7年前に採用ビジネスやめた安田佳生と、今年に入って採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。
前回は 第72回『そこに愛はあるのか』
第73回「外食上場企業のジレンマ」
大戸屋さんでお家騒動がありましたよね。
はい。後継問題で揉めちゃいました。
お家騒動がどうなってるか知らないんですけど、業績はものすごく赤字みたいです。
はい。赤字ですね。
「安売りの限界じゃないか」って言われてますけど。消費者のコメントを見ても「昔に比べて高くなったから、もう食べない」みたいな。
固定ファンがいるので、冷静にいまの業態を少し磨けばそんなに大崩れはしないと思います。
一定のファンは残っていくと。
はい。根強いファンはいますよ。
大戸屋って家庭料理の延長みたいな店じゃないですか。
普段使いできる店がコンセプトですから。
普段使いということは「量があって、おいしくて、毎日食べても飽きない」みたいな。
そのとおり。
でも採用コストとか現場コストを考えると、安売りって無理があるじゃないですか。
たぶん大戸屋は店舗をいっぱいつくり過ぎたんだと思います。
どういうことですか?
大戸屋のいちばんのお客さんって、ランチだったら栄養のことをちょっと気にして、しっかり食事しないといけないっていう人たち。
はい。
夜だと、独り暮らしで家庭の味が恋しい、体によいものを食べたいっていう人たち。その人たちにとっては少しぐらい高くても単価は合ってた。
なるほど。じゃあ店舗を増やしすぎてターゲットがブレてしまったと。
そう思います。広げすぎてマーケットもちょっと飽きてきた。
大戸屋本来のコンセプトと合わなくなってきたってことですか?
単に家庭的なお惣菜とかならもっと安くパーツで買える。社員食堂おかんもあるし。
何ですか?それ。
おかん知りませんか?
知りません。
会社の給湯室とかに冷蔵庫とセットで置いてあって、チンすればサバの味噌煮とかができちゃう。全部レトルトパウチで。
富山の「置き薬」的な?
そうそう(笑)。それを会社が福利厚生でやってたりするんですよ。もう外食って、競争相手がどこから飛んでくるかわからない時代。
たしかに。
忙しいとか、面倒くさいとか、雨降ってるときとかに、おかんだったらチンすればおいしいご飯が食べられる。どんどんそういうものにも置き換わっていく。
でも大戸屋って、社員さんが「お店でひとつひとつ」手づくりしてるんですよね。
そのとおりです。
ぜんぜん違う気がするんですけど、価値が。
そういう価値を求めている人にはウケますけど。味だけならレトルトも今すごく進化してますから。無添加で真空パックで。
確かに。コンビニの弁当も美味しくなりましたもんね。
テクノロジーの進歩って食品加工業界もすごいんですよ。「これだったら店に行かなくてもいいよね」ってレベルまで来てる。
そこまで来てますか。
はい。それともうひとつ大戸屋の弱点はひとり層に偏りすぎたこと。
ひとり層?
今度どっかの大戸屋で観察してみてください。みんなひとりです。
へぇ。
大戸屋って基本ひとり需要なんですよ。
たとえばOLさん。手づくりのものをひとりでゆっくり食べたいという人。
なるほど。かなりターゲットは絞られますね。
はい。個人で食べる人がほとんど。単価もすぐ1,000円超えるんですよ。
結構高いんですね。
ちょっと何か1品つけるとすぐ1,080円とか1,160円になります。
意外とOLさんってランチにお金をかけるんですね。
いや、それが厳しいから「おかん」に取られるわけですよ。
ああ、なるほど。ちなみにおかんはいくらぐらいなんですか?
5〜600円です。
じゃあコンビニ弁当と一緒ぐらい?
そのとおり。「大戸屋、いいけど高いよね」となる。それとプラスして店が増えすぎて飽きられた。
それでも石塚さんは「一定数は残る」と見てるわけですよね。
はい。煮込んだり、しっかり素材からつくったり、「ちゃんとした和食」って意外にありそうでない。
じゃあ狙いは良かったと。
はい。狙いは間違ってなかった。だけどお店をつくり過ぎた。
そもそも「外食の一大勢力にまで拡大するのは難しいモデルだった」ってことですか?
広げるっていうことは、飽きられるのも早いっていうことですから。
ということは、ある程度縮小していって適正規模にまで絞れば、生き残れる可能性はある?
と思います。ところがそこに来て件のお家騒動だから。
縮小して利益を残すのは、なかなか株主が「うん」とは言わないですよね。
そうなんです。だから騒動になってるんです。
そもそも大戸屋って上場企業ですよね。
はい。
上場企業が縮小して利益を出すことなんて許されるんですか?基本的には拡大し続けて利益を増やし続けないといけない気がするんですけど。
おっしゃるとおり。上場企業としての大戸屋を考えた場合、当然投資家は「増収増益をお願いします」っていう話になる。
ですよね。「縮小して、利益は減るけど黒字にし続けます」なんて経営目標は、株主が「イエス」って言わない。
株主総会が大荒れするでしょうね。「もう1回原点回帰して磨き直したいから縮小します」とか言ったら。
そもそも上場に向いてない会社だったんですかね。
外食企業の上場って難しいんですよ。
そうなんですか?たくさんありますけど。
チェーン店がウケてた頃はよかったんですけど。
時代は変わってしまったと。
だってすぐに飽きられるじゃないですか。もうあっという間ですよ。
確かに。安さも求められるし、採用コストもかかるし。
上場してしまうと適正規模で止められないんですよ。
拡大し続けるしかなくなると。
はい。止められないです。右肩上がりを常に描き続けるしかない。
石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。
安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。