか?

石塚

危機になると必ず2世代ぐらい若い社長が登板して。それが野村の伝統ですよ。

安田

でも組織ってずっと若くは居られないじゃないですか。毎年1歳ずつ歳をとるわけで。

石塚

そうなんですよ。いずれみんな老害になる。

安田

一旦権力を手に入れると、そこに居座りたくなるし。なぜリクルートはそうならないんでしょう。

石塚

社長の年齢を暗黙裡に決めているからだと思う。いまは40代前半でホールディングスの社長じゃないですか。

安田

そんなに若いんですか!

石塚

はい。いまの出木場さん45~6ですよ。基本的に45前後で社長に登板させるじゃないですか。

安田

それはカルチャーの問題ですか?たとえば中国の習近平さんみたいに、任期は決まっていたけど、自分で法律を変えちゃうみたいな。プーチンさんもそうですけど。

石塚

プーチンと習近平はその典型ですね。

安田

権力者はそうやって居座ったりするものじゃないですか。そういうことは起こらないんですか?リクルートでは。

石塚

リクルートの場合は暗黙の掟で。自分も若くして登板するけど、一定の年齢が来たら「もっと若い人」にどんどんバトンを渡していく。

安田

暗黙の掟ですか。

石塚

ホールディングスのトップが45なので、いま子会社の社長は37~8ですよ。

安田

すごい若さですね。組織的に「そこでじっとしているわけにはいかない」みたいな圧力があるんですかね。

石塚

トップ年齢の掟みたいなのがずっと続いてます。それがひとつの要因じゃないかなと僕は思います。

安田

掟まで行っちゃうと定着するんですかね。

石塚

キープヤングという野村の人事政策ポリシーも、いまの時代にすごく合ってるんですけどね。

安田

今回のテーマである「学校の先生の質が保てなくなる問題」に関してはどうですか。ここもキープヤングで先生の年齢を一気に下げて入れ替えちゃうとか。

石塚

ここに関しては前回お話しした通り、「先生が授業で教える」ってことを辞めたほうがいい。

安田

なるほど。

石塚

「分からないことがあったら、みんなで一緒にタブレットで探そう」でいい。

安田

そうなると教員資格自体が変わっちゃいますね。

石塚

企業で居場所がなくなってきた40歳以上の人を、半年座学、半年実務研修で、教員免許を出しちゃったらいい。40ぐらいから転身させて。

安田

それはすごい変化ですね。

石塚

もう勉強は教えなくていいので。「人生経験はある」って人に「上から教えなくていいよ」「寄り添うだけでいいよ」って。

安田

生徒が勉強してるのを見てるだけ。

石塚

そう。見守りですね。見守りでいい。

安田

昔の寺子屋はそうだったみたいですね。それぞれの生徒がやりたいように勉強して、その頃の学力がいちばん高かったと言われてます。

石塚

明治から軍隊式になっちゃって。殖産興業・富国強兵で「兵隊と工場労働者を大量につくる仕組み」がいまだに続いてる。

安田

ですよね。社会人経験なんて全くない人が教えて。

石塚

去年ほら、共通テストでスマホを使ってカンニングした女子学生がいたじゃないですか。

安田

いましたね。

石塚

世間は叩いたけど「これ、すごいな」と思ったんです。ある意味「共通テストなんか意味ないよ」ってことを証明しちゃったようなもので。

安田

私もアメリカの大学に行ったときに驚いたんです。すごく難しい計算をみんなさらっとやっていて。よく見たらみんな電卓を使ってるんですよ。

石塚

そりゃ速いわ(笑)

安田

「試験に電卓使っていいのか!」ってびっくりしたんですけど。「いいんだ。どうせこれを使って仕事するんだから」って。

石塚

その通りじゃないですか。もう計算なんて人間がする必要もない。式だけ作れたらそれでいいわけですよ。

安田

べつに暗算でやる必要もないですもんね。

石塚

ないない。いまや電卓ではなくコンピュータを持ち歩いているわけですから。

安田

確かに。

石塚

スマホが登場したってことは、受験勉強がいらなくなったってことなんですよ。ここにもう親は気づかないと。

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石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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