第131回 先送りしているものの正体

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第131回「先送りしているものの正体」


安田

国の借金って、もう1000兆円を超えてるんですよね?

久野

はい。1000兆は軽く超えてます。

安田

これって誰が貸してて、誰が借りてるんですか?ネットを見るといろんな意見があって。

久野

炎上しそうな質問ですね(笑)

安田

久野さんはいつも「日本人が日本の国債を買ってる」って言うじゃないですか。

久野

そうですね。銀行の預金もそこに回ってますから。

安田

ということは、つまり国民が貸してるってことですよね?国にお金を。

久野

そうです。

安田

なのに、それを返済するために税金を上げるって、これどういうことなんですか。

久野

納得いかないですよね(笑)

安田

そりゃそうですよ。国民から借りた金を返すのに、国民から取ってどうするんだって。どういうことなんですか?これは。

久野

要はキャッシュの問題です。現金がないので、使いたいお金を借りてこなきゃいけない。

安田

それは分かります。

久野

だけど返しきれていないので、その分どんどん借金が積み上がってる。

安田

そこまでは理解できます。理解できないのは、なぜそれを返すために税金が上がるのか。

久野

国というのが1人の人間だとすると、収入源は国民が払う税金ですよね。

安田

はい。それしかないですね。

久野

だけど国民がそれ以上に「お金を使いたい」と言ってるわけです。そしたら誰かから借りてくるしかなくて、それを国民から借りてきてる。それだけの話。

安田

収入源は国民しかないから、国民から取るしかない。だけど借金も国民から借りてる。

久野

そう。国民から借りてる。だけど国民に返してもらうしかない。

安田

ということは今後も「国民が欲しがるなら、さらに国民から借りる」そして「国民に返させる」それしかないと。

久野

国の借金問題というのは、そもそも国が何年生きるかって問題なんですよ。

安田

え?どういう意味ですか。

久野

たとえば日本が「あと2年で終わるよ」っていったら、安田さんは是が非でも2年以内にお金を返してほしいでしょ?

安田

私は貸してませんけど。

久野

貸してます(笑)

安田

貸した覚えないんですけど(笑)貸してるんですね。

久野

税金を払ってる時点で、貸してるようなもんです。

安田

おそらく、みんなその自覚がないと思います。

久野

そこはまた別の問題ですけど。とにかく貸したお金を回収しようと思うじゃないですか。

安田

そりゃ思うでしょうね。貸しているとしたら。

久野

だけど誰も日本が終わるとは思ってないんですよ。日本人は。

安田

思ってませんね。

久野

たとえば国の寿命が1万歳だとしたら、今の借金って大した問題じゃないんです。

安田

なぜ?

久野

返済を先延ばしにすればいいだけだから。

安田

先延ばしにしても、いつか返さなくちゃいけないです。

久野

いえ極論すれば返さなくてもいい。日本という国がずっと続くなら、それで問題ないわけです。

安田

それは国民が貸し続けてくれるから?

久野

そう。だけど仮に日本があと10年しかもたないと国民が思ったら、これはとんでもないことになる。

安田

つまり「日本はずっと破綻しない」と国民が思っていれば、借金がたとえ5000兆になっても問題ないってことですか。

久野

国際的にはいろいろ言われますけど、理論上は問題ない。

安田

1000兆の時点で、すでに異常な借金国ですもんね。

久野

だけど円は暴落してないでしょ。

安田

それは日本国民が「日本は大丈夫だ」と信じてるからですか。

久野

そうです。信じてるから日本はすごいんです。

安田

1000兆も借金のある国の通貨が国際的に信頼されるのは、ひたすら国民が信じているからだと。

久野

もしこれが海外だったら銀行に預金者が殺到します。ドルに換えておこうみたいな話になるので。

安田

借金が1000兆を超えても、日本人は誰も銀行に行きませんもんね。

久野

日本人はすごく平和なんですよ。日本のことをすごく信じてるので。

安田

たとえば国民にも貸すお金がなくなっちゃったら、これはどうなるんですか?

久野

誰も国債を買えなくなるとまずいです。ただし最後は「刷っちゃえばいいんじゃないか」って説はあります。

安田

どんどん刷って、どんどんばら撒いても、問題ない?

久野

国民が円を信用している限りは問題ないです。

安田

すごいですね。

久野

はい。日本人はすごいんです。

安田

じゃあアメリカが自国の借金を増やさないのは、国民が信用していないからですか?

久野

アメリカと日本では位置づけが違うんですよ。アメリカはやっぱりドルのクオリティーを保ちながらやっていかなきゃいけない。

安田

ドルが暴落したら世界中が混乱しますもんね。

久野

世界経済が大変なことになります。それにアメリカは税収が増え続けている国ですから。借金を増やし続ける必要がありません。

安田

そこが日本との決定的な違いですか。

久野

はい。増益し続ける会社と減益し続ける会社の違いですね。かじ取りがぜんぜん違う。

安田

会社だったら減益が続けばどこかで破綻しますけどね。

久野

減益し続けているのに国民が貸し続けてくれる。これが日本の謎ですよね。アメリカは増収してるのに「10年後、20年後はどうなるか分からないよね」というカルチャー。

安田

なるほど。つまり行き着くところはカルチャーですか。

久野

やっぱりそこが違うんだと思います。

安田

日本は完全に先細りじゃないですか。この先どんどん人口が減っていって、だんだん弱っていくわけですよね。しかも介護や医療に莫大なお金がかかる。

久野

その通りです。

安田

それを支えていくのは日本人の信用しかないと。

久野

ないです。

安田

もしそれがなくなった時はどうなるんですか?

久野

最終手段はインフレですね。要は借金の額を実質的に目減りさせていく。

安田

円という通貨を暴落させて、実質的な借金を減らすってことですか。

久野

いつかはそれをやるしかない。今はそのXデーを未来に先送りしてるだけです。

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久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

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