ベーシックインカムの境目

コロナで多くの死者を出し、
大きな経済的ダメージを受けたスペインは、
ベーシックインカムの導入を宣言している。
ポストコロナはベーシックインカムが
世界標準となるかもしれない。

だが日本には
“働かざるもの食うべからず”の格言がある。
これは日本人のDNAに刻み込まれた
掟のようなものである。
食いたければ働け。
働かないものに食う資格はない。
つまり死ねということ。

食料が絶対的に不足していた時代なら、
この格言にも納得感はあっただろう。
だがこれをそのまま現代社会に当てはめることは難しい。
生まれながらに障害を負っている人。
貧困家庭に生まれた子供。
精神や肉体を病んで働けなくなった大人。
そのような人たちに“死ね”とは言えないのが
現代社会の空気である。

実際、国から生活保護を受けている人は
200万人以上もいる。
実に50人にひとりの割合である。
働けない人がほとんどだろうが、中には働かない人、
働きたくない人もいるだろう。

生活保護受給者がパチンコに行った。
生活保護受給者のくせに車を持っている。
そういう人間は許すまじという空気がこの国にはある。
その根底にあるのが
“働かざるもの食うべからず”の精神なのだ。

どのような事情であれ
生活保護受給者への風当たりは強い。
そんなわが国においてベーシックインカム導入は
簡単なことではないだろう。
そんなことをしたら誰も働かなくなる。
どうやって国を成り立たせるのだ。

そう声高に叫ぶ人たちは
もちろん勤勉な労働者たちである。
俺は働いているんだ。
俺だってしんどいんだ。
お前らだけ楽をすることは許さん。
それが彼らの主張なのである。

では彼らは本当に働いているのか。
当たり前だ!毎日きちんと仕事してるし
税金だって収めている。
そう反論する人の中には、
大企業でリストラ対象となっている
高給取りも含まれている。
彼らは会社にとっての赤字社員だ。

利益には貢献しないのに
所属しているだけで給料を支払う義務がある。
赤字国民と赤字社員は一体何が違うのだろうか。
日本人だから保証される人と、
社員だから保証される人。
国が払うか会社が払うか。
ただそれだけの違いである。

役所に行って生活保護を申請する行為と、
会社に行ってタイムカードを押す行為。
そこに他人を罵れるほどの大きな違いはあるのか。
彼らは認めなくてはならない。
すでに所属する会社から
ベーシックインカムを受け取っているという事実を。

 


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1件のコメントがあります

  1. 赤字社員と赤字国民の相違を納得しました。
    新たな観点、気付き、ありがとうございます。

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