第158回「大手という信用はもうない」

この記事について

2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第157回「買収に備えて準備せよ」

 第158回「大手という信用はもうない」 


安田

石塚さん、「冷蔵庫を買うなら三菱だ」って断言してましたよね?

石塚

はい。僕は入荷まで4か月待って三菱を買いました。(第153回「パナソニックはもう買うな!?」)

安田

その三菱電機で不正があったみたいです。「おお、三菱おまえもか」って感じですけど。

石塚

三菱電機にもいろんな事業部門があるから。別々の会社みたいなもんですよ。

安田

冷蔵庫では不正はしてない?

石塚

冷蔵庫は良心的だと思います。家電量販店で販売員に聞けば分かります。

安田

ホントですか。

石塚

パナや日立から来てる販売員に「休みの日、友人に『選んでくれ』って言われたらどれ選ぶ?」って聞いたら、みんな「三菱です」って言う。

安田

へえ〜。

石塚

だけど今回の不正はまずいですね。電車の運転に関わる「大事な部品」なので。

安田

乗客の命に関わるとこですよ。

石塚

おっしゃる通り。検査自体を誤魔化してたみたいで、あれはまずい。

安田

前に神戸製鋼でも検査の不正がありましたよね。

石塚

ありました。

安田

いろんな業種で大企業の不正が増えてる気がします。

石塚

おっしゃる通り。

安田

大手自身が日本製の信頼を作ってきたのに。「新幹線は絶対に事故を起こさない」とか。それがいま崩れつつある感じ。

石塚

結局、幻想だったんですよ。時代もあったかもしれないけど、それを維持しつづけられないっていうこと。

安田

それは現場のモチベーションが下がってるから?それとも資金的な問題ですか。

石塚

過度な目標設定をなんとかクリアしなければいけないことによる、やむを得ない判断。それが全ての案件に共通すると思う。

安田

なぜそんな無茶な目標を設定するんですか。

石塚

ターゲット数字が厳しいから。そこからブレイクダウンして部門数字に落ちてくると、良心的なことをやってたら利益が出ない。

安田

大企業もそういう状態なんですね。

石塚

どこも厳しいです。「嘘ついてでも目標達成しなければいけない」という構図ができてる。

安田

日本企業って、もっと信頼みたいなものを大事にしてたと思うんですけど。

石塚

かつてはそうでしたね。

安田

だから高くても日本製が売れてきたわけで。そこが自分たちの「売りだ」っていう自覚はないんですか。

石塚

今は株価や四半期決算で市場評価にさらされるから。そんな余裕ないと思います。

安田

へえ〜。

石塚

目線がぜんぶ足元にいっちゃう。

安田

大手はみんなサラリーマン社長ですからね。自分の就任期間の業績を最優先しちゃうんでしょう。

石塚

おっしゃる通り。たださっきも言ったように、部門によってかなり事情は違います。

安田

三菱がいいとか悪いとか、そういう見方には意味がないってことですか。

石塚

三菱のどの事業部門の話なのか。基本的には人事も横には動かないので。総合商社もそうですけど、一度配属された部門でそのまま上がっていくんです。

安田

だから不正が起こりやすい。

石塚

今回の社長も「分からなかった」と言ってます。本当にわからなかったと思う。だって30年にもわたって、あうんの呼吸で隠してきたことですから。

安田

30年って長いですね。

石塚

よその事業部が見て「安田さん、ちょっとあんたおかしいよ」なんて、たぶん分からない。

安田

事業部ごとのカルチャーがあるわけですね。あうんの呼吸で「こっちにしとくか」みたいな。

石塚

そうなんですよ。

安田

それは根深い問題ですね。

石塚

しかも常に高い目標数字を設定されるから、それをクリアしなきゃいけないし。誰かが途中でちゃぶ台をひっくり返せばよかったんですけど。

安田

止める人がひとりもいなかったということですよね。

石塚

「ふざけんな。こんなのできるわけねーだろ」ってことが言えないのが大企業。

安田

辞める覚悟が必要ですか?

石塚

間違いなく外されるし、左遷される。上り詰めるためには、それを呑まないといけない。

安田

だけど上り詰める人なんて少数ですよね。

石塚

ほんのひと握りです。

安田

だったら、もう左遷覚悟でやればいいのに。

石塚

まあ僕らみたいな部外者はそう言えるけど(笑)

安田

当事者には言えませんか。

石塚

大学受験からずっと「俺はトップで来た」って人たちなので。全勝人生の人にとって、そんなことは考えられないんです。

安田

そういう人じゃないと大企業に入れないですもんね。

石塚

入れないし出世しない。大企業は全勝志向の人の集まりです。

安田

出世した人たちがルールをつくるわけだし。

石塚

おっしゃる通り。だから顧客のことよりも常に組織の保身、最後は自分。「そのためにはやむを得ない」ってことになる。

安田

政治家のコロナ対策に似てますね(笑)

石塚

第二次大戦の軍部と同じですよ。「もう日米開戦やむなし」みたいな。「いやいや無理でしょ」って誰か言わなかったのか? って。

安田

事業部ごとに違うと言っても、イメージは全社に影響しますよね?

石塚

もちろん。

安田

じゃあ「ブランドを毀損する事業部」は切り捨てられる?

石塚

そんなことしないです。

安田

しないんですか?

石塚

しないですよ。人の噂も七十五日。ほっかむりきめて、あとはただ耐えるだけ。

安田

マスコミはいつまでも追いかけてきそうですけど。

石塚

いやいや。三菱電機が広告売上にどれだけ貢献してるかってことですよ。スポンサーを怒らせたら番組がつくれないじゃないですか。

安田

確かに。

石塚

ちょっと報道はするけど「今後の成りゆきが注目されます」で終わり。

安田

もはや何を信用していいのかわからないです。

石塚

「大手だから」という信用はもうないと思った方がいい。自分の目で見て確かめるしかない。

安田

だけど冷蔵庫や車の中身って見えないですよ。ある程度の信頼で買わざるを得ないです。

石塚

だから小さいビジネスになっていくんですよ。作り手とお客様とが直につながれるビジネス。

安田

やっぱり、そうなりますか。飲食でも「この人がつくってる」というブランドがいちばん強いし。

石塚

大企業が主導する消費の「カウンター」みたいなもの。それがこの先どんどん増えていくでしょうね。

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石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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