2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。
第154回「新卒一括採用がなくなる日」
入社して1か月以内に離職する新人が増えているそうです。
3.8%と書いてましたね。
転職エージェントの意見としては「1か月で辞めた人をとる会社は少ないから、もうちょっと働いてから辞めたほうがいい」って。
いやいや。合わないんだったら早いほうがいいです。
ネットもそういう意見が多かったです。
だって早いほうがいいでしょ。合わないんだから。
次の就職に影響が出ませんか?
そこを考えないといけないですよね。早期で辞めることのデメリットはまさにおっしゃる通りなので。
そこはエージェントの言う通りだと。
「辞めるのはいいけど、あなた、どれぐらいの確率で決まるの?」ってことですよ。でも新卒の場合はほぼリスクないです。
え!そうなんですか?
「すみませんでした。こういう理由で僕が間違えました。就職活動をやり直したんです」って言ったら、またすぐ決まります。
へえ〜。決まりますか。
決まります。
転職エージェントには「『卒業してからフリーターをやってた』と書いておきます」って言われたそうです。すぐ辞めたらイメージが悪いので。
いやいや。嘘をつくと、あとでバレたときに大変ですよ。嘘はダメ。
ですよね。
正直に言って大丈夫です。
1か月で辞めた理由がちゃんと納得のいくものだったら、それでいいと。
相手が納得してくれるかどうかは別ですけど。事実は事実として伝えないとだめ。
なるほど。
たとえば某国立トップ大学を出て、4月1日でやめた人がいるんです。
ほお。
でも、それは事実として消せないじゃないですか。1回入ったわけですから。
はい。
まあ本人には本人なりの理由があるんでしょう。
さすがに1日で辞めるとかなりマイナスイメージですよね。
「そんな人間はダメだ」って会社は採らないでしょうね。僕だったら逆に「どうして1日で判断したの?」って聞いてみたいですけど。
へぇ~。
大きく分けて理由は2つあると思うんですよ。会社が合わなかったか、そもそも会社勤めが向かないのか。このどちらか。
なるほど。
会社勤めが向かないのであれば採らない。「それは会社との相性だな」って場合は、相性が合いそうならオファーは出します。
「合う合わない」って1日で分かりますか?
安田さんが今の時代に学生だったら、1日で「僕辞めます」って言うと思いますよ。
確かに。私は言いそうですよね(笑)会社員には向かないタイプですから。
でしょ(笑)
1日で辞めちゃう子って、そもそも会社員に向いてないんじゃないですか。
いや、合う会社はあると思います。
へえ〜。そうですか。
はい。合う会社はあります。
たとえば、どういう理由だったら転職に差し支えないんですか?
裁量や自由度が極端にないとか。言われた通りにやらなきゃいけない職場だとか。「合いません」っていうのは理解できます。
それって就職活動で分かった上で入って来るんじゃ。
いやぁ、分からないですよ。そんなきちっとした就職活動になってませんから。
そうですかね。
常々思いますけど、リクルーターと呼ばれてる入社1・2年目の人間に、事業や会社の実態なんてわかるはずがない。
確かに。
本当は現場の最先端でやってるマネージャーに、よさも悪さも含めて実態を聞いたほうがいいんです。だけどそういう人は採用には一切出てこないじゃないですか。
忙しいですからね。
だから会社の説明は表面的になってしまう。このギャップは昔よりも広がってると思います。
エステの業界に入った人が「資格を取る費用や、スキルを覚えるための費用が給料から天引きされて、手取り5万円しかなかった」って。
よくある話ですよ。
これを入社前に聞いてないって、さすがにひどいですよ。
ひどいと思いますけど、よくある話です。
最初から騙すつもりでやってるってことですか?
そうでしょうね。
でも1か月で辞められたら会社もかなり痛手ですよ。入社前にちゃんと説明したほうがいいと思うんですけど。
それやったら集まりませんもん。
そうですけど。
たとえばメガバンクだって「『営業』って言葉は絶対使っちゃだめですよ」って言われるんですから。
そうなんですか。
「だって、入ったら営業だろ」「ダメです!石塚さん。それじゃいい学生とれないんです」って。もう新卒一括採用は限界なんですよ。お互いが本音を隠すから。
じゃあ「このぐらいは辞めるだろう」というのは織り込み済みだと。
企業側は「こんなもんだろう」っていう歩留まりで納得してると思う。
今後も騙し合いの構図は変わらないですか。
この先22歳人口が減るので、ますます奪い合いになるわけですよ。要するに、あんまりシリアスな、シビアなことを言ったら来ないじゃないですか。
確かに。
ますますニンジンをぶら下げるし、甘い言葉を言うし、なるべく学生の意向を聞こうとするし。
「転勤がなくて、副業もできて、テレワークの会社です」みたいな。
おっしゃる通り。
だけど、そんな甘い条件で選ぶ人材って戦力になるんですか?
結局のところ「新卒採用って何だろう?」ってことですよ。
ひとことで言えば「いい人材の囲い込み」じゃないですか。
つまり「その会社にずっといる」ということが前提なわけです。
もはや新卒採用は「いい人材」を採るための手法ではないと。
終身雇用が事実上なくなったとき、新卒一括採用の意味もなくなったんです。
石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。
安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。