さよなら採用ビジネス 第47回「Xデーはいつなのか」

この記事について

7年前に採用ビジネスやめた安田佳生と、今年に入って採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第46回「業界が消滅するとき」

 第47回「Xデーはいつなのか」 


安田

豊田章男さんの発言がネットで叩かれてます。

石塚

「終身雇用」は無理って、言っちゃいましたね。

安田

過去最高の30兆円の売上だそうです。

石塚

はい。業績は過去最高ですね。

安田

役員も2億ぐらい報酬取ってて、ネットでは「ふざけんな!」みたいになってます。

石塚

「終身雇用」の話と「役員報酬が高すぎる」っていう話は、切り分けて考えなきゃいけないと思いますよ。

安田

まあそうですよね。完全に感情的になってますね。

石塚

はい。

安田

じゃあ、終身雇用に関してはどうなんですか。過去最高の業績でも無理なんでしょうか?

石塚

終身雇用に関しては、これはもう当然の話で、無理に決まってるんですよ。

安田

トヨタでも?

石塚

無理、無理、絶対無理ですよ。

安田

さすがにトヨタだったら、いけるんじゃないかと思ったんですけど。

石塚

だって、会社の寿命のほうが、どんどん短くなっていくじゃないですか。

安田

それは、トヨタといえども?

石塚

もちろんですよ。もしモータリゼーションそのものが、完全に電気自動車に移り変わってしまったらどうですか。

安田

どうなるか分からないと。

石塚

たとえば中国は内燃機関が遅れてたので、一気にハイブリッドを越えて電気自動車にいった。その分、いま逆にリードしちゃってるわけですよ。

安田

電動バスとか、すごく進んでるらしいですね。

石塚

面白い時代で、遅れてたのが逆にアドバンテージになって、先を行ってしまう。

安田

キャッシュレスとかも、そうですよね。

石塚

決済もそうじゃないですか。中国の方がずっと進んでる。あれ、相当焦りあると思いますよ。

安田

とはいえトヨタは過去最高売上ですよ。

石塚

いまの時点はね。でも、怖さしか感じないと思います。何がどう追ってくるかわからないし。

安田

もうちょっと業績下がってから、それこそ電気自動車にやられて「もう無理」となったら、世の中も納得すると思うんですけど。

石塚

そんな悠長なこと言ってられないですよ。

安田

そこまで切羽詰まってるようには見えないですけどね。

石塚

自動車って、新車出してから8年というのがひとつのスパンなんです。

安田

ひとつのスパン?

石塚

新車でコケると8年間負け続けるんですよ。

安田

なんと!8年間も負け続け。

石塚

新車で売れないってことは中古車市場もだめだから。8年間にわたってマイナスがずっと続くんですよ。

安田

怖いですね。

石塚

逆に売れると、そのあとの8年って読めるんですよ。

安田

なるほど。じゃあ、トヨタにとって今の業績は織り込み済みだと。

石塚

そういうことです。問題はこの先。

安田

ハイブリッドの特許を公開してましたよね。トヨタは。

石塚

ハイブリッド車やガソリン車が、もしある日パタッと売れなくなったら「どうすんの?」っていう恐怖感があると思う。

安田

あのトヨタが?恐怖感ありますかね。

石塚

大企業って抱えてる人間が大きいから、ネジが逆に回ったら恐ろしいじゃないですか。

安田

そんな最悪の事態まで考えますか。

石塚

豊田章男さんの発言を聞いてると「トヨタが車を売れなくなったらどうするか」ってことを必死になって考えてるように感じますね。

安田
なぜ、わざわざ「無理です」ってマスコミで発表したんですかね。社内に危機感が足りないってことですか?
石塚

現場は言われたことを一生懸命やってると思いますよ。

安田

じゃあ、誰向けですか。もしかして日本の大企業を代表して発表したってことですか?

石塚

はい。そうだと思います。

安田

ということは、他の大企業も次々にあの流れで発表するんですか?

石塚

おっしゃるとおり。「トヨタが言ってるんですから、ウチだってそうせざるを得ません」って、労働組合向けにも話せるじゃないですか。

安田

便乗しちゃうわけですね。

石塚

あれだけ影響力のある企業がそれを発信するってことは、もう、そっちでシナリオができてるんですよ。

安田

でも、トヨタの社長にしたら、なかなかしんどい役回りじゃないですか。

石塚

いつものことじゃないですか。

安田

経団連の会長に頼まれたんですかね。

石塚

うーん、まあ、あうんの呼吸があるんじゃないでしょうか。

安田

あうんの呼吸ですか。

石塚

トヨタはトヨタで「いつ言おうか」と思ってたし、「こういうタイミングだから、うちも『終身雇用は難しい』って言います」って。

安田

ちなみに「いつか言わなくちゃいけない」「もう無理だね」っていうのは、何年ぐらい前から分かってたんですか。経営陣は。

石塚

バブルはじけてからずっと。この20~30年そうじゃないですか。

安田

それをずっと引きずり続けてきたわけですか?

石塚

そうですよ。

安田

でも、トヨタの社長といえども、無理だからって「いきなり解雇」はできないですよね。

石塚

もちろん。

安田

じゃあ、どうなっていくんですか?

石塚

選挙が終わってから、解雇規制の法律を緩める圧力をかけますよね、当然。

安田

緩めるっていうことは、つまり「お金を積めば解雇していいよ」ってことになる?

石塚

おっしゃるとおり。

安田

指名できるってことですか?「あなたは解雇」みたいな。

石塚

それも含めて「一定の要件を満たせば解雇OK」というふうに踏み出したい。

安田

一定の要件っていうのは、どういうのが予想されるんですか?

石塚

本人とこういう点に合意すれば、何年分の給与で解雇OKとか。

安田

でも、希望退職で辞めてくれないような人は、絶対合意しないんじゃないですか。

石塚

どこまで法律で認めるか分かりませんけど、使用者側に有利に法規制を変えるんじゃないですかね。

安田

使用者側に有利に?

石塚

ボタンをピッと押したら切り離される、っていうふうにしたい。

安田

それはもう実質的に、条件うんぬんじゃなくて解雇OKってことなんじゃ?

石塚

まあ、そうでしょう。

安田

そうなりますか?

石塚

たぶん経営者はみんな、中国みたいなモデルを望んでると思うんですよ。

安田

中国のモデル?

石塚

中国は報償も高いんですが、その代わりに「ダメって言ったらダメ」みたいな。「もう終わり」って言ったら終わり。

安田

そこまでドラスティックに変わりますかね。

石塚

やらざるを得ないでしょね。

安田

政治家は決断しますか?

石塚

そのときの社会状況にもよりますけど、まず選挙の問題がありますよね。「解雇規制緩めます」なんて言った瞬間に、たぶん落とされると思うんで。

安田

間違いないです。

石塚

だから選挙が終わってから。

安田

ということは、次の選挙後って感じですか?

石塚

まあ、可能性はあると思いますよ。

安田

最短だったらいつ頃ですか?

石塚

オリンピックが終わったら、いろんなことが一斉に始まる気がしますね。


石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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