勝ちどころ・負けどころ

全国規模のチェーン店をつくる。
人通りの多い場所に出店する。
どの店でも同じ味・同じサービスを徹底する。
知名度、立地、オペレーションは、
間違いなくこれまでの勝ちどころであった。
だがそれは今、負けどころへと変わりつつある。

かつての消費者にとって、
確かにチェーン店はメリットがたくさんあった。
まず、どこにでもある。
知らない街に行っても、いつもの料理が、
いつもの価格で提供される。
それは、とても大きな安心感。
しかも安い。

それに比べて、知らない店は不安だらけだ。
味もサービスも価格も分からない。
裏通りにある、価格も公表されていない、聞いたことがない店。
そんなものは、怖くて入れたものではない。
目立つ場所に、みんなが知っている看板を掲げておけば、
黙っていても人が集まって来る。
それがかつての常識だったのである。
だがその常識は、ネットとスマホの登場によって一変した。

今や大人から子供まで、
消費者はGoogleという機能を持ち歩いて生きている。
どの街に行こうが、
彼らは評判のお店を瞬時に見つけることが出来る。
隠れた名店も、ややこしい場所にある店も、
簡単に見つけ出し、辿り着いてしまうのである。

もはやどんな街の、どんなに怪しい店構えの店でも、
消費者に不安はない。
なぜならば、実際にその店に行った人たちの手によって、
料理、サービス、価格など、
あらゆる情報が公開されているからである。
隠れていれば、隠れているほど、
その店に行ってみたいという欲求は高まる。
変わっていれば、変わっているほど、
特定の消費者にはドンピシャで響く。

誰もが知っている、どこの街にもあるチェーン店。
それを選ぶ理由はもはや、
安さ、早さ、便利さなどの機能でしかない。
だがそれを追求すればするほど、利益は薄くなっていく。
仕事は過酷になり、人が採れなくなっていく。

今、消費者が求めているのは、私だけの店だ。
みんなが知っている店ではなく、私だけが知っている店。
目立つ場所にある大きな店ではなく、
目立たない場所にある小さな店。
全国どこでも食べられる料理ではなく、
ここでしか味わえない料理。

つまり、知名度、立地、オペレーション、という要素が全て、
負けどころになってしまったのである。
これまでの勝ちどころが、勝ちどころではなくなる。
そして逆に、負けどころになってしまう。
そのような逆転現象が、
あらゆる業界を飲み込んでいくのである。

有名なことではなく、無名なことに価値がある。
安いことではなく、高いことに価値がある。
早いことではなく、遅いことに価値がある。
現にそういうお店に、行列が出来ている。
そして、そのような商品が、あちこちで売れ始めている。

今、経営者に求められるのは、
私たちだけの勝ちどころを、見つけ出すことである。
そしてそれを、私たちだけの顧客に届けること。
みんなを顧客にしようとしてはならない。
無意味な効率化と無意味な拡大が、
大事な勝ちどころを、負けどころへと変えてしまうのである。


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