第141回「小さくまとまるススメ」

この記事について

2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第140回「表に出てはいけない人」

 第141回「小さくまとまるススメ」 


安田

アップルと日本メーカーの決定的な違いはどこだと思いますか?

石塚

アップルは「もっといいものありませんか?」って聞き続けるけど、日本企業は「もっと安くなりませんか?」って言い続ける。

安田

それは購買担当が?

石塚

購買担当だけじゃないですね。企業文化というか。アップルは「よい性能」や「よい発想」を常に吸収しにいくけど、日本企業は値段だけ。

安田

なるほど。

石塚

とにかく「もっと安くならないの?」って。もう、根本的なところで、すごい差が開いてしまっている。

安田

とはいえアップルも、いくらでも金を出すわけじゃないですよね。当然、同じものだったら安いとこから買うわけでしょう。

石塚

革新性があるものは「なんとか製品に組み込めないか」って、まず取り入れる姿勢がある。

安田

日本メーカーにはないんですか?そういう姿勢。

石塚

いやぁ、たぶん日本のメーカーって、そういうのをどこかで落としてきちゃった。

安田

落としてきちゃった?

石塚

バルミューダみたいに「ないものをつくろう」という気概がない。「そんな革新的なものでメシなんか食えない。現実的なことを考えないとだめだよ」みたいな。

安田

へえ。

石塚

独創性とかイノベーションより、目の前の経営数字を追うようになって、もう20年以上が経ってる。

安田

アメリカにも昔ながらの大企業ってあるじゃないですか。GEとか。

石塚

アメリカの場合は、新しく出てきたGAFAみたいな会社と、健康的に入れ替わってます。

安田

なぜ日本は、昔ながらの大企業が、いつまでもトップなんでしょう。誰の責任ですか?これは。

石塚

うーん……。「誰が」っていうことでいえば、教育の責任かもしれませんね。

安田

でも松下幸之助や本田宗一郎は、べつにすごい教育を受けて育ったわけじゃない。

石塚

時代が違いますよ。いまみたいな人のつくり方って、戦後に始まった話じゃないですか。

安田

そうなんですか。

石塚

戦前は尋常小学校を出ると、12歳で人生の選択をしなくちゃいけなかった。

安田

へえ。

石塚

だから12歳までに生き方みたいなものを学び、自分と地域、あるいは家族というものを、よくも悪くも結びつけて考えてました。

安田

戦後それが変わっちゃったと。

石塚

戦争に負けてどうやって国を復興させようかってときに、吉田茂さんは明治の富国強兵以来の「ものすごい人口増加」に注目したわけです。

安田

大量生産・大量消費ってことですか。

石塚

内需拡大による経済の活発化ですね。そこで一発逆転するしかないと決めて、突き進んでいった。で、これが当たった。

安田

当たりましたね。

石塚

当たったことで、このモデルをずーっと維持してしまった。誰の責任かといえば、結果的にこれが責任なんだと思う。

安田

人口が減少したのは、べつに誰の責任でもないですけどね。

石塚

富国強兵の時に、国策でとにかく多産を奨励したわけじゃないですか。

安田

そうですね。

石塚

あれを戦後やめちゃったわけです。

安田

その割には、企業も社会制度も、ぜんぶ人口増を前提につくられてますよ。

石塚

おっしゃる通り。

安田

誰の責任かわからないですけど、そこがズレちゃったことは確かですね。

石塚

人口増加を前提とした成長モデルを、いまだにスイッチできない。

安田

もう一度、人口増社会に持っていくか。あるいは人口減に合わせた仕組みにするか。

石塚

まあ現実的には後者でしょう。

安田

ひとりあたりの生産性を高めるってことですね。

石塚

それしかない。けどそのやり方がわからない。

安田

「人を増やしてみんなでがんばる」という戦略は、日本人に合ってたんでしょうね。

石塚

そう思います。

安田

「ひとりひとりが価値を生み出す」という戦略が、日本人に合ってるのかどうか。

石塚

たとえば安田さんみたいな人って、たぶん今も一定数いると思うんですよ。

安田

私みたいな人ですか。

石塚

規格外の才能っていうか。けど小中学校でスポイルしちゃうと思うんですよ。規格に当てはめちゃって。

安田

私は小中学校ではかなり浮いてました(笑)

石塚

独創的なことを考えたり、根本的なことをひっくり返すような人にとって、相変わらず生きづらい社会なんですよ。

安田

石塚さんは「江戸時代はいい時代だった」っておっしゃるじゃないですか。

石塚

江戸時代はいいですよ。それぞれが得意なことを仕事にして。今よりはるかに多くの職業が成り立ってました。

安田

だけど江戸時代ってずっと横ばいなんですよ。経済成長が。

石塚

そうですね。

安田

「ひとりあたりの生産性を上げる」といっても、やっぱりどこかで限界が来ますよ。

石塚

それでいいんじゃないですか。

安田

横ばいは受け入れざるを得ないと。

石塚

今より下がることも含めて、受け入れざるを得ない。

安田

ある程度まで下がってからの横ばいでしょうか。

石塚

そうそう。売上や利益を増やすんじゃなく「どれだけ楽しいか」「どれだけ面白いか」を尺度にしていく。

安田

それしかないですよね。

石塚

だって人口増えないですもん、どう考えたって。

安田

いまだに増やそうとしてる人はいますけど。

石塚

無理無理(笑)

安田

日本の高度成長って人口増がベースでしたもんね。ひとりひとりが爆発的に能力を伸ばしたわけじゃなく。

石塚

人口増加が大きな成長要因だったことは間違いないでしょう。

安田

ですよね。それを「一人当たりの生産性」に切り替えるって、可能なんでしょうか。

石塚

安田さんと話してたら無理な気がしてきました(笑)

安田

たとえば国や企業のトップ層を、海外から引っ張ってくるのはどうですか。

石塚

それぐらいやらないと変わらないでしょうね。無理でしょうけど。

安田

無理ですか。

石塚

それこそオリンピック組織委員会の、委員長を替えるような話で。どうせ「出来レース」ですよ。

安田

じゃあ打つ手はない。

石塚

マーケットを小さく切り取って、独創的な会社をたくさんつくって、みんなで楽しいことをやったほうがいい。

安田

生産性はもう度外視して?

石塚

そう度外視して。家業の単位で「みんなで楽しいことをやろうよ」って。

\ これまでの対談を見る /

石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

感想・著者への質問はこちらから