第239回「5周遅れの教育」

この記事について

2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第238回「これがない会社はもう退場です」

 第239回「5周遅れの教育」 


安田

パソコンとネット環境だけ提供して、なにも教えずただ見守ってる学校がインドにあるそうです。

石塚

あれは凄いですよね。

安田

みんなあっという間にパソコンを使えるようになるんですって。

石塚

ネットも繋がってるから自分でいろいろ学習して。勝手に学力が上がっていくという。

安田

昔の寺子屋みたいですね。それぞれ自由に勉強して。

石塚

興味があることをどんどん深掘りしていって。本来のカタチですよこれが。

安田

先生の数が足りなくて苦肉の策だったらしいですけど。

石塚

実は教育理論の世界でいちばん最先端とされているのがこのモデル。

安田

そうなんですか!

石塚

「もう先生って必要ないんじゃないか」というところがスタートで。知ってる・知ってないに関してはスマホにかなわないから。

安田

スマホがあれば知識を学ぶ必要はないと。

石塚

先生が「知識をあげる」という役割にもう意味がなくなってます。

安田

たしかに。

石塚

先に生まれていようが、小学校1年生だろうが、スマホ操作さえできればなんでも調べられますから。

安田

親より詳しいなんて当たり前なんでしょうね。

石塚

好きな分野に関しては間違いなくそうなります。「知識を与える」という先生の役割は「もう終わったんじゃないの?」っていうのが教育理論の最先端です。

安田

そんな気がします。

石塚

子どもたちが興味をもつ場とか、いろんなことを考える場とか、先生はそのシチュエーションをつくるファシリテーターの役割に変わる。

安田

ずいぶん役割が変わりますね。

石塚

先生というより司会、そういう役割に徹したほうがいいです。もう教壇に立って伝えることなんて何もない。

安田

親も同じですよね。「こうやったほうが将来いいぞ」って親もよくわからない時代なので。

石塚

おっしゃる通り。

安田

インドでは「ただ横でほめてあげる役割」のおばあちゃんがいるそうです。褒めてあげるだけで、みんなどんどん吸収して、いろんなことが出来るようになっていくそうです。

石塚

理にかなっていますよ。強制されて面白くもないものを無理やり覚えさせられるより。自分が興味をもっていることを「いくらでもやっていいよ」って。

安田

褒めてあげるだけでいいんですね。

石塚

「すごいねー!」なんて大人がほめてくれたら、子どもはすごく嬉しいじゃないですか。

安田

たしかに。

石塚

そしたら「もっとやろう」って思う。誰に言われなくてもやる気が出てきますよ。

安田

うちの子どもなんて3歳にして勝手にYouTube見て、「オーマイガッド」とか言ってますよ。

石塚

天才の血筋が流れてますね(笑)

安田

いやいや(笑)小さい子は誰でもタブレットを渡しておけば勝手に使い方を覚えます。すごいですよ。

石塚

すごいですよね。とくにYouTubeはすごいなと思います。何でも調べられますから。何でもありますからね。

安田

学校に行くと先生は選びようがないですけど、YouTubeなら自分で先生を選べます。

石塚

そうなんですよ。しかも、それが無料じゃないですか。

安田

すごい時代ですね。

石塚

せいぜいプレミアムを払って広告をとばすぐらいで。水道の蛇口をひねるがごとく情報やノウハウがいくらでも出てくる。

安田

本当に先生が要らなくなっちゃいますね。

石塚

ミネルバ大学という大学がありまして。知ってますか?

安田

いえ。どこにあるんですか?

石塚

ミネルバ大学は建物がないんですよ。

安田

N高みたいですね。

石塚

ハーバードのようなトップ校の教育理論をやっている人たちが作った大学です。

安田

どんな大学なんですか?

石塚

「もう大学って建物もいらないし教える必要もない。ただ最高の環境を用意してファシリテーションする。そのコンテンツを組み上げて大学つくったらどうだ」って。

安田

すごいですね。でも校舎がなくて生徒が集まるんですかね。

石塚

数年前にスタートしたんですけど、これがいま全世界で大人気で。

安田

なんと。世界はどんどん進んでいきますね。

石塚

ミネルバ大学に入ると8か国を4年かけて移動するんです。移動しながらグループワークとセッションをする。あとはフィールドワーク。

安田

フィールドワーク?

石塚

実際に企業とコラボして働かせてもらったり。授業はすべてオンライン授業で。

安田

世界を回るのもオンラインですか。

石塚

回るのはリアルです。1年に2か国ずつ、学生は指定されたところに行くんです。

安田

へぇ~。面白い。

石塚

いろんな建物を借りていて、そこに行って学ぶんだけど学校じゃないんです。いわゆる校舎のような建物はないんですよ。

安田

壮大ですね。

石塚

いろんな国をまわりながらオンラインで授業を受けていく。そういうメソッドです。

安田

むかし駅前留学というのが流行りましたよね。「日本にいながら海外の大学に行ける」みたいな。

石塚

オンライン留学は今でもあります。すごく種類も増えてますよ。何といってもリアルより安いですから。

安田

日本の大学に行くより安いんですか。

石塚

安い。そして世界の最先端を学べる。日本は大学設置法があるから、必ず一定の土地があって建物をつくらないと大学が開けないんですよ。

安田

日本はこういう取り組みが遅いですよね。

石塚

日本ではミネルバ大学なんて永遠に無理です。

安田

N高にも校舎がありますからね。

石塚

ハード前提で、教室をつくって、先生が大勢の人にマイクでしゃべるって。もう終わってますよ。

安田

これからは親もファシリテーターに徹した方がいいんでしょうか。

石塚

そう思います。学習環境だけ用意して見守ってあげた方がいい。何を学ぶべきか大人にもわからない時代なんだから。

安田

国の義務教育もそういう方向にいかないんでしょうか。環境だけ用意してくれて、あとは「好きにやってちょうだい」って感じで。

石塚

そうなるべきだけど難しいでしょうね。いまだに昭和世代の学校という概念から抜けられない人たちが制度をつくってるから。

安田

小中学生がマスクしながら黙食して。会話もさせず。

石塚

紙の教科書をたくさん背負ってね。もう世界から5周ぐらい遅れてますよ。

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石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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