ルールに隠された意図を読め!
第27回「どこまでが労働なのか」

この記事について
税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第27回「どこまでが労働なのか」


安田

残業代の定義についてちょっと聞きたいんですけど。

久野

はい。

安田

どこまでが仕事かって話なんですけど。ディズニーランドで並ばされたニュースがあったじゃないですか。

久野

すみません。そのニュースは知らないです。

安田

休みの日に社員をディズニーランドに連れていって、ファストチケット取るために並ばせてたんですよ。社長の家族が並ばなくていいように。

久野

え!すごいですね。

安田

で、社長は、あれは仕事じゃないって言い張ってるんですね。「昔からの仲いい友達で、社員じゃなく友達としてやってくれた」みたいな。

久野

やらされた社員は何て言ってるんですか?

安田

やらされたほうは「社長命令だから仕方なくやってた。そんなの誰がやりたいんだ」って。これ、仕事かどうかとなったら、どうですか?

久野

仕事でしょうね。

安田

やっぱ仕事ですか。じゃあ例えば、社長や上司が引越しするときに「僕も手伝いに行きますよ」みたいなことになった場合は?

久野

それは好意だと思いたいですよね。

安田

社長が「引っ越し手伝いに来い」って言ったら、これはもう仕事ってことですか。

久野

仕事ですね。

安田

会社の引っ越し作業はどうですか?業務に差し障りがないように、休みの日に社員が出てきて引っ越し作業するというのは。時間外手当とか出ないと思うんですけど。

久野

今はそれも仕事だと思います。

安田

仕事ですか。

久野

はい。

安田

なるほど。シビアですね。

久野

ディズニーランドの件もそうですけど、指揮命令があったかどうか。

安田

社長は命令してないって言うんですけど。でも社長に頼まれたら断れないですよね。やらざるを得ない。

久野

それは「黙示の指揮命令があった」というふうに捉えられるんで、労働ではないけど、労働的な性質はかなり強いですね。

安田

じっさい頼んでますからね。頼まれないのに勝手に並ぶ人なんていませんよ。

久野

たとえば「俺、明日ディズニーランドに行くんだよね」としか言ってないと。そしたら気を利かしてA君がディズニーランドの前に待ってて。

安田

「やります!」みたいな。

久野

ということであれば、仕事ではないと思うんですけど。

安田

頼んでもいないのに来たら、かえって迷惑だと思いますけど。

久野

まあ普通に考えたら、何かしら指示があったと思いますね。

安田

そうですよね。じゃあゴルフはどうなんですか。休みの日にお客さんに呼ばれて仕方なく行くとか。

久野

切り込みますね(笑)

安田

だって、断ったら仕事に差し支える場合もあるじゃないですか。そういうのって時間外労働になるんですか?

久野

時間外手当を払ってる会社は少ないでしょうね。ただ、ラウンド代を会社負担にすると労働だと判断される可能性はあります。

安田

プレイ代を会社が払っちゃいけないってことですか?

久野

多分これ、会社は「行ってきてほしい」と思ってるはずなんです。だからプレイ費を払った瞬間に労働だと見なされますね。

安田

じゃあプレイ代を払わない方がいい?

久野

支払わないほうがいいと思います。

安田

行くんだったら自分の金で行かす。そうすれば「プライベートだ」という判断になると。

久野

そうですね。

安田

会社で払ってたら業務だと見なされてもしょうがない?

久野

しょうがないですね。

安田

じゃあ夜の接待はどうなんですか。お客さんと食事したら会社の経費で落とすじゃないですか。

久野

落としますね。

安田

ゴルフと同じだとしたら、ご飯食べてる時間は業務ってことになりますよね。

久野

今、結構その請求を受けてますよ。

安田

そうなんですか!でもこれ言い出したら、莫大な残業があると思うんですよ。

久野

あるでしょうね。

安田

社長と食事に行って、ずっと仕事の話をするとか。説教を聞かされるとか。日常茶飯事ですよ。

久野

中小企業の社長さんは、社員を連れて食事をするのが好きですからね。

安田

あと自慢話も好きですよ(笑)。こういうのも後々残業代として請求される可能性があるってことですか?

久野

多分これからは出てくるでしょうね。

安田

へー。じゃあもう、うかつに飲みに誘えないですね。社長は社員と飲みに行くなってことですか。それとも割り勘にすればいいんですか。これを逃れるためには。

久野

最終的には当事者間の信頼関係になると思います。万能な法律じゃないので。

安田

連れていかれた側が「嫌だったけど仕事だから行った」と感じてたら、もうこれは仕事になっちゃうと。

久野

基本原則はそうですね。悲しいですけど、もし請求されたら「これはもう自分の人間性の問題だ」と自覚するしかない。

安田

信頼関係のない、残業代請求してくるような人を、連れだしちゃいかんってことですね。

久野

社長にも問題があるんじゃないですか。

安田

そんなことで請求されるのは、社長の人格に問題があるからだと。

久野

実際に請求されてる例を見るとそう感じますね。

安田

ちなみに朝礼はどうなんですか。9時始業なんだけど、8時から朝礼とか、ミーティングとか、ラジオ体操とかあるじゃないですか。

久野

掃除とか朝礼は結構多いですよね。中小企業では。

安田

早めに出社して自分の身の周りを片付けるのは、自己管理な気もするんですけど。これはどうなんでしょうか、法的には。

久野

法的には、たぶん労働時間だと判断されるでしょうね。

安田

労働時間ですか。

久野

うちも大体10分前から掃除が始まるんですけど。

安田

10分前に来ることが会社で決まってたら、これはもう労働になると。

久野

なる可能性が高いでしょうね。

安田

朝早く出社して、みんなでビルの周りを清掃する会社とか、結構ありますよ。

久野

ありますね。

安田

「隣近所までやりました」みたいなのがSNSで上がってたりするんですけど。あれは労働ですよね。

久野

全員参加だったら労働ですね。

安田

来たい人だけ来るんだったら。

久野

それは労働じゃないです。

安田

でも掃除に対してお金払うなんて、そんな概念今までなかったじゃないですか。朝礼だって仕事というより準備体操みたいな感じだし。

久野

私もそう思いますよ。同じ経営者として。ただこれからはもう、それでは通用しないということなんですよ。


久野勝也
(くの まさや)
社会保険労務士法人とうかい 代表
人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。
事務所HP https://www.tokai-sr.jp/

 

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

中小企業が抱える
三重苦(採れない、辞める、生産性が低い)を、
三重丸(採れる、辞めない、生産性が高い)へ。
6つのステップで支えます。

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