7年前に採用ビジネスやめた安田佳生と、今年に入って採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。
第65回「誰が資本を持つべきなのか」
いま韓国の自動車会社でストが起こってまして。
韓国GMですよね。
「こんな給料じゃやってられない」って現場が止まってる。社長は「だったら韓国でつくらなくてもいいよ」みたいな。
社長はもう縮小の方向に動いてますね。
でもGMに限らず自動車業界全体が厳しい状況じゃないですか。
マーケットの縮小、電気自動車、自動運転などなど。課題は山積みですから。
ガソリン車はもう売れなくなると言われてますけど、この業界はどうなりますか?
生き残る方法はもう2つしかなくて。ひとつは新たなマーケットを切り開くこと。
新たなマーケットですか。
南米とかアフリカとか。もし経済成長すれば車がたくさん売れる可能性があるエリア。もうひとつは次世代自動車の開発。
現実的には次世代自動車じゃないですか。
いや両方やらないと生き残れないです。最先端の研究開発もしなきゃいけないし、縮小していくマーケットでのパイは確保しなきゃいけないし、新しい市場は開拓しなきゃいけないし。
でもニューマーケットって生産現場でもありますよね。そこが経済成長したら人件費も上がってしまいます。
おっしゃるとおり。
ということは、これまでの価格では車を提供できないってことになりませんか?
おそらくそれまでに技術革新が起こるでしょうね。いまの車のコンセプトからかなり発展したもの。
価格も安くなるってことですか?
そうなるでしょうね。あとは運転しなくて済むような自動運転装置。
でもアフリカの人が普通に車を買えるようになるには、彼らの人件費が爆発的に上がる必要があります。そうなると販売価格も上がりませんか?
それって従来の内燃機関エンジンで動く車のイメージですよね。たぶんまったく違うコンセプトの、ITのデバイスに近いようなものが出てくると思います。
するとどうなるんですか?
安田さんが想定しているよりも、はるかに安い自動車が誕生する。10万とは言わないけど20万〜30万ぐらい。
そんなにですか!
さらにそれらがIoT化されていて、車で儲けるのではなくGoogleのようなプラットフォームで稼ぐようになる。
ちょっとイメージが湧かないですけど。
たぶん私たちの想像を超える、最先端のびっくりするような研究を日夜やってると思いますよ。
いままでの延長線上ではない、想像がつかないようなテクノロジーで、劇的に安くなると。
なるでしょうね。間違いなく。
でもそこまで行くと、既存の自動車メーカーは生き残っていけるんですか?
たぶん合併再編ですよ。
またですか。
最終的には世界で4〜5社になるんじゃないですか。新規参入も含めて。
業界の顔ぶれもガラリと変わる?
でしょうね。車の概念が変わっちゃったら、工場を閉めるどころじゃなくて、生産設備や人員そのものがいらなくなる可能性もある。
たとえばパソコンはもう、日本やアメリカではつくってませんけど。車もそうなる可能性はありますか?
ありますね。人口が多くて人件費が安い国にどんどん移動していく。
じゃあ自動車も日本のお家芸ではなくなってしまう。
おっしゃるとおりですね。車のメーカーすべてが生き残ることは不可能でしょう。
世界で4〜5社に絞られると。
ひょっとしたら世界で3社ぐらいかもしれませんね。アメリカ系と、中国系と、ヨーロッパ系みたいな。「さて、日本のトヨタってどこに入るの?」みたいな話になるのかもしれません。
トヨタさんは、そういうことも想定してるんですかね。
社長はもう毎日考えてると思いますよ。
豊田社長って本当にいつもそう言ってますよね。「車が売れなくなったらどうするのか?」ということを常に想定されてる。
日産の西川社長は、そんなこと考えてるように見えないですけど。
自分のことしか考えてないでしょうね(笑)
ゴーンさんの方が良かったってことですか?
まあ「どっちもどっち」ですね(笑)
どちらも会社のためではなく、私利私欲?
私利私欲でしょうね。
日産ってもうダメダメなんですか。
日産って現場レベルは凄いんですよ。現場はかわいそうだと思います。
そうなんですか。
最先端技術をやってる社員とかは「ふざけんなよ」って思ってますよ。
なぜこんなことになっちゃったんでしょう。
日産の経営不振をルノーが救済したっていう、究極の“借り”をつくってしまったから。資本の論理で何も言えない。
でも抵抗してますよね、今。
かつての日本航空を見てるみたいですね。政治と絡んだ内紛で「本当はこうあるべきもの」がどんどん曲がっていく。
本来こうあるべきもの?
自然淘汰の原理ですよ。市場に選ばれる強い会社だけが生き残るべきなんです。
じゃあもう日産はルノーの子会社だと割り切るべきなんでしょうか?
実際そうですから。
でも社長をはじめ経営陣は「業績が回復したので、ルノーは出ていってほしい」って感じじゃないですか。
無理でしょうね。
でも技術力はあるんですよね?
はい。本社のルノーをはるか上回る、さすが「技術の日産」というDNAが残ってます。
経営だけルノーに任せて、日本人は現場に徹するというのはどうなんですか?
いいように搾取されるんじゃないですかね。
じゃあ、どっちに転んでもしんどい。
フランスは植民地支配でもすごくシビアでドライで、何も渡しませんでしたからね。
でも香港を見てると「イギリス時代の方がよかった」って感じですけど。
今の中国共産党よりはマシなんでしょうね。
日産の社員からしたら、今の西川社長とルノーの支配と、どちらがいいんでしょう?
究極の選択ですね(笑)。どっちがいいんですかねぇ、ホントに。
まあ社員は選べませんけど。
いやでも10年後はそうなってるかもしれませんよ。資本がどっちにあったほうが幸せなのか。社員はそれを見て選ぶようになるかもしれない。
石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。
安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。