2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。
第141回「小さくまとまるススメ」
アップルと日本メーカーの決定的な違いはどこだと思いますか?
アップルは「もっといいものありませんか?」って聞き続けるけど、日本企業は「もっと安くなりませんか?」って言い続ける。
それは購買担当が?
購買担当だけじゃないですね。企業文化というか。アップルは「よい性能」や「よい発想」を常に吸収しにいくけど、日本企業は値段だけ。
なるほど。
とにかく「もっと安くならないの?」って。もう、根本的なところで、すごい差が開いてしまっている。
とはいえアップルも、いくらでも金を出すわけじゃないですよね。当然、同じものだったら安いとこから買うわけでしょう。
革新性があるものは「なんとか製品に組み込めないか」って、まず取り入れる姿勢がある。
日本メーカーにはないんですか?そういう姿勢。
いやぁ、たぶん日本のメーカーって、そういうのをどこかで落としてきちゃった。
落としてきちゃった?
バルミューダみたいに「ないものをつくろう」という気概がない。「そんな革新的なものでメシなんか食えない。現実的なことを考えないとだめだよ」みたいな。
へえ。
独創性とかイノベーションより、目の前の経営数字を追うようになって、もう20年以上が経ってる。
アメリカにも昔ながらの大企業ってあるじゃないですか。GEとか。
アメリカの場合は、新しく出てきたGAFAみたいな会社と、健康的に入れ替わってます。
なぜ日本は、昔ながらの大企業が、いつまでもトップなんでしょう。誰の責任ですか?これは。
うーん……。「誰が」っていうことでいえば、教育の責任かもしれませんね。
でも松下幸之助や本田宗一郎は、べつにすごい教育を受けて育ったわけじゃない。
時代が違いますよ。いまみたいな人のつくり方って、戦後に始まった話じゃないですか。
そうなんですか。
戦前は尋常小学校を出ると、12歳で人生の選択をしなくちゃいけなかった。
へえ。
だから12歳までに生き方みたいなものを学び、自分と地域、あるいは家族というものを、よくも悪くも結びつけて考えてました。
戦後それが変わっちゃったと。
戦争に負けてどうやって国を復興させようかってときに、吉田茂さんは明治の富国強兵以来の「ものすごい人口増加」に注目したわけです。
大量生産・大量消費ってことですか。
内需拡大による経済の活発化ですね。そこで一発逆転するしかないと決めて、突き進んでいった。で、これが当たった。
当たりましたね。
当たったことで、このモデルをずーっと維持してしまった。誰の責任かといえば、結果的にこれが責任なんだと思う。
人口が減少したのは、べつに誰の責任でもないですけどね。
富国強兵の時に、国策でとにかく多産を奨励したわけじゃないですか。
そうですね。
あれを戦後やめちゃったわけです。
その割には、企業も社会制度も、ぜんぶ人口増を前提につくられてますよ。
おっしゃる通り。
誰の責任かわからないですけど、そこがズレちゃったことは確かですね。
人口増加を前提とした成長モデルを、いまだにスイッチできない。
もう一度、人口増社会に持っていくか。あるいは人口減に合わせた仕組みにするか。
まあ現実的には後者でしょう。
ひとりあたりの生産性を高めるってことですね。
それしかない。けどそのやり方がわからない。
「人を増やしてみんなでがんばる」という戦略は、日本人に合ってたんでしょうね。
そう思います。
「ひとりひとりが価値を生み出す」という戦略が、日本人に合ってるのかどうか。
たとえば安田さんみたいな人って、たぶん今も一定数いると思うんですよ。
私みたいな人ですか。
規格外の才能っていうか。けど小中学校でスポイルしちゃうと思うんですよ。規格に当てはめちゃって。
私は小中学校ではかなり浮いてました(笑)
独創的なことを考えたり、根本的なことをひっくり返すような人にとって、相変わらず生きづらい社会なんですよ。
石塚さんは「江戸時代はいい時代だった」っておっしゃるじゃないですか。
江戸時代はいいですよ。それぞれが得意なことを仕事にして。今よりはるかに多くの職業が成り立ってました。
だけど江戸時代ってずっと横ばいなんですよ。経済成長が。
そうですね。
「ひとりあたりの生産性を上げる」といっても、やっぱりどこかで限界が来ますよ。
それでいいんじゃないですか。
横ばいは受け入れざるを得ないと。
今より下がることも含めて、受け入れざるを得ない。
ある程度まで下がってからの横ばいでしょうか。
そうそう。売上や利益を増やすんじゃなく「どれだけ楽しいか」「どれだけ面白いか」を尺度にしていく。
それしかないですよね。
だって人口増えないですもん、どう考えたって。
いまだに増やそうとしてる人はいますけど。
無理無理(笑)
日本の高度成長って人口増がベースでしたもんね。ひとりひとりが爆発的に能力を伸ばしたわけじゃなく。
人口増加が大きな成長要因だったことは間違いないでしょう。
ですよね。それを「一人当たりの生産性」に切り替えるって、可能なんでしょうか。
安田さんと話してたら無理な気がしてきました(笑)
たとえば国や企業のトップ層を、海外から引っ張ってくるのはどうですか。
それぐらいやらないと変わらないでしょうね。無理でしょうけど。
無理ですか。
それこそオリンピック組織委員会の、委員長を替えるような話で。どうせ「出来レース」ですよ。
じゃあ打つ手はない。
マーケットを小さく切り取って、独創的な会社をたくさんつくって、みんなで楽しいことをやったほうがいい。
生産性はもう度外視して?
そう度外視して。家業の単位で「みんなで楽しいことをやろうよ」って。
石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。
安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。