第139回 36協定と厚労省の意図

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第139回「36協定と厚労省の意図」


久野

36(さぶろく)協定の話をしたいんですけど。

安田

36協定ですか。

久野

はい。たまには社労士っぽい対談も(笑)

安田

36協定って何でしたっけ?

久野

安田さん、ご存知ないですか。

安田

前に聞いたような、聞いてないような。

久野

正確には「労働基準法第36条に関する協定書」と言いまして。会社って基本的には残業しちゃ駄目なんですよ。

安田

え!まったくダメなんですか?

久野

基本的にはダメです。それが36協定という書類を出すと、はじめてOKになる。

安田

なるほど。それが36協定だと。つまり残業の許可申請ですね。

久野

そうです。まず労使で合意して残業時間を決めなきゃいけない。

安田

知りませんでした。

久野

今日ここでお伝えしたいのは、2020年4月から中小企業にも残業の上限規制が始まったこと。

安田

それは知ってます。「残業代ちゃんと払えよ」ってやつですよね。

久野

ちょっと違います(笑)重要なのは、枠が決まったということですね。

安田

これ以上はダメだよと。

久野

そう。

安田

それと36協定が関係あるんですか?

久野

じつは36協定の書類って、これまでは法人番号を書く欄がなかったんです。

安田

どういう意味ですか。

久野

すごくないですか?2020年4月からついに番号を書く欄ができたんですよ。

安田

できたらどうなるんですか。

久野

どこが出していないかを監督署が把握できる。

安田

え!今まで把握してなかったってことですか?

久野

してなかったんです。というかアナログすぎて把握できなかった。

安田

だって書類は保管してるわけでしょ?

久野

はい。アナログファイルで保管してました。

安田

ファイルに番号がなかったということは、アイウエオ順に並べてたとか。

久野

いろはにほへと順です。

安田

・・・

久野

本当ですよ。冗談だと思いますよね。

安田

ホントなんですか。

久野

本当にいろはにほへと順でファイルが並んでたんです。労働基準監督署には大きな書庫があって、そこにファイルを保管してたんです。

安田

じゃあAという会社が36協定を出しているかどうか調べるには・・・

久野

ファイルを探すしかなかったわけです。

安田

手作業で?

久野

はい。

安田

それが簡単に分かるようになったと。

久野

そういうことです。で、お伝えしたいのは【労働条件等を整備するための自主点検の実施のお願い】という書類が、労働基準局から送られてるはずなんです。

安田

また長い名前の書類ですね。

久野

簡単に言えば「36協定出してますか?」ってことを答える自主点検表みたいもの。最近これに対する問い合わせが非常に多くて。

安田

いつも思うんですけど。なぜ役所の書類ってあんなに分かりにくいんですか。

久野

分かりにくいですよね。

安田

「36協定出してますか?」「出さないで残業するのは違法ですよ」って書けばいいのに。

久野

そうは書いてないですね。

安田

全部読んだらそういう意味なんでしょうけど。普通の人には読めませんよ。社労士に問い合わせがいくように、わざと分かりにくくしてるとか。

久野

確かにあれで仕事をつくってもらってますね。

安田

そもそも日本の法律って、弁護士さんの解説がないとまったく分からないし。

久野

法律関係の書類って「または」とか「かつ」とか、接続詞がすごく多いので。

安田

どっちなのか分からなくなります。専門の先生に相談するしかない。

久野

士業の人間がそれで食べてることは事実ですね。

安田

その36協定の書類は、返事をしないと「えらいことになる」ってことですか。

久野

そうです。「国が点検表を送る意味は何なのか?」ということが重要でして。

安田

「ちゃんとリマインドしましたよ。次はしっかり取り締まりますよ」って意味じゃないんですか。

久野

それしかないですよね。なので間違いなく2022年のトレンドは「36協定を出してない会社に労基署が来る」ということを予言しておきたい。

安田

出してない事業所ってものすごい数じゃないですか。

久野

ものすごい数でしょうね。これまで半分も出してないですから。

安田

それだけの数を労基署は回れますか?

久野

だからそこを仕組み化しようとしてる。

安田

どのように?

久野

労基署に是正勧告されると厚労省のホームページに公表されるんです。

安田

36協定を出してない会社が分かっちゃうってことですか。

久野

そうです。

安田

それだけ?

久野

そこに載ると、暇な人がブラック企業アラートみたいなアプリに載せちゃう。

安田

そんなアプリ誰が見るんですか。

久野

転職時に見る人が増えてます。

安田

へえ〜。

久野

いずれ厚労省のプラットフォームで「36協定を出しているかどうか」が検索できるようになります。これが一般化すると、就職する前に必ずそこで調べるようになる。

安田

採用にもろに影響するようになってくると。

久野

そういうことです。

安田

大したことなさそうですけどね。

久野

採用だけの話ではないんです。安田さんが考えてるより影響が大きいんですよ。

安田

ピンときませんけど。

久野

36協定を出して残業の許可をもらってる会社と、そうじゃない会社が選別されていくということ。

安田

イメージダウンにつながるってことですか。

久野

間違いなく業績にも影響するようになっていきます。

安田

厚労省はそこを狙ってると。

久野

私はそういう意図だと思っています。企業を選別するための手段として36協定を使う。

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久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

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