第199回 美徳が足枷になる国

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第199回「美徳が足枷になる国」


安田

海外での出稼ぎニュースが増えてきましたね。

久野

これからどんどん増えていくと思います。

安田

週5日、1日8時間勤務で、日本で20万だった人がカナダに行ったら43万!

久野

オーストラリアに行く人も多いです。

安田

オーストラリアは時給がめちゃくちゃ高いみたいですね。

久野

出稼ぎでは大人気です。労働規制も厳しいので割増賃金が日本より高いんです。最低賃金も高いし。

安田

すし屋で年収8000万になった人もいるそうです。

久野

自分のお店をつくったみたいですね。

安田

日本ですし屋をやろうと思ったら、結構な修行期間が必要じゃないですか。

久野

そうですね。修行期間が長いし、報酬はそんなに高くないし。

安田

雇われ職人だと年収300万円台だそうです。ちゃんと握れる人でも。

久野

日本は飲食が安いですから。そのぐらいの報酬じゃないと成り立たないんでしょうね。

安田

どれぐらいのスキルがあれば海外で雇ってもらえるんでしょう。

久野

海外のお寿司って手巻きが多いんです。だから、怒られちゃうかもしれないけど、日本でめちゃくちゃ修行しなくても行けるんじゃないかと思います。

安田

若くても腕のいい職人さんっていますもんね。

久野

日本人の職人の手つきを見て、すごく感動するみたいです。雰囲気がぜんぜん違うらしくて。

安田

私は20歳の時に、アメリカで初めてすし屋に行ったんです。日本人がオーナーやってる店でしたけど。

久野

初めてが海外なんですね。

安田

当時はまだ日本に回転ずしもなくて。簡単に食べられるものじゃなかったです。値段も書いてなくて。

久野

昔のお寿司屋さんってそんな感じでしたよね。時価とか書かれていて。怖くて頼めない(笑)

安田

そうなんですよ。それで日本に帰ってきて、初めて寿司屋に入った時に感動しました。こんなにも違うのかと。

久野

日本の飲食は凄いですよ。

安田

料理は繊細だし接客は丁寧だし。接客の仕事だけでも海外に行けば相当稼げそう。

久野

海外の接客業はチップがたくさん貰えるので。

安田

そもそも最低賃金がオーストラリアでは2000円を超えてるそうです。イギリスが1600円、ドイツが1750円、アメリカのカルフォルニア州は2200円だそうです。

久野

日本はようやく961円ですから。やっぱり若い人は海外に行くでしょうね。

安田

東南アジアの研修生も「日本に行きたくない」って人が増えてるそうです。

久野

昔みたいに稼げないので。もう日本は働き先じゃないって言ってます。

安田

そうですよね。稼ぐ場所ではなく使う場所になってる感じ。これはこれで良いことなんでしょうか。

久野

由々しき事態ですよ。円安なので海外からいっぱい人が来てくれて、観光先としては潤っていいと思うんですけど。国内で稼げない国になってきてます。

安田

どこかで逆転することはないですか?とことん安くなったら、また世界の工場が日本に戻ってくるとか。

久野

労働力がないじゃないですか。確かに賃金は安いんだけど、めちゃくちゃ採用コストは高いし。すぐに日本に戻そうって発想にはならない気がします。

安田

採用や育成にお金がかかりますもんね、日本は。

久野

そうですね。かといって前ほど勤勉じゃないし。労働法は複雑だし。海外の会社から見ると、日本で事業やるのは大変なんですよ。いろんな行政手続きとかも複雑で。

安田

なぜそういうところを簡素化しないのか。不思議です。

久野

それは経産省も認識してるみたいです。だけど変えられない。だから海外の会社が日本に来ることも少ない。海外で稼いでる日本企業は円安で潤ってるし。

安田

潤ってますね。これって一時的な円安なんでしょうか?日本の国力を考えたら「こんなもんか」って気もしますけど。

久野

もうちょっと頑張れるんじゃないですか。

安田

130円ぐらいにはなりますか。

久野

100円は切れないかもしれないですけど。それぐらいに戻ってほしいです。

安田

100円は無理でしょう。130円ぐらいが実力じゃないですか。今ちょっと安過ぎる感じはしますけど。

久野

このままだと物価がどんどん上がって大変なことになりますよ。

安田

物価が上がっても賃金はずっと横ばいで。

久野

海外の物価は日本以上に上がってるので、もう日本人は海外旅行なんて無理です。本当に金持ちしか行けない。

安田

日本で1000円もしないUNIQLOのシャツが、ニューヨークで買うと4000円ぐらいするそうです。

久野

ラーメンも4倍ぐらい違います。日本も物価が上がってますけど、原材料分を上げてるだけなので報酬アップまでいかない。

安田

値上げするとお客さんが離れちゃいますし。「いいものを安く売る」という感覚が完全に染み付いちゃってます。

久野

値上げしないと自分たちの給与が増えないってことを、ちゃんともう1回インプットしないと。

安田

少しぐらい高くても買えってことですか。

久野

売る側も高く売るために努力しないと。

安田

給料が増え続けていた頃は、みんな家を買い、車を買い、家電を買いで、お金を使いまくってましたけど。

久野

そこに戻さないといけないです。高く売って同時に給料も増やさないと。

安田

当時はみんな未来を信じていたと思うんですよ。だけど今はどこを見て信じればいいのか。政治家を見たら余計に信じられないし。

久野

インフレ脳とデフレ脳というのがありまして。インフレ脳って、とにかく「今日よりも明日の方が貨幣価値が下がる」「今使わなきゃ」という発想なんですよ。

安田

じっさい貨幣価値は下がってますけど。

久野

日本全体を信じられないと、そういうマインドにはならないんです。先にお金を使うという人が増えない。

安田

先にお金をどんどん使おうなんて人はいませんよ。

久野

そうなんです。やっぱり給与が増えるという期待感がないと使わないですよね。

安田

増えないどころか手取りは減ってますから。

久野

値上げと同時に社員の給与を上げる戦略しかないです。

安田

同時とは言ってもどっちかが先ですよね。

久野

まず値上げですよ。

安田

値上げして売れますかね。先に給料を増やしても使わない気がするし。

久野

売れる商品もあると思います。たとえば「すごく安くて、おいしくて、混んでるお店」とか。値上げすればいいんですよ。

安田

確かに。並ばないと食べられないぐらい人気でも値上げしないですよね。

久野

1人100円上げるだけで、従業員の給与はけっこう増やせるはずなんです。

安田

人気店はそこを目指すべきだと。

久野

人気店で従業員さんがめちゃくちゃ忙しくても、実はぜんぜん儲かってないんです。安すぎて。

安田

なぜこんな事になっちゃったんでしょうね。

久野

やっぱり国民性でしょうね。みんな我慢しちゃうから。

安田

忍耐が美徳になってますからね。これを変えるのは相当難しいです。

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久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

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